新潮流

チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、投資戦略の考え方となる礎をご紹介していきます。

広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)

【新潮流】第230回 ヘッジファンドの決算を巡る通説

◆「底なし沼と普通の沼はどう違う?」「底がないか、あるかですか?」「底がない沼なんてない。ようは人間の幻想の有無なんだ」(森博嗣「誌的私的ジャック」)

6月末はヘッジファンドの中間決算。そのタイミングで解約するには45日前に通知する必要がある。だから5月の半ばまではヘッジファンドの決算対策に絡む手仕舞い売りで相場が荒れやすい...。市場でまことしやかに言われている「通説」である。

◆しかし、この「通説」、ちょっと考えればおかしなことだらけだ。この説に従えば、ヘッジファンドがポジションを手仕舞うのは顧客の解約通知を受けて、ということになるが、毎年毎年、このタイミングで投資家がヘッジファンドを解約しなければならない理由がない。

◆いちばん違和感があるのが「中間決算」というものだ。日本の上場企業ですら今や四半期決算が当たり前になっている。「中間決算」というのは昔、3月9月で半期決算をやっていた時代の名残である。どうして海外の大手ヘッジファンドに「中間決算」なるものがあるのだろうか。

◆ファンドの決算というのは分配金の支払いなど費用を精算し損益を確定させるためのものだ。このため日本の毎月分配型投信は毎月決算をおこなっている。一方、ヘッジファンドは頻繁に分配金を払う必要もないし、余計な経費をかけたくないので決算は年1回が普通である(決算をすれば監査法人などの費用がかかる)。年末の本当の決算間近には成功報酬確保のためパフォーマンスを固めようとポジションを手仕舞う動きがある程度出るかもしれないが、5月半ばという時期の手仕舞い売りには理由がない。

◆この「通説」は、ファンドが設定・解約を受け付ける「窓開け」のタイミングとファンドの決算、ヘッジファンドを運用する会社としての決算、成功報酬確定のための手仕舞い、そんなものがすべてごっちゃになって誤解のうえに誤解が重なってできた「都市伝説」のようなものだろう。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆

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