新潮流

チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、投資戦略の考え方となる礎をご紹介していきます。

広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)

【新潮流】第115回 解散

◆「小学校の通知表の講評のところに、野田君は正直の上にバカがつくと書いてありました。それを見て、おやじは喜んでくれました」 2年前の今日開かれた党首討論の場で、当時首相の座にあった民主党の野田氏が述べた言葉である。「近いうち解散」と命名された2012年秋の衆院解散を決めた瞬間であった。この年の流行語大賞にもノミネートされた「近いうち...」で定着したが、一時は「バカ正直解散」という名称も取沙汰された。

◆政治というものをある程度ちゃんと見るようになったのは仕事を始めてからである。だから、僕が見てきた期間はたかだか30年にも満たないが、「近いうち...」はそのなかで最も印象に残っている解散劇だ。2005年の小泉・郵政解散よりもインパクトがあった。それはなぜかと言えば、ひきつけるだけ、ひきつけて、もうこれ以上はないというタイミングで放った一撃だったからだ。まさに「刺し違える」とはこのことだろう。野田氏が自ら野に下る覚悟と引き換えに、安倍晋三・自民党総裁に求めたものは衆議院議員定数削減案への同意であった。

◆比例区の定数削減は通らなかったが、小選挙区の0増5減は衆参で可決、成立しての解散となった。次期衆院選はこの0増5減が適用される。兎角、批判ばかりが目立つ民主党にあって、思えば野田氏はそれなりに仕事をしたひとだ。0増5減もしかり、消費税もしかりである。しかし、そうした野田氏の置き土産はまるで活かされていない。

◆あれから2年。奇しくもこのタイミングで永田町には解散風が吹き始めた。2年前の今日11月14日の解散宣言は、野田氏が初めて「近いうち」と約束した3党首合意からちょうど100日目のことだった。だから、ご自分で「バカ正直」とはいうものの、世間一般の「正直」の程度からは、ずれている。やはり、そこは政治家の言、割り引いて受け止めるべきか。

◆一時、ネーミング候補にあがった「バカ正直解散」。本歌取りの元は、もちろん吉田茂元首相の「バカヤロー解散」だ。一国の首相が「バカヤロー」とはなにごとか、ということで揉めて解散したわけだが、それに比べれば「バカ正直解散」、いや違った、「近いうち解散」のほうがずっとましである。国会解散の何が「まし」で何が「ましでない」か?言うまでもなく、国民に信を問う、その対象が何か、であろう。次の解散は「近いうち...」よりましか否か。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆

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