グローバル・マクロ・ウォッチ

大槻 奈那

チーフ・アナリスト 大槻 奈那によるグローバル・マクロ解説をお届けします。

大槻 奈那 プロフィール

米国のイールド・カーブの急速なフラット化とその影響

・金利動向に注目が集まる中、米国の長短金利差の縮小、すなわち、イールドカーブのフラット化が著しい。FRBによる短期金利の引き上げと、成長期待の後退・予想インフレ率の低下が背景

・カーブのフラット化は、利上げ局面でしばしば見られるが、特に今回は、日欧のマイナス金利で、従来より長期金利が上がりにくい。FRBの資産縮小と追加利上げでも長期金利上昇は限定的か

・現在FRBの資産圧縮予想で、金利差の割にドル高だが、イールドカーブのフラット化が更に進めばドル安に向かう可能性も。業界的には不動産、インフラ系にプラス、金融業界にマイナス

米国のイールドカーブは急速にフラット化

米国では、FRBの利上げとともに、期間ごとの利回りを示すイールドカーブの"フラット化"が進んでいる(図表1)。金利は、通常、長い期間のものほど高くなるため、イールドカーブは右肩上がりの曲線となる。しかし、米国の利上げが加速した昨年末以降、長短の利回り差が縮小し、カーブの傾きが緩やかになっている。

例えば、米2年国債の利回りは、1年前の0.75%から、現在1.35%へと0.6ポイント上昇した。一方、30年国債の利回りは、現在2.7%であるが、1年前の2.5%程度から殆ど変わらない。

この結果、30年債と2年債の利回り差は、1年前の1.75%から1.35%へと大幅に縮小した。

こうしたイールドカーブのフラット化の背景には、FRBの利上げで、債券市場の景気拡大・インフレ率上昇の期待が後退していることがある。つまり、今回に始まったことではなく、利上げ局面で常にみられる現象である(図表2)。

特に今回は、これまで以上に米国の長期金利は上昇しにくい。他国がいまだに超低金利政策から抜け出せないため、イールドを追う債券投資家のマネーが米国に集まりやすいためである。

実際足元でも、じわじわと個人消費や物価に弱い動きが出始めている。6/16に発表された米消費者マインド指数は、昨年10月以来の大幅な下落となり、大統領選以降の改善分を打ち消した(図表4)。6/30に発表される5月のPCEデフレータも前回から下落が予想されている。

これらの点から、今後FRBが9月にバランスシートの圧縮を開始し、12月までに追加利上げを実施した場合、イールドカーブのフラット化が続く可能性が高いだろう。

イールド・カーブフラット化の影響

米国の長短金利差は、為替レートとも相関が高い(図表5)。足元では、米FRBのバランスシート縮小の早期開始の思惑から、長短金利差縮小の割に、ドルが強い動きを示しているが、今後更に金利差が縮小した場合、再びドル安方向に向かう可能性が高いだろう。

業界別でみると、長期金利の上昇が押さえられることでプラスの影響を受けうるのは、不動産業界(図表6)やエネルギーなどのインフラ産業である。一方、マイナスの影響を受けうるのは金融業界、特に長期の資産・負債を抱える保険業界である。

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