チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、投資戦略の考え方となる礎をご紹介していきます。
広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)
【新潮流】第157回 寒造り
◆昨日は二十四節気のひとつ「大寒」だった。一年で最も寒い日とされるが、実際は大寒を過ぎても、まだまだ寒い日が続く。寒暖計の針が上がってくるのは立春を過ぎ、雨水から啓蟄に向かう頃からだ。大寒の今は寒気を利用した食べ物、例えば凍り豆腐、寒天、味噌などを仕込む時期。寒の内に汲んだ水を「寒の水」と言い、この時期の水は、雑菌が少なく非常に良質であるとされている。それで仕込んだ酒を「寒造り」と言う。
◆国債市場でも超低温状態が続く。新発10年国債の利回りは昨日、0.195%と初めて0.1%台を付けた。過去最低利回りを連日で更新している。新発5年国債は初めて流通利回りがマイナスになった。国債というのは国の借金だ。借金というものは普通、借り手が貸し手に利息を払う。国債の利回りがマイナスということは、貸し手が借り手に手数料を払っているようなものである。別な表現をすれば、貸したおカネが全額返ってこないことを承知のうえでおカネを預けるようなものだ。
◆「日本は世界一財政状態が悪く、財政破綻寸前である」というようなことがよく週刊誌に書かれているが、そのような「危ない」貸出先に逆に金利を払って「借りていただいている」状態である。それをおこなっているのは、他ならない銀行だ。どちらかが誤りなのだろう。本来、貸出の「目利き」であるはずの銀行の判断か、あるいは、日本の財政が危ないという通説か。どちらかが間違っていなければ、この異常事態の説明がつかない。
◆原油安、欧州の量的緩和強化の観測、IMFによる世界経済の成長率引き下げ。金利低下に拍車をかける材料には事欠かず、金利の底は一向に見えない。しかし、ものごとには道理があり、自然には摂理がある。冬が過ぎればやがて暖かくなるように、いつまでも、金利の低下が未来永劫続くものではない。いずれ底打ち上昇に転じるだろう。それは大きな相場の転換点になる。その時に向けた「ポジション」の仕込みを考えておこう。今のうちに仕込んでおけば、先々うまい寒造りの酒が飲めるだろう。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆