投資情報

山本雅文「FX戦略ウィークリー」

シニア・ストラテジスト 山本雅文が国内外のファンダメンタルズ分析を基に、主に米ドル、ユーロ、豪ドル相場の先行きの見通しを分かりやすく、かつ深く鋭く分析し予想するレポートです。

[ プロフィール ]

シニア・ストラテジスト 山本 雅文のレポートは2015年10月30日をもって更新は終了しました。これまでご愛読いただきありがとうございました。

2015年08月10日

米国のローフレーション

先週の特徴:コモディティ通貨の反逆
先週は、Fed高官のタカ派発言や米ISM非製造業景況指数の予想比大幅上振れを受けてドルが対円、ユーロなどで上昇したが、米雇用統計発表後にドルが反落し、結局ほぼ週初の水準に戻ったのが特徴的だった。ドル/円は125円の重さが改めて意識されることとなった一方、ユーロ/ドルはレンジ観が強まった。他方、豪ドルは資源安・米ドル高基調の中でもあまり下落せず、むしろRBAのハト派度後退を受けて反発基調となったのが特徴的だった。この間、ポンドは6日のBoE金融政策・議事要旨・四半期インフレ報告同時発表でインフレ見通しが下方修正されたことや、利上げ支持が9票中1票しかなかったことを受けて早期利上げ期待が後退し、大きく下落した。

今週の見通し:米国のローフレーション(低インフレ)
今週は米国と中国の経済指標が焦点となる。米国では、小売売上高(13日)やミシガン大消費者信頼感(14日)で米経済の牽引役である個人消費の強さを確認できればドル下支えとなる一方、輸入物価(13日)、コアPPI(14日)など川上のインフレ指標は低下予想となっており、ドルは引き続き高値圏ながら方向感が出にくそうだ。他方、中国では主要経済指標(小売売上高、鉱工業生産、固定資産投資)が市場予想を下回ると、中国景気減速懸念が再び強まり、資源安を通じて豪ドルの上値を抑制するほか、下振れが大きいと投資家のリスク回避傾向が強まり、米利回り低下と共にドル/円にも下押し圧力がかかるリスクがある。

今週の経済指標カレンダーはこちら

今週の経済指標カレンダーはこちら

1.ドル/円

先週レンジ:123.80~125.07円(想定より狭いレンジに)
(前週時点の予想:123.0~125.5円)
ドル/円は、4日にLockhartアトランタ連銀総裁が米経済が大幅に悪化しない限り9月利上げを支持するというタカ派的な発言を行ったことを受けて124円丁度近辺から124円台半ばへ上昇、そして5日発表の米ISM非製造業景況指数が60.3と市場予想を大きく上回り10年振りの水準へ改善したことから一時125円乗せへ続伸、更に7日の米雇用統計で非農業部門雇用者数が+21.5万人と市場予想を若干下回ったものの過去計数が上方修正されたことから9月利上げの確率が高まるとの期待から125.07円へ続伸した。もっとも、その後は米雇用統計で平均時給の伸びが前年比+2.1%と市場予想を下回ったことが材料視されたためか、ドル利食いが優勢となり124円台前半へ大幅反落し、結局ほぼ週初の水準に逆戻りした。この間、米ISM製造業景況指数は52.7と前月および市場予想を下回り、米ADP民間雇用も+18.5万人と市場予想を下回っていたが、ドル安は限定的だった。

今週予想レンジ:123.5~125.0円
今週のドル/円の焦点は米経済指標で、小売売上高(13日)やミシガン大消費者信頼感(14日)で米経済の牽引役である個人消費の強さを確認できればドル下支えとなる。一方、輸入物価(13日)、コアPPI(14日)など川上のインフレ指標は低下予想となっており、ドルは引き続き高値圏ながら方向感が出にくそうで、124円台でのもみあいが続きそうだ。
米国では経済活動指標は概ね回復基調にあるにも拘らず、7月31日発表の雇用コスト指数(前年比+2.0%)、先週発表のコアPCEデフレータ(前年比+1.3%)や平均時給(前年比+2.1%)などで示されたようになかなかインフレが加速しない「ローフレーション(lowflation)」状態となっており、金融政策対応が読みにくくなっている。
なお、12日発表の中国主要経済指標の市場予想比下振れが大きいと、投資家のリスク回避傾向が強まり米利回り低下と共にドル/円にも下押し圧力がかかるリスクがある点は注意が必要だ。

2.ユーロ

先週レンジ:1.0848~1.0996ドル、135.00-136.73円(対円はほぼ想定通り、対ドルは上値が下振れ)
(前週時点の予想:対米ドル1.0800~1.1150ドル、対円134.5~137.0円)
ユーロ/ドルも、4日にLockhartアトランタ連銀総裁のタカ派発言を受けて1.09ドル台後半から1.09ドル割れへ急落、翌日5日に1.0848ドルの安値を付けた。5日の米ISM非製造業景況指数発表後のドル高が下押し圧力となったが、直前に発表された米ADP民間雇用の予想比下振れを受けたドル安・ユーロ高が大きく、安値を更新するには至らなかった。その後7日の米雇用統計に向けては1.09ドル台半ばへじり高基調となり、米雇用統計発表直後には一時1.0856ドルへ反落する局面もあったがすぐに大幅反発し、週初の水準である1.09ドル台後半を回復して引けた。引き続き1.08-1.11ドルのレンジ内ながら、ドル高圧力にも拘らずユーロの底堅さを印象付ける展開だった。
ユーロ/円は安定的に推移し、136円丁度近辺から4日から5日にかけてユーロ/ドルの下落と共に一時135円丁度へ下落したが、その後はすぐに136円台を回復した。米雇用統計発表に向けてはドル/円と共に上昇し136.73円の高値を付けたが反落し、結局136円丁度近辺に戻って引けた。

今週予想レンジ:対米ドル1.0850~1.1050ドル、対円135.0~137.0円
ユーロ/ドルは、米経済指標がまちまちとみられるほか、欧州でも材料が少ないことから、1.08-1.11ドルのレンジ内での方向感のない展開が続きそうだ。なお、ユーロ圏では11日にドイツZEW期待指数(29.7から31.9へ改善予想)、13日にECB7月分議事要旨、14日にユーロ圏2QGDP(市場予想は前期と同じ前期比+0.4%)などが発表予定となっており、景況感の改善や成長ペースの維持はどちらかというとユーロ下支えだが、目先の金融政策変更には繋がらないため、ユーロの反応は限定的となりそうだ。

3.豪ドル

先週レンジ:対米ドル0.7260~0.7429ドル、対円89.96~92.24円(予想を上振れ)
(前週時点の予想:対米ドル0.7150~0.7400ドル、対円89.0~91.5円)
豪ドル/米ドルは、資源安・米ドル高基調の中でもあまり下落せず、むしろRBAのハト派度後退を受けて反発基調となったのが特徴的だった。週初3日は、週末1日発表の中国公式製造業PMIが50.0と僅かながら前月および市場予想を下回ったことから、原油など資源価格の下落につれて0.73ドル丁度近辺から下落し0.7260ドルの安値を付けた。もっとも、翌4日にはRBA理事会では一部で期待が高まっていた利下げが見送られただけでなく、声明文で豪ドルに関して、前回までは更なる下落の可能性がありかつ必要、としていた記述が削除され、コモディティ価格の下落に伴い調整(下落)しつつある、という現状追認に変更されたことから、タカ派的な内容と捉えられ、急上昇し0.7429ドルの高値を付けた。
その後6日にかけては豪雇用統計で失業率が6.3%へ予想以上に上昇したことから0.73ドル台前半へ下落したが、7日にはRBAの四半期金融政策声明(SoMP)で、前回5月分と比べて成長率見通しが下方修正されたものの失業率見通しが下方修正、基調インフレ率見通しも上方修正され全体として利下げの可能性を後退させる内容と捉えられたことから反発に向かった。そして米雇用統計発表後は、一時的に米ドル高を受けて豪ドルが反落したもののすぐに反発し、0.74ドル台を回復して引けた。
豪ドル/円も同様に、週初に一時90円丁度割れとなったものの、4日にはRBA理事会結果を受けて92円台へ急上昇し、その後91円台半ばへ小幅に軟化する局面がみられたものの7日にはRBAの四半期金融政策声明を受けて続伸し、92円台を回復して引けた。

今週予想レンジ:対米ドル0.7300~0.7550ドル、対円91.0~93.0円
豪ドル/米ドルは、12日発表の中国の主要経済指標(小売売上高、鉱工業生産、固定資産投資)が焦点で、市場予想を下回ると中国景気減速懸念が再び強まり、資源安を通じて上値が抑制されそうだ。但し、足許は反発基調が強いことから底堅さが続きそうで、豪ドルが再び下落トレンドに回帰するには、相当弱い結果が必要だ。
なお、豪州では11日にNAB企業信頼感・景況感、12日に2Q賃金の発表が予定されているが、こちらも余程弱い結果にならないとRBAの利下げ期待を再び高めるには至らなそうだ。12日と14日にはRBA高官発言(各々Lowe副総裁、Kent総裁補<経済担当>)が予定されているが、理事会や四半期金融政策声明の発表直後であるだけに、目新しい内容は期待し難い。

(数値はBloombergより)

4.その他通貨

ポンド/ドルは、4日のLockhartアトランタ連銀総裁のタカ派発言後のドル高で下落する局面もあったがすぐに反発し1.56ドル台を回復していたが、6日のBoEによる政策決定・議事要旨・四半期インフレ報告・Carney総裁記者会見の同日公表・実施(スーパー・サーズデイと呼ばれる)において、据え置き決定が8対1で、利上げ票が1票しかなかったこと(タカ派のMcCafferty委員)、そしてポンド高の影響で低インフレが長引く可能性に言及され、インフレ見通しが引き下げられたことなどを受けて1.55ドル割れへ下落、そして7日の米雇用統計直後のドル高もあって一時1.5425ドルへ下落した。対円でも、6日には195.25円へ上昇する局面もあったが、BoE金融政策発表や米雇用統計発表後のポンド安を受けて、一時191.98円へ下落した。

今週は12日発表の英7月失業率、週平均賃金が注目で、特に週平均賃金が予想以上に加速するようだとポンドは反発に向かおうが、足許はBoEの早期利上げ期待が後退する中で、予想を下回る場合のポンド続落が大きくなるリスクに注意したい。下値目処としては、対ドルで7月8日安値の1.5330ドル、対円では7月27日安値の191.01円がある。



(※)印刷用PDFはこちらよりダウンロードいただけます。

マネックスレポート一覧

マネックス証券に口座をお持ちでない方はこちら

  • 口座開設・資料請求はこちら(無料)

ご留意いただきたい事項

マネックス証券(以下当社)は、本レポートの内容につきその正確性や完全性について意見を表明し、また保証するものではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を推奨し、勧誘するものではございません。当社が有価証券の価格の上昇又は下落について断定的判断を提供することはありません。
本レポートに掲載される内容は、コメント執筆時における筆者の見解・予測であり、当社の意見や予測をあらわすものではありません。また、提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されることがございます。
当画面でご案内している内容は、当社でお取扱している商品・サービス等に関連する場合がありますが、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。
当社は本レポートの内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。
本レポートの内容に関する一切の権利は当社にありますので、当社の事前の書面による了解なしに転用・複製・配布することはできません。

当社でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動・金利の変動・為替の変動等により、投資元本を割り込み、損失が生じるおそれがあります。また、発行者の経営・財務状況の変化及びそれらに関する外部評価の変化等により、投資元本を割り込み、損失が生じるおそれがあります。信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。

なお、各商品毎の手数料等およびリスクなどの重要事項については、「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みいただき、銘柄の選択、投資の最終決定は、ご自身のご判断で行ってください。

なお、各商品毎の手数料等およびリスクなどの重要事項については、「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みいただき、銘柄の選択、投資の最終決定は、ご自身のご判断で行ってください。

なお、各商品毎の手数料等およびリスクなどの重要事項については、「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みいただき、銘柄の選択、投資の最終決定は、ご自身のご判断で行ってください。