1. 市況レポート

グローバル・マクロ・ウォッチ

チーフ・ストラテジスト広木隆によるグローバル・マクロ解説をお届けします。

広木 隆が投資戦略の考え方となる礎を執筆しているコラム広木隆の「新潮流」はこちらでお読みいただけます。

広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)

雇用統計事前予想と米国マクロ変調の兆し

これは「グローバル・マクロウォッチ」ではなく、「ストラテジーレポート」で書くべきことかもしれない。僕は、4月以降、不確実性の高まりを受けて、相場に臨むスタンスを慎重なものに変えた。しかし結論から言えば、4月中に波乱は起きず、むしろフランス大統領選の第一回目投票が無難な結果となったことで相場はリスクオンに傾いた。それでもまだ僕は、米国GDP下振れのリスクなどを指摘して慎重姿勢を崩さず、戻ったところは売りで対処するように勧めた。果たして米国GDPは0.7%と市場予想を大きく下回る低調な結果となった。ところが、である。マーケットはまったく反応せず、世界的に株価は堅調で、ドル高円安が進み、6月のFOMCでの利上げ観測も相変わらず高いままである。

僕には、現在のマーケットは楽観的過ぎるように映る。僕の相場観は弱気に転換している。理由は、北朝鮮でも日本企業の業績でもない。米国景気の循環論的な観点からである。

先週末発表された米国のGDPの下振れは、1-3月期の統計が弱めに出る季節要因だから心配無用と切り捨てる論調が多い。しかし、本当に、季節要因や天候による一時的なブレと捉えてよいのだろうか。僕はそう思わない。米国の自動車販売をはじめとする消費動向や、住宅市場などで変調の兆しが見え始めている。 米供給管理協会(ISM)が発表した4月の製造業景気指数は54.8と、前月の57.2から低下し、昨年12月以来の低水準となった。予想の56.5も下回った。警戒を解くべきではないというのが僕のスタンスだ。

ニューヨークから届いたDeepMacro社の今回のレポートは、そうした見方をしている僕にとって、とてもエンカレッジングな(勇気づけられる)内容だった。非常に重要な示唆が述べられている。ぜひ参考にしてほしい。

弱いGDPは、弱かった3月のNFP(非農業部門雇用者数)を裏付けているか?
一部の人にとって、先週金曜日に発表された2017年第一四半期の米GDPの弱い伸びは、3月のNFPの予想外の大幅下落(4月上旬に発表)を追認するものでした。つまり、アノマリー(異常値)のように見えた3月のNFPは、実は経済全体で起きていたことと一致していたのかもしれない、という見方です。

我々はそこまでとは考えていません。「ビッグデータ」を情報源として集計した、労働市場のアクティビティを示すボトムアップの指標は、米国企業の労働需要の底堅さを指し示しています。しかしながら同時に、労働市場の根底にあるいくつかのトレンドは、労働市場がピークに達していることを示唆しており、これが経済全体に反映されている可能性があります。


新規求人数は依然として強い
我々の雇用に関する主要なデータソースは、約3万社の米国企業のHR(人事)ウェブサイトに掲載される求人情報です。ある企業が自社のウェブサイト上に求人広告を投稿すると、それを我々は新しい「求人」としてカウントします。新しい求人は、企業からの労働需要の増加を意味し、雇用成長の先行指標の一つとなります。

4月の新規求人数は早いペースで増加を続けました(図1を参照)。我々は3月のNFPレポートに計上されたと思われる新規雇用の「カットオフライン」(期限)を便宜上3月12日としました。グラフ内の縦線は3月12日を示しています。毎度ながら、雇用が生み出された正確な月を特定するのは難しい場合があります。なぜなら、NFPの調査週は毎月12日を含む「給与期間」が対象であって、必ずしも毎月12日ではないからです。3月のレポートで我々が捉えた数字の強さの一部は、実際4月の結果に遅れて反映されるだろうと、予想しています。全体としては、米国企業の「アニマルスピリット」は依然として健在のようです。


また、月100万件を超える新規求人数の合計は、毎月のNFPの数値の動きを説明する力があるということを我々は見出しています。(DeepMacro社の成長ファクターで測定される景気サイクルの全体的な強さといった、その他の要因と合わせて考えた場合)つまり、4月のNFPは、3月の非常に弱い数字から回復することが見込まれます。


衰退期に入る景気サイクルと、減速する雇用の伸び
しかしながら、他のデータはそこまで強くありません。図2は同じデータセットを使用して、新規求人数ではなく、実際にその月に求人が埋まった数としての新規雇用数(企業の求人ページから求人が取り下げられた数から推計)を集計したモデルの分析結果です。このモデルは、6ヶ月から2年までの時間軸における、様々なセクターの雇用状況の中から、共通の動きを発見するためにデザインされた統計モデルです。


我々がこの分析を行う理由は、求人によっては景気の目先の変動に呼応して求人の募集や停止を行い、その期間があまりにも短いため、データの単純なノイズに見える(そして、おそらくノイズである)ためです。他の求人は、より長い期間にわたって行われるため、全体的な景気サイクルに対する反応や期待、労働者の供給状況といった構造的な要因を反映しています。何れにしても、このモデルは、今年に入って数ヶ月間、雇用の伸びが減速していたことを示唆しています。


労働市場は完全雇用に近いが、賃金下落の明確な兆候は見られない
賃金について。一方で、労働需要はかなり堅調に見えます。他方、実際の雇用は減速しているように見えます。これは景気サイクルが衰退していくに連れて発生する、いくつかの長期的な問題を反映している可能性があります。実際、2017年に入って、DeepMacro社の米国の「成長ファクター」は(確かに「拡大」期にとどまっているものの)ほとんど加速していません。全体として見ると、これはどういうことなのでしょうか?


図3は、我々が測定する労働の「超過需要」と時間当たり平均賃金(AHE)の伸びを比較したものです。ここでは「超過需要」を新規求人数から新規雇用数を引いたもの、と定義しています。これは言い換えれば、ある月に、企業がどれくらいの数の雇用を埋めようとし、結果として埋められなかったか、を測定するものです。


この図が示すように、超過需要と賃金の間には基本的に正の関係があります。平均時給は2015年秋以来0.7%上昇しており、労働の超過需要も概ねプラスとなっています。労働の超過需要が依然として前年比プラスで、失業率が「NAIRU」(インフレ率を加速させない失業率)の推定値の範囲内であることを考えると、平均時給は緩やかな上昇を続けていくと見られます。


また、この二つの折れ線グラフは短い期間では連動する傾向があります(特に昨年は顕著に)。2017年2月、2016年11月、2016年8月に労働の超過需要は前年比で減少しましたが、平均時給の上昇率も同様に減少しました。2017年4月に、労働の超過需要は前年比で減速しています。最近のこの傾向が続くとすれば、 4月の平均時給の伸びもやや減速する、と我々は予想しています。


この2点を合わせて考えると、4月の平均時給が下落するという明確な兆候は見られません。むしろ、逼迫する労働市場環境の中では、緩やかな増加が見込まれます。


FOMC会合がNFP発表の前に実施されますが、我々は何の変化もないと予想しています。しかし、4月の雇用レポートの基調は、FEDに対して一息つく時間を与えることになるだろう、とも考えています。DeepMacro社のグローバルシステムが示唆するこの一ヶ月の主要なトレンドは、インフレ圧力が弱まっている、ということです。米国経済がグローバルなインフレ圧力に対して敏感であることと、4月の雇用レポートが緩やかな伸びを示す可能性が高いことを考えると、FEDが6月に急いで行動することは考えにくいでしょう。


この最後の観測 - 「6月利上げはない」という予想 - は僕と同じであり、そして少数派である。先物市場が織り込む6月利上げの確率は70%を超えている。今は少数意見である「6月利上げ見送り」という見方が市場で多数派になっていけば、ドル円相場はじわりと円高が進むだろう。そうならないケースは6月の利上げが見送られた時点で、サプライズで急速に円高になるだろう。

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