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広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)

2017年10月米国雇用統計プレビュー

今回の雇用統計のポイントは、前回同様、「ハリケーンの影響」である。但し、方向性は真逆で、前回はハリケーンの影響による落ち込みが焦点だったのに対して、今回はその反動がどうでるかというのが焦点になる。DeepMacroの分析は以下の通りである。

「10月に入って雇用活動は回復したが、9月の減少分を完全に取り戻すにはやや及ばなかった。新規採用数は前月比で21%増加し、9月の21%の減少をちょうど埋め合わせた形となったが、新規求人数は9月の23%減少に対し、10月は12%の増加にとどまった」

これをもとにDeepMacroは10月のNFPを19.1万人増と予想する。コンセンサスよりかなり下だ。

一方、昨日発表された10月のADP全米雇用報告によると、民間部門雇用者数は市場予想の20万人増を上回る23万5000人増と、7カ月ぶりの大幅増加だった。

毎回、NFPの予想は難しいが、今回は難しい。難しいというより、意味があるか、というようなものだ。ハリケーンによって大幅に落ち込んだ分の反動がどう出るかというのを予想するというのは、異常値の平均への回帰を当てにいくようなものだ。なので結論から言えば、よほどおかしな値が出ない限り(例えば、今回戻るはずが戻らなかった、等でもない限り)NFPが予想を上ぶれても下ぶれても市場の反応は限定的だろう。DeepMacroもこう述べている。

「10月の雇用統計にとって大きな問題となるのは、9月の減少分がどの程度相殺されるか、である。これによっては10月の予測自体がほとんど意味のないものになってしまう」

DeepMacroの今回のプレビューは賃金に触れていないが、無論、賃金上昇も重要な注目点である。前回は時間当たり平均賃金が前年比2.9%と大きく伸びたが、これもハリケーンの影響で主に外食産業に従事するひとの雇用が減ったことが影響している。レストランなど飲食関係の給与は高くないので、ユニバースの中から低賃金労働者が除かれて平均時給が高くなった面がある。そうした低賃金労働者が仕事に復帰すればまた平均時給は下がってしまうだろう。

いずれにせよ、今回の雇用統計は「ハリケーンの影響の反動」という特殊要因がまだ残るものだから、結果が予想と違っても市場の波乱にはつながらないだろう。結局、もう1回、12月の利上げ前に発表される11月分の統計を見たい、というところに落ち着くだろう。

(以下、DeepMacroの見解)

10月の雇用統計(NFP)は事前予想を下回る見込み - トレーディング戦略は金利の買い、米ドルの売り


・10月の民間部門の雇用者数は市場予想の中央値(30.1万人増)を下回るだろう。


・米国企業の雇用活動を示すわれわれの「ビッグデータ」ソースによれば、新規採用数は9月の減少分を埋め合わせたが、新規求人数は9月の落ち込みの半分程度を取り戻すにとどまっている。しかし、10月の米国の「DeepMacro成長ファクター」は強く、雇用者数がそこまでひどく落ち込むことはないだろう。


・今回のDeepMacro予測は、エコノミストのコンセンサスを下回っている。このような場合、われわれのNFPトレーディング戦略では、金利の買い、米ドルの売り、S&Pの買い、となる。


雇用に関するわれわれの主要なデータソースは、3万社に及ぶ米国企業の人事ウェブサイトに掲載される求人情報である。企業が求人広告をウェブサイトに掲載した時点でわれわれはそれを新規の「求人」とカウントし、掲載が取り下げされた時点で求人が「埋まった」=「採用」された、と判断している。新たな求人は企業側の労働需要の増加を意味し、雇用の伸びの先行指標となる。また、これら新規求人データの総数は、DeepMacro「成長ファクター」によって計測される景気サイクルの全般的な強さなど他の変数と合わせて分析することで、毎月の非農業部門雇用者数(NFP)に対する説明力を持つことがわかってきている。



10月の雇用統計にとって大きな問題となるのは、9月の減少分がどの程度相殺されるか、である。これによっては10月の予測自体がほとんど意味のないものになってしまう。


Figure1は米3万社のサンプル企業の人事ウェブサイトをスクレイピングして取得した新規求人数と新規採用数を示している。グリーンの網掛け部分がおおよそ今回の雇用統計の調査対象期間となる。われわれのデータセットによれば、10月に入って雇用活動は回復したが、9月の減少分を完全に取り戻すにはやや及ばなかった。新規採用数は前月比で21%増加し、9月の21%の減少をちょうど埋め合わせた形となったが、新規求人数は9月の23%減少に対し、10月は12%の増加にとどまった。


この他、われわれのNFP予測にとって主要なインプットとなるのが、米国のDeepMacro「成長ファクター」である。米国の成長ファクターは10月に大幅に上昇しており、企業のウェブサイト上で見られる雇用活動の多少の回復不足を補うには十分と見られる。


われわれは10月の民間NFP数を19.1万人増と予測している。これはエコノミストのコンセンサス(執筆時点で30.1万人増)を大きく下回るものだ。われわれの予測は、企業のウェブサイト上の雇用活動に関するボトムアップの「ビッグデータ」と、「DeepMacro成長ファクター」として表される広範囲なデータに基づいている。われわれは9月の減少からのリバウンドを特に要素として考慮していない。しかし、9月と10月のDeepMacro予測を平均すれば月あたり20.0万人増に近い結果となる。このトレンドを上回る雇用の成長ペースが金利と米ドルを押し上げてきている要因である。


ハリケーンの影響を最も受けたテキサス州とフロリダ州のデータを見て、ハリケーンが企業の雇用活動に与えた影響を詳細に確認してみよう。Figure 2はテキサス州とフロリダ州の企業のウェブサイトに掲載された新規求人数の前年比上昇率を、全国的なトレンドと比較したグラフである。テキサスはハリケーン「ハービー」が上陸する前から伸びが鈍化している。一部はハリケーンに備えた影響かもしれないが、ほとんど全国的なトレンドを反映している。その後2週間は集中的な清掃活動を反映して大きく上昇している。フロリダも同様に、ハリケーン「イルマ」上陸時は落ち込んだが、その後すぐに回復し始めている。グラフの傾斜はテキサスと比べてかなり緩やかだが、10月の第1週目以降は全国的なトレンドと一致しているように見える。




NFPトレーディング戦略


われわれは、DeepMacroの事前予測に基づいたシンプルなトレーディング戦略を開発している。もしDeepMacro予測がブルームバーグ調査のエコノミスト予想中央値を上回った場合、金利の売り、米ドルの買い、S&Pの売り、というものだ。DeepMacro予測がエコノミスト予想中央値を下回った場合は、その逆(金利の買い、米ドルの売り、S&Pの買い)である。


米国の金利や米ドルなどの市場の変数が、NFPといった単一のファクターに反応することはほとんどありえない。市場価格に影響するファクターの数は非常に多い。ただ、そうだとしても、われわれのシンプルなルールには一定の予測力があることをわれわれは見出している。これは、雇用統計発表後の市場の動きが、市場予想中央値の誤差よりも、DeepMacro予測の誤差とより高い相関性を示しているという観察に基づく。


先月の民間NFP数はすべての事前予想を下回り、大きく減少した。しかし、それ以降も金利は上昇し、米ドルもほとんど強いまま推移している。これは、「正しく」予測することは、必ずしも市場を「正しく」予測することを意味しないことを物語っている。確かに、市場が「ハリケーンのせいだった」から、と9月の結果を無視することは簡単だっただろうが、だからと言ってトレンドに逆らって逆方向を選ぶ(われわれが推奨した金利の売り、米ドルの買い)という判断までには至らない。


今月、DeepMacro予測は市場予想中央値を大きく下回っているため、われわれの取引ルールで言えば金利の買い、米ドルの売りということになる。これはわれわれにとっては難しい判断だ。なぜならレポート内でリバウンドや上方修正が発表される可能性があるからである。さらに、われわれの9月と10月の予測の平均は20.0万人増に近く、金利水準を維持するには十分な数字である。しかしながら、われわれはこの戦略、すなわち「市場コンセンサスを下回る予測の場合は金利の買い、米ドルの売り」を堅持したい。たしかに、もしわれわれの予測が的中した場合、実際の2ヶ月平均の増加数は7.5万人程度となり、この結果は金利上昇と米ドル下落を十分に正当化するものとなる。

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