チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、投資戦略の考え方となる礎をご紹介していきます。
広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)
【新潮流2.0】 第33回 ビッグデータ
◆イルカが物とそれを表す文字、鳴き方をセットで記憶し、指し示したり鳴いたりできることを実験で確かめたと、村山司・東海大教授らの研究チームが明らかにした。人間以外でこうした能力が確認されたのは初めてでイルカが人に近い言語能力を持つことが分かったという。村山教授は、「物の意味を理解していると言える。次は動詞を覚えさせることに挑戦し、人とコミュニケーションができるようにさせたい」と語る。
◆人とのコミュニケーションならAIを使ったスマートスピーカーのほうがイルカより格段に進んでいる。アマゾン・ドット・コムとマイクロソフトはスマートスピーカー事業で提携すると発表した。年内に会話型AIであるアマゾンの「アレクサ」とマイクロソフトの「コルタナ」を相互に連携させて使えるようにする。ライバル同士の提携は、グーグルやアップルなど競合がひしめく音声認識市場でのシェア争いがますます熾烈なものになっていることの現れだろう。
◆そんなアメリカの状況をしり目に、中国にはスマートスピーカーを作るメーカーが300社以上あるというから驚きである。作れるものはとにかく作って市場に出す。過当競争で淘汰されるリスクなど考えていない。それもどうかと思うが、しかし、これほど多くの企業がAIスピーカーを作ることができるという事実をどうとらえるべきか。いまや、人工知能の一級の国際会議にもっとも論文を通しているのはアメリカではなく中国であるとAI研究の第一人者、国立情報学研究所教授の新井紀子氏は指摘する。
◆新井教授によると、中国がAI研究の分野で世界一に躍進した理由は政府主導でビッグデータを集めたからだという。中国では、国家公務員や教員に採用されるためには、標準的な中国語を話せることが必要条件であり、そのための試験がある。年間100万人以上が受験する標準中国語のスピーキングテストの音声データを集めてAI研究に役立てているというのだ。それに対して、日本は極めてビッグデータが集まりにくい国だと新井教授は嘆く。
◆ようやく我が国でも個人情報保護法が改正され、ビッグデータの収集・利用促進に一歩前進した。それでもなお個人情報を含むデジタルデータの収集については、その独占化やプライバシーへの配慮に対する警戒論等があって、進展のスピードは遅い。フィンテックやシェアエコノミーが爆発的に普及する中国はまずやってみて問題があればあとで規制する。日本はその逆で、まず問題点を検討しルールを整備し、それから実施。どちらも一長一短あるのだろうが、世界の変革スピードは加速していることは間違いない。日本では人間の言語データよりもイルカの言語データのほうが集めやすい、という日がいつかくるかもしれない。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆