新潮流

チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、投資戦略の考え方となる礎をご紹介していきます。

広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)

【新潮流2.0】 第23回 エア花見

◆桜坂にスペイン坂。アークヒルズ周辺には桜の名所が多い。オフィスがぐるりと桜に囲われているせいもあって今年は例年以上に桜の花を愛でる機会に恵まれた。開花してから寒冷な天気が続いたことも長く花を楽しめた理由のひとつだ。もうひとつの要因はスマホやSNSなどITの進化。見事な桜の下にはスマホのカメラで写真を撮っているひとが必ずいる。撮った写真をフェイスブックやインスタグラムにアップするのだろう。自分がその場所にいかなくても、たくさんの、ありとあらゆる所の桜を目にすることができる。

◆今年の職場の花見は「エア花見」だった。アークヒルズの桜をライブカメラで撮影、オフィスの共用スペースでスクリーンに映し出された桜の映像を眺めながら飲んだ。場所取りの面倒もない。室内なので花冷えに震えることもない。従ってトイレの心配もない。いいこと尽くしだ。だから、ついつい飲み過ぎてしまうことだけが「エア花見」の欠点か。

◆僕らが花見酒に浮かれているうちに世界情勢は緊迫の度合いを一段と増してきた。サンクトペテルブルグの自爆テロに続いてストックホルムでもトラックが突っ込むテロ事件が起きた。北朝鮮が軍事挑発を繰り返すなか、米国はシリアのアサド政権軍に巡航ミサイルで攻撃を加えた。米中首脳会談が開かれているその最中に、である。中東や東アジアの地政学的リスクの高まりもさることながら、その背景に展開される米中露といった大国の思惑と枢軸の行方、欧州の政治情勢など心配の種は尽きない。

◆海外情勢がこれほど緊迫しているにもかかわらず、日本国内はなんとなく安穏としている。桜の季節がひとの心を和ませている面はあるだろう。だが、どこか遠いところで起きている他人事といった感覚がないか。単に外国で起きているという「距離的な遠さ」ではなく、バーチャルな世界で起きていることのように感じている面がないだろうか。

◆昨年末公開された映画「「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」は、無人偵察機(ドローン)が映し出す戦場を、遠く離れた安全な会議室でモニター監視しながら行われる現代の戦争を描いた衝撃作だ。「劇場型戦争」といわれた湾岸戦争から四半世紀。当事者でない者にとって、現代の戦争は一段と「バーチャル化」しているが、戦場では実際に戦火が上がり、血が流れ、ひとが傷つき、そして多くの命が失われる。そこには厳然とした「リアル」がある。「人間は死ぬ瞬間しか当事者になれない」という言葉を日曜日の新聞で読んで、はっとした。(作家・山下澄人インタビュー:日経新聞4/9)

◆「エア花見」はいいこと尽くし、と述べた。確かに花冷えに震えることはない。だが、しかし、春の風に吹かれ、舞い散った桜の花びらが落ちて杯に入る - そういう酒を飲むことはできない。リアルであること。その価値を、その意義を今あらためて考えてみよう。残りわずかな桜の花の下で。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆

【お知らせ】「メールマガジン新潮流」(ご登録は無料です。)

チーフ・ストラテジスト広木 隆の<今週の相場展望>とコラム「新潮流」とチーフ・アナリスト大槻 奈那が金融市場でのさまざまな出来事を女性目線で発信する「アナリスト夜話」などを毎週原則月曜日に配信します。メールマガジンのご登録はこちらから

レポートをお読みになったご感想・ご意見をお聞かせください。

過去のレポート


マネックスレポート一覧

当社の口座開設・維持費は無料です。口座開設にあたっては、「契約締結前交付書面」で内容をよくご確認ください。
当社は、本書の内容につき、その正確性や完全性について意見を表明し、また保証するものではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を推奨し、勧誘するものではございません。過去の実績や予想・意見は、将来の結果を保証するものではございません。
提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更または削除されることがございます。当社は本書の内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。本書の内容に関する一切の権利は当社にありますので、当社の事前の書面による了解なしに転用・複製・配布することはできません。内容に関するご質問・ご照会等にはお応え致しかねますので、あらかじめご容赦ください。