新潮流

チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、投資戦略の考え方となる礎をご紹介していきます。

広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)

【新潮流2.0】 第5回 欧米か

◆ラジオからやたらとビートルズの曲が流れてくる。今年はビートルズの初来日から50周年。1966年6月29日、ビートルズは羽田に降り立ち翌30日から7月2日にかけての3日間、日本武道館でコンサートをおこなった。"Rock And Roll Music"で幕を開け、全13曲を演奏した。僕は当時の熱狂を知らない。ポスト・ビートルズ世代だ。僕にとって最初のロックバンドはベイ・シティ・ローラーズである。僕が洋楽に親しみ始めた1975年当時のヒットチャート1位はベイ・シティ・ローラーズの「サタデー・ナイト」。2位はクィーンの「ボヘミアン・ラプソディ」。僕の洋楽のルーツは、ビートルズではないものの、やはり英国のバンドである。

◆洋楽とは文字通り、「西洋の音楽(主にポップス)」のことである。以前、「欧米か?」という漫才師のギャグが流行ったことがあったが、日本では「西洋」イコール、「欧米」みたいな捉え方が一般的だろう。しかし、洋楽のヒットチャートは「欧米」というより「英米」である。

◆欧州統合の行方に暗雲が生じている。BREXITを契機に反EUの流れが他の欧州各国に波及する懸念が台頭している。問題の所在は同じだからだ。その流れに乗ってフランスでもイタリアでもスペインでも急進左派や極右政党が勢いを増している。しかし、ブレイディみかこ氏はこう指摘する。「もはや右対左ではない。下対上の時代」であると。まさに今回の国民投票の結果は、「大衆の、エリート層やエスタブリッシュメントに対する反発」(仏国際関係研究所特別顧問 ドミニク・モイジ氏)にほかならない。

◆欧州は分裂に進んでしまうのか?根本的な問題が「下対上」すなわち「格差」であるならば救いはある。それが、「欧米」でなく、「英米」ということだ。ドイツをはじめ欧州の先進国や日本でも格差問題はあるが、英米ほど偏り方が突出していない。ともにアングロサクソンの国であるイギリスとアメリカは、シティとウォール街という2大金融エンジンを抱え、金融資本主義を推し進めることで成長してきた。その結果、異常に拡大した格差の果てに見えたものが、BREXITでありトランプ=サンダース現象ではないか。英米以外の国々の格差は英米ほど極端に拡大していない。今ならまだ手が打てるはずである。

◆50年前、ビートルズが武道館公演の最後に演奏したのは、「I'm Down」。「まいったよ」とは50年後の今日を予見したわけではまさかあるまい。ビートルズ初来日から50年後の今月、ひとりのDJが日本にやってきた。スタジアムに詰めかけた3万人の聴衆を歌い踊らせ熱狂させた彼の名は、アヴィーチー。スウェーデン出身のDJでありEDM(Electronic Dance Music)界のカリスマである。このライブを観た音楽評論家の渋谷陽一氏は、ユーロビートの大きな流れを汲む4つ打ちのビートと分かりやすいメロディー、アバと同じ国から現れたスターには伝統の継承があると評価する。そう言えば、アバの「ダンシング・クィーン」が大ヒットしたのは、「サタデー・ナイト」、「ボヘミアン・ラプソディ」の翌年、1976年のことであった。洋楽チャートでは40年前に英米以外のヒットソングも生まれていたのである。

◆渋谷氏は、米国や英国のアーティストにない、どこか懐かしく切ないヨーロッパ型のメロディーが今のEDM人気の背景にあり、人気DJの多くが英米以外の国出身なのは単なる偶然ではないと言う。英米的なものと、そうでないもの。こういう大別の仕方ができるのは、ミュージック・シーンに限ることではないだろう。

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