チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、投資戦略の考え方となる礎をご紹介していきます。
広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)
【新潮流】第212回 アナリストが視ているもの
◆本当は同業者のことを悪く言いたくはないのだが、コラムを書くネタに困っていたことと、あまりにおかしかったので取り上げる次第である。ツイッターのフォロワーから、こんなメッセージがきた。「質問です。日経平均2万円は一部の銘柄の株価が吊り上げられているもので、実態は1万8000円である、と主張している某アナリストがいますが、実際はどう見たらよいのでしょうか?」
◆僕はこう答えた。「実際は、あなたが目にされた通りです。スクリーンに表示された20,000という数字が18,000に見えるなら視力検査に行くことをお勧めします」 そうは言ったが、そのアナリスト氏の言いたいことも分かる。事実、一昨日出演したテレビで僕自身、日経平均は15年来の高値だが、東証株価指数(TOPIX)はリーマン前の高値にすら届いていないと述べた。今のTOPIXは07年の高値からは9掛けの水準。つまり日経平均も2万円の9掛けで実態は1万8000円というわけだろう。
◆自分の見方に拘るあまり、現実を直視しない典型的な事例である。一部の銘柄の株価が吊り上げられていようがいまいが、日経平均を構成する225銘柄の平均値を算出すれば2万円になったというだけで、それは動かしようのない事実。その2万円が割高か否かの議論はあっても、「実際は1万8000円」というのは表現として巧くない。
◆だが、プロとして自分の主張に拘るアナリストがひとりくらいいてもいい。その反対にプロ意識の欠片もないものもいる。例えば、こんなコメントを目にした。「これから上場企業が発表してくる16年3月期の業績見通しは保守的なものになるだろう。企業の保守的な業績見通しを受けて、日本株は下落しかねない。」 コメントの主は大手証券のチーフ・アナリストである。企業が期初に慎重な見通ししか出さないのは毎度のことだ。問題は業績予想のプロであるアナリスト諸氏の見通しではないのか。このアナリストの口ぶりはまるで、「企業の業績がどうなるか」を予想するのではなく「企業が見通しをどう出すか」を予想しているようではないか。
◆まあ、あまり他人のことは言えないか、と半ば自嘲気味に酒をあおっていると、小学生の娘が言った。
「パパ、お酒に酔うとどうなるの?」
「そうだな、ここにグラスが2つあるだろう?酒に酔うと、2つのグラスが3つに見えたりするんだよ」
「パパ、グラスは1つしかないよ」
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆