チーフ・アナリスト 大槻 奈那によるグローバル・マクロ解説をお届けします。
物価上昇加速:春には更に上昇で、センチメントへの影響注視
・3/2に発表された2月の東京都区部の消費者物価指数は、コアCPI(生鮮食品を除く)が前年比+0.9%に加速。それでも+2%には遠く、本日再任に際して行われた所信聴取でも、黒田日銀総裁は 「2%実現に全力を尽くす」としており、来週の日銀政策決定会合では金融緩和が維持されよう。
・生活実感に近い「持家の帰属家賃を除く総合指数」では+1.8%。昨年秋の+0.5%前後から一気に上昇幅が拡大している。生鮮食品の上昇が主因で一時的ではあるが、家計への負担が懸念される。
・今月以降も人手不足や原材料費の上昇で、食品、各種サービスの値上げが予定されている。外的要因で株価が弱い中での物価上昇は、消費者センチメントには一層マイナス。相対的に影響が少ないのは、価格弾力性が低い生活必需品セクター等。
消費者物価指数は上昇基調。金融政策は超緩和を維持
3/2に発表された東京都区部の消費者物価指数(月中旬速報値)は、生鮮食品を除くコアCPIで、前年比0.9%上昇。前月の0.7%から加速した(図表1)。
東京都区部の消費者物価指数は、月末に発表される全国の先行指標とされる。全国ベースのコアCPIは、前年比0.9%上昇と前月から横ばいだったが、2月は上昇する可能性が高いだろう。
それでも、相変わらず、2%の上昇にはほど遠い。本日、再任に際し、衆議院議員運営委員会は黒田日銀総裁に対して所信聴取を行った。黒田氏は、「現在の強力な金融緩和を粘り強く続けることで2%の物価安定目標の実現を目指す。全力で取り組んでいく」としており、来週3/8~9に行われる日銀の政策決定会合では金融緩和が維持されるとみて間違いないだろう。
生活実感での物価上昇幅は更に大きい。今後も値上げが続きそう
一方、生活実感に近いとされる、生鮮食品を含めた総合指数(帰属家賃を除く)は、前年比1.8%の上昇と、前月の1.7%から更に上昇した。昨年秋ごろは0.5%前後で推移しており、2000年以降では、消費税導入時やその引き上げの時を除き、経験のない高さである。
足元の生鮮食料品の価格上昇率(前年比13%)は、いずれ落ち着くとみられるものの、今月以降も、人件費や原材料費の上昇で、さまざまな品目の値上がりが続く (図表2)。
近年、実収入が安定しているにも関わらず、消費に占める食費の割合(エンゲル係数)の上昇が目立つ (図表3)。これにはさまざまな要因が考えられるが、いずれにしても、家計消費に対して、食費の影響度が拡大していることが表れている。
消費者センチメントへの影響を注視。生活必需品セクター等には相対的には影響少なめ
このような値上げが続く一方で、賃金の上昇には限界がある。現在は消費者センチメントが改善し続けているが(図表4)、物価上昇が賃金の上昇率を上回った場合、消費者センチメントの腰折れが懸念される。
米国市場の影響や円高の流れで日本株も弱い動きが続いているが、これで消費者センチメントが腰折れれば更に追い打ちをかけかねない。企業の賃上げ交渉が続いているが、今のところ政府目標の3%達成はハードルが高い。補完要因として、妻など世帯主以外の労働力の収入増加が挙げられるが(図表5)、まだその割合はわずかである。
こうした環境下でも影響を受けにくいのは、食品、トイレタリー等、価格弾力性の低い生活必需品セクターである。また、銀行も、本来は景気敏感ではあるものの、近時各種の手数料の値上げが進んでおり、代替的なサービスもまだ少ないことから、相応に耐性が強いと思われる。
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