グローバル・マクロ・ウォッチ

大槻 奈那

チーフ・アナリスト 大槻 奈那によるグローバル・マクロ解説をお届けします。

大槻 奈那 プロフィール

米利上げ加速で懸念される「3つのリスク」

・6/13、米FOMC(米連邦公開市場委員会)で、予想通り0.25%の利上げが決まった。政策金利は、1.75%~2.0%とされ、2018年の追加利上げ回数の予想は、4回(あと2回)に増加した。

・米利上げで懸念される、1)長短金利逆転(逆イールド)、2)米国内の金利負担増やデフォルトの増加、3)新興国リスク-- の3点について検討する。このうち、最も不透明感が高いのは、新興国リスク。

・長短金利の逆転は来年春頃に発生する可能性があるが、米株価への影響が出るには時間がある。米国内のデフォルトは増加が加速しそうだがまだ深刻な水準ではない。一方新興国は、リーマン後海外借入が1.2~1.6倍に増加しており、ショック時の影響は過去より大きくなるとみられ、警戒が必要。

米FOMC終了:今後の利上げペースの予想は上方修正

6/13(日本時間6/14未明)、米FOMC(米連邦公開市場委員会)で、0.25%の利上げが決まり、政策金利は、1.75%~2.0%とされた。今回の引き上げは、市場予想通りだった。

事前に注目されていたメンバーによる今後の利上げペースについては、図表1の通り、若干利上げペースが加速するとの見方が強くなっており、年4回(=あと2回)の利上げを予想するメンバーが8人と、前回の7人から増加し、メンバーの過半数となった。経済見通しもわずかながら上方修正されており、利上げが加速されるという見通しと概ね整合的になっている。

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一方このような利上げの加速で、いくつかのリスク要因の深刻化が懸念されている。具体的には、1)長短金利逆転(逆イールドカーブ)、2)米国内企業や個人の金利負担増、デフォルトの増加、3)新興国リスクなどである。

以下で検討する通り、これらの中で、警戒が必要なリスクは、ひとまず3)のみであろう。それ以外については、徐々に不安感は増すものの、大きな影響はまだ発生しないと考える。

1)長短金利逆転=逆イールドカーブの発生リスク

昨日の利上げ発表を受け、米国債の長短利回り差(10年物国債利回りと2年物国債利回りの差)は、更に縮小した (図表2-1)。最近縮小ペースが加速していることから、早ければ来年春ごろには長期金利が短期金利を下回る逆イールドが発生すると予想される(図表2-2)。

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逆イールドは、通常、市場が長期的な景気後退予想を示しており、株価も、逆イールドが発生してから半年~1年程度で下落する傾向がある(図表2-2)。実際足元の米国株価はやや足踏みしており、徐々に株式市場の重石になっていくだろう。

半面、金利の上昇は全てのセクターにマイナスに働くわけではない。例えば、利上げの恩恵を受ける金融セクター株は、相対的には好パフォーマンスが期待できよう。特に、銀行では、一時期諦められていたボルカ―ルール等の規制緩和も決定したことなどから、収益成長が見込まれるだろう。

2) 米国内の個人・企業の金利負担増、デフォルトの増加

米国の民間債務は、17年12月末で、過去最高の29.5兆ドル(3,250兆円)に達している(図表3-1)。リーマンショック後に500兆円増加した計算である。その分、民間企業や個人が金利上昇の悪影響を受けやすくなっている。例えば、1%の金利上昇で、年間の利払い負担は5兆円増加する計算である。GDPに対する影響として考えればごくわずかであるが、低所得者層や負債比率の高い不動産等のセクターや低格付企業には重い負担となるだろう。

実際、このところ、クレジットカード・ローンの延滞率が上昇しつつある(図表3-2)。米国では、日本と異なり、カードローンを保有する貸出の消費者の平均借入金額が160万円程度と大きく、特に低所得者層の借り入れ残高が大きい傾向にある。また、自動車ローンの延滞もじりじりと上昇している。今後金利が上昇すれば個人のデフォルトが加速し、個人消費にも悪影響が出てくる可能性がある。但し、これらの動きは緩やかに発生すると思われ、短期的には大きな問題とはならないだろう。

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3) 新興国リスク

新興国を含む世界の高リスク債の利回りは、年初来1%以上上昇した(図表4-1)。新興国の通貨は、一部の国では通貨防衛策を実施したことから持ち直しているが、全体には弱い動きが続いている(図表4-2)。トルコは、6月7日に、わずか2か月で3回目の利上げを実施しし、ブラジルも、通貨のスワップ入札を行うことでレアル高に転じている。

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新興国では、半年で1%程度の金利上昇は、この数年間でも何度かみられた。直近では、2014年後半に、米FRBが金融政策の段階的な正常化(テーパリング)を表明した時期にも半年で1%を超える金利上昇があった。しかし、その後、米国の正常化ペースが極めてゆっくり行われるとわかり、市場は落ち着いた。

現段階では、利上げ等の防衛策で何とか為替レートの暴落は回避できているが、利上げは国内の景気を後退させ、体力を消耗させる。アルゼンチン、ブラジル、トルコ等の脆弱国では、リーマンショック以降海外からの債務が概ね1.2倍から1.6倍に拡大している。

これらの国も、経常収支や外貨準備高などのファンダメンタルズは過去より改善している。このため、ショックは起こりにくくなってはいるが、もし、ひとたびショックが発生した場合の打撃は過去よりもはるかに大きくなる可能性がある。米国であと2回、0.5%程度利上げされただけでも、これらの国々で何らかの内政問題が重なった場合には通貨の更なる暴落リスクが現実味を帯びる。当分高リスクの新興国には注意が必要である。

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