チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、投資戦略の考え方となる礎をご紹介していきます。
広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)
【新潮流】第229回 敗者のゲーム
◆小欄が読者のもとに届く頃には、錦織圭選手のイタリア国際3回戦の結果が明らかになっているだろう。このイタリアの大会は、24日に開幕するテニスの4大大会のひとつ、全仏オープンの前哨戦だ。錦織選手にはぜひ好成績を挙げ、弾みをつけてローラン・ギャロに臨んでほしい。全仏オープンのコートはクレー(赤土)コートである。クレーコートは全英オープン・ウィンブルドンのような芝のコートと違って、球足が遅い。サーブ&ボレーで決まるより、長いラリーが多くなる。パワーとスピードよりも、展開の組み立て、そしてミスをしない集中力が鍵である。
◆プロのテニスプレーヤーはエースを奪い合って勝負が決まるが、アマチュアの点の入り方は多くがミスによるもの。第127回「失敗しない」で紹介したチャールズ・エリス著『敗者のゲーム』に書かれている。エリスは言う。プロのテニスは勝つためにおこなったプレーで結果が決まる「勝者のゲーム」であるのに対して、アマチュアのテニスは敗者がミスを重ねることで結果が決まる「敗者のゲーム」なのだ、と。そして株式投資もまた「敗者のゲーム」である、と。
◆正確に言うと、市場に勝とうとするアクティブ運用が「敗者のゲーム」であるとエリスは述べる。なぜなら、銘柄選択にせよ、市場タイミングにせよ、「勝つ」ためには誰かの「負け」を必要とするからだ。株式市場の主要参加者はヘッジファンドや大手機関投資家である。そのファンドマネージャーやアナリストは高学歴で経験豊富な俊英ぞろい、なかには天才もいるだろう。そんな生き馬の目を抜く市場で、常にあなたが「勝ち組」に回ることが可能だろうか?誰かの負けが誰かの勝ちになるなら、所詮それはゼロ・サム・ゲームだ。証券の売買には手数料や税金がかかるから実際にはマイナス・サム・ゲームである。
◆では個人投資家は勝てないのか?そうではない。「敗者のゲーム」に参加しなければ良いのである。個人投資家は決算期もなければベンチマークもない。市場のリターンを上回ろうと誰かと競争する必要もない。低コストのインデックスファンドで長期投資をするのがよいというのがチャールズ・エリスの結論だ。著名投資家のウォーレン・バフェットも同じ趣旨のことを勧めている。詳しくはマネックス証券のこちらのコンテンツをご参照いただきたい。(インデックス投資のすゝめ)(2018年3月末時点で非表示)
◆勝ちにいかないこと。負けを避けること。そのためにはミスをしないことが大切である。ひとつ気になることがある。われわれ証券会社はお客様に株式の売買をどんどんおこなっていただいて、その手数料が飯のタネである。それなのに低コストのインデックスファンドがいいとか、頻繁に売買するとコストがかかって「敗者のゲーム」だとか、そんなことを主張するエリスやバフェットをプロモーションに使うのって、証券会社のマーケティング戦略的には「ミス」ではないのだろうか?
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆