チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、投資戦略の考え方となる礎をご紹介していきます。
広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)
【新潮流】第215回 トーマス・エジソン
◆僕らがこうして商売をしていられるのはエジソンのおかげである。昔は証券会社の店頭にはどこでも大きな株価ボードがあったものだが、バブルが崩壊するとコストが馬鹿にならないなので、ほとんど撤廃されてしまった。今ではごく限られた店しかボードを設置していない。一方、ネット証券各社は顧客が自由にカスタマイズできる機能を備えた株価ボードを提供している。株価ボードの使い勝手でネット証券を選ぶ投資家も少なくない。株価ボードはネット証券の「ウリ」である。その株価ボードを発明したのがエジソンである。
◆1869年、エジソン22歳の時である。当時、株取引の電信機は数字しか印字できなかったため、たびたび混乱や間違いが生じていた。そこでエジソンは株式相場表示機を発明する。それは数字だけでなく、企業名も送信・印字できる機械だった。その発明は大手電信会社に4万ドルという当時にすれば破格の金額で売れた。発明王エジソンの歴史の大きな一歩であった。
◆ゼネラル・エレクトリック(GE)はダウ平均構成銘柄のなかで唯一、指数算出開始時以来、残っている銘柄である。前身はエジソンが創ったエジソン・ゼネラル・エレクトリック・カンパニーだ。GEは先日、金融部門GEキャピタルの大半を手放すと発表した。金融事業はこれまでGEの利益の半分近くを稼ぎ出してきた。イメルト最高経営責任者は、その金融事業を売ってでも「シンプルで価値の高いモノ作り企業へ会社をつくり直す」と強調した。
◆その背景には株式市場からの圧力がある。GEキャピタルは収益の柱のひとつであったが投資家の間ではリスクが高いとの懸念があり、これがGEの株価低迷の要因と見られてきた。今回の事業縮小でGEキャピタルから配当として350億ドルを得られる見通し。GEは500億ドル相当の自社株買いに踏み切る方針も明らかにした。
◆こうしたドラスティックな事業再編を見ると、米国市場における株主利益最大化という企業哲学の強さを改めて感じる。ルーツをたどると100年前のある裁判に行きつく。フォード・モーター社とダッジ兄弟の訴訟である。当時のフォードは、T型モデルの成功で巨額の利益をあげ多額の現金を保有していたが配当を据え置いていた。ダッジ兄弟は増配を求めてフォード社を訴え、ミシガン州最高裁がそれを支持する判決を下した。この判決を契機に、株主利益重視の経営が定着し始めたと、法政大学の渡部亮教授は述べている(日経新聞夕刊「十字路」)。
◆ヘンリー・フォードとエジソンは生涯の友人であった。エジソン電灯会社の社員だったフォードが、ガソリン自動車の発明をエジソンに語った時、エジソンは机をたたいて喜んで開発を励ましたという。エジソンの激励がなかったら、もしかしたらフォードの成功もなかったかもしれない。そうであれば、フォードvsダッジ訴訟もなく、株主利益重視の流れもどうなっていたか分からない。やっぱり、今の株式市場が隆盛を遂げているのはエジソンのおかげなのである。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆