米国マーケットの最前線-経済動向から日本への影響まで-(随時更新)
世界一の規模を誇る米国マーケット。経済動向や注目トピックの解説、そして日本に与える影響まで踏み込んだ旬な情報をお届けいたします。
執筆者:マネックス証券 プロダクト部
米国の利上げはいつか?~雇用統計結果レポート~
非農業部門雇用者数 5月 +28.0万人 市場予想 +22.6万人 前月 +22.1万人(下方修正)
失業率 5月 5.5% 市場予想 5.4% 前月 5.4%
■高得点の雇用統計
5日に発表された5月の米国雇用統計は質的にも量的にも顕著な改善を見せた。順に見ていこう。
まず、非農業部門雇用者数は前月差28.0万人増と市場予想の22.6万人増を大きく上回って前月から伸びが加速した(グラフ参照)。また、4月分は22.3万人増から22.1万人増へ小幅に下方修正、3月分は8.5万人増から11.9万人増に上方修正され、累計では3.2万人の上方修正となった。マネックス証券では21万人増程度を予測していたが、大きく上回る結果だった。
また、労働参加率は62.9%と前月から0.1ポイント改善し、職探しを再開したことにより失業者にカウントされるようになった人が増加したことにより、失業率は前月の5.4%から5.5%に0.1ポイント悪化した。ただし、正社員を希望しながらもやむを得ずパートタイマーとして働く人々までを失業者にカウントした広義の失業率であるU-6失業率は前月の10.8%から横ばいであった。
さらに特筆すべきは、将来のインフレ圧力となる賃金の上昇率である。5月の平均時間あたり賃金は24.96ドルで前年比2.3%の上昇と2009年11月以来約5年半振りの高い上昇率を記録した(グラフ参照)。また、イエレンFRB議長が重視されるとされる労働指標の通称である「イエレン・ダッシュボード」に入っている、「失業者に占める27週以上の長期失業者の割合」も28.6%と前月の29.0%から改善した。
■FRB関係者の発言から読み解く利上げの時期
前述のように5月の雇用統計は総じて良好な結果であった。それではマーケットの最大の注目である利上げはいつ行なわれるのだろうか?足下のFRB関係者の発言の一部をご紹介しよう。
「年内のいずれかの時点での利上げは適切である。利上げ開始後引き締めペースは緩やかとなる公算」5/23 イエレンFRB議長・投票権あり
「利上げ開始プロセスは日付でなくデータで決まる。最初の利上げは超緩和的な金融政策から極めて緩和的な金融政策への移行に過ぎない。」
5/26 フィッシャーFRB副議長・投票権あり
「FRBは利上げを段階的に行い、金利が正常化するのは今後数年間をかけてになるだろう」
5/28 ウィリアムズサンフランシスコ連銀総裁・投票権あり
「FRBは異例の辛抱強さを持つべきで、2015年中に利上げを行うべきではない」
5/29 コチャラコタミネアポリス連銀総裁・投票権なし
「足下の経済状況には懸念があるが年後半には回復し、利上げ可能になるだろう」
6/4 ブラードセントルイス連銀総裁・投票権なし
「FOMC(米連邦公開市場委員会)は今年利上げを開始する可能性が高い」
6/5 ダドリーNY連銀総裁・投票権あり
上記のようにもちろん意見の完全な一致を見ているわけではないが、イエレン議長やダドリーNY連銀総裁などFOMC内の主流派は、年内の利上げ開始に自信を示している。
■利上げはいつか?
それでは利上げはいつ行なわれるのだろうか。フィッシャー副議長が話している通り、現時点ではどの月に利上げを行うのかFOMCは決定していないだろう。イエレン議長はバーナンキ前議長とともに異例の金融緩和政策を実施し、米国経済の回復を主導した有能な人物である。また、フィッシャー副議長は金融危機後にイスラエルの中央銀行の総裁として、各国に先駆けてイスラエル経済を回復に導いた手腕を持つ。さらにバーナンキ氏やイエレン議長、イエレン議長とともにFRB議長の座を争ったサマーズ氏などに経済学を指導した生ける伝説のような人物である。彼らが経済指標次第で利上げの時期は変わると言っている以上、まだ決まっていないと考えるのが自然である。
ただ、今回の雇用統計が米国労働市場の回復について、FRB関係者の自信を深めさせたのは事実であろう。来週16日から17日にかけて開催されるFOMCでの利上げ決定の可能性は極めて低いとしても、9月利上げの可能性はかなり高まった。最も有力視されるのが9月のFOMCで、夏場の経済指標の改善が加速すれば9月利上げ、鈍化すれば12月利上げというのが現時点で自然に考えられるシナリオではないだろうか。
■用語解説
雇用統計(米国)
米政府による雇用環境を調査した統計。発表される統計のなかでも、失業率(働く意欲がある人口に占める失業者の割合)と非農業部門雇用者数変化(農業従事者を除いた雇用者数の増減)が市場で注目されやすい。通常は月初の金曜日に前月分が公表される。