グローバル・マクロ・ウォッチ

チーフ・ストラテジスト広木隆によるグローバル・マクロ解説をお届けします。

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米国雇用統計と市場の反応

2017年3月米国雇用統計サマリー(予想:Bloomberg)

非農業部門雇用者数前月比:
9.8 万人増(予想18.0 万人増)

失業率:
4.5%(予想4.7%)

平均時給:
前月比0.2%増(予想0.2%増)
前年比2.7%増(予想2.7%増)

労働参加率:
63.0% (予想 63.0%)

先週の金曜日に発表された雇用統計の結果については上記サマリーの通りである。すでにメディアその他の報道やレポートで周知のことと思われるので、ここでは雇用統計の詳細に触れることはしない。そもそもエコノミストでない僕が、雇用統計について語ることができるとすれば、マーケットのリアクションについてであろう。先週の雇用統計は、まさにそれを語るにふさわしい(?)ような数字が出た。

ヘッドラインのNFP(非農業部門雇用者数)が伝わったときは、さすがに目を疑ったが、一部で今回のNFPは天候要因でぶれやすいとの観測もあったので、それほど大きな驚きではなかった。僕が驚いたのは、マーケットが驚かなかったことである。

僕が想定している雇用統計イベントで売買する為替マーケットのプレーヤーというのは、半分が「確信犯的に」(つまり承知のうえで)数字だけに反応して売買するトレーダー、残りの半分が「機械」、すなわち文字通り、マシーン・ラーニング(機械学習)をするAI運用、アルゴリズムを組み込んだCTA、HFT(高速高頻度取引)などで占められているという認識であった。そうであるなら、今回のNFPには、もっと激しいマーケットのリアクションがあって然るべきと思ったが、実際は下記のグラフの通り、瞬間的には反応したが、それもたかだか50銭程度、その後すぐにマーケットは売られたドルを買い戻す方向に動き、発表後20分でもとの水準に戻ってしまった。

雇用統計発表前後の米ドル/円の値動き

(出所)Bloomberg


確かに今回の雇用統計はすでに報道されている通り、弱い内容ではない。労働参加率が変わらないなかで失業率は4.5%と前月より0.2ポイント低下し、2007年5月以来9年10カ月ぶりの低水準となった。NFPの増加幅は市場予測(18万人)を大幅に下回り、昨年5月以来10カ月ぶりの低水準となったが、上述の通り天候による特殊要因の影響があるうえ、3ヶ月平均でみれば17.8万人と極めて良好な数字だ。

だがしかし、こうしたことは発表からしばらく時間が経って冷静になって言えることではないか。NFP 9.8万人と出た直後がドルの安値で、もみあったのが5分足らず、その後はじりじりと戻しに入っている。ヘッドラインの数字だけに反応するプレーヤーの行動にしては、冷静になるのが早過ぎないか。

仮説のひとつは、AIがそこまで学んだ、ということだろう。NFPの予想との乖離でポジティブ・サプライズ/ネガティブ・サプライズを判断して単純に売り買いするレベルではもはやないのかもしれない。だとすると、それは相場にとっては歓迎すべきことであろう。人間のプレーヤーにとっては別であるが。

3月17日付のストラテジーレポートで引いた言葉を再度、掲げておこう。 「ニュースは重要ではない。市場がニュースにどう反応するかが重要なのだ」(ジョセフ・グランビル 「グランビルの法則」で有名なアナリスト)

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