新潮流

チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、投資戦略の考え方となる礎をご紹介していきます。

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【新潮流】第183回 お家騒動

◆先日亡くなられた歌舞伎役者の坂東三津五郎さんは幅広い芸域で活躍されたが、当たり役はなんと言っても『梅雨小袖昔八丈』の髪結新三や『新皿屋舗 月雨暈』の魚屋宗五郎などの「世話物」である。歌舞伎の演目を大別すると、江戸時代における<時代劇>であった「時代物」と江戸庶民の世情を描いた「世話 物」(すなわち江戸時代の<現代劇>)とに分けられる。「時代物」のなかで、お家騒動を題材としたものを「お家物」と呼ぶが、「時代物」は江戸時代の<時 代劇>なのだから、江戸より前の時代のものだ。お家騒動というのは基本的に江戸時代の大名家の内紛のことだから、「お家物」を「時代物」のひとつに含める 分類は時代的な矛盾がある。

◆まあ、そんな堅いことを言わなくてもいいかもしれない。お家騒動が起きるのは、なにも江戸時代の大名家に限らないからだ。現代版お家騒動とも言え る大塚家具の経営を巡る父娘の争いは、株主総会のプロキシーファイト(委任状争奪戦)にまで発展した。会長の父VS社長である長女の抗争は、同社を一代で ジャスダック上場まで導いたカリスマ創業者と、社外取締役を活用した近代的な経営を掲げる実の娘との対立という構図だ。そう表現すればまだ聞こえはいい が、日本企業のコーポレートガバナンス改革元年といわれる今日にあって、一般株主と顧客無視のお家騒動にも見える。

◆なによりも上場企業として市場軽視も甚だしい、と憤ったところで、市場のほうが現金だった。昨日の東京市場で大塚家具の株価はストップ高。今期配 当倍増という株主還元積極策が好感されたのだ。カネさえ配ればお家騒動などどこ吹く風と言わんばかりの市場の反応も問題なしとしないが、増配が内紛の「目 くらまし」でないことを願いたい。だが、その心配は少ないのかもしれない。高額な家具の売れ行きが良いという。高級家具を扱うカッシーナ・イクスシーも 14年12月期の業績を上方修正した。

◆家具は一般に値のはる商品。ところが家具に限らず高額商品が全般に好調だという。三越や高島屋等の百貨店ではロレックスなどの高級腕時計や宝飾品 が飛ぶように売れているという。にわかには信じられない話ではある。株高で潤った富裕者層や外国人観光客のインバウンド消費に牽引される高額品消費と、一 般家計の消費態度では完全に二極化している状況だろう。少しでも明るい兆しが見られるか、本日発表される家計調査の消費支出統計で確かめたいところであ る。

◆昨日の小欄は、ノートルダム清心学園理事長の渡辺和子さんが幼少期にご両親から授かった躾けの素晴らしさを賞賛した。それに比べて大塚家はどうな のだろう。いやいや、ひと様の家庭の教育方針をとやかく言えるような立場にはないから、これ以上言及するのはやめておこう。最後にひとつ、フランスの思想 家で『パンセ』を著したジョゼフ・ジュベールの言葉を引きたい。

子供は批判より模範を求めている。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆

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