米国マーケットの最前線

米国マーケットの最前線-経済動向から日本への影響まで-(随時更新)

世界一の規模を誇る米国マーケット。経済動向や注目トピックの解説、そして日本に与える影響まで踏み込んだ旬な情報をお届けいたします。

執筆者:マネックス証券 プロダクト部

雇用統計直前レポート~利上げの最大の判断材料~

ADP雇用統計(前月差) 7月 +18.5万人 市場予想 +21.5万人 前月 +22.9万人(下方修正)
(予想)非農業部門雇用者数 7月 市場予想 +22.5万人 マネックス証券予想 +20.0万人
ISM製造業景況感指数 7月 52.7 市場予想 53.5 前月 53.5
ISM非製造業景況感指数 7月 60.3 市場予想 56.2 前月 56.0
新車販売台数(年率換算) 7月 1755万台   前月 1700万台

■今月の雇用統計

7日の日本時間21時半に米国雇用統計が発表される。前回のレポートで記したとおり、FOMCは前回の会合で利上げの条件について「労働市場の改善がさらにいくぶん見られた際に」と文言を追加し、利上げのハードルを引き下げた。今年のFOMCで投票権を持つアトランタ連銀のロックハート総裁は、今週5日に「9月利上げ開始が適切である」との意向を示すなど9月利上げの思惑が高まるなか、利上げの最大の判断材料となる7月分と8月分の雇用統計に対する注目は普段より一層高い。

米雇用関連会社のオートマチック・データ・プロセッシング(ADP)が5日に発表した、雇用統計の先行指標であるADP雇用統計の「民間非農業部門雇用者数」は前月差18.5万人増と、前月から伸びが鈍化し、市場予想(21.5万人増)を下回った(グラフ参照)。前月分も23.7万人増→22.9万人増に下方修正された。

7月の18.5万人増は労働市場が鈍化したことを示唆するような弱い数字ではないが、増加数の過去1年の平均22.4万人を下回っており、強いと呼べる内容でもない。ただ、後述するISM非製造業指数の雇用についての調査など、労働市場関連のその他の経済指標を見る限り、米国の労働市場の回復は堅調に続いている可能性が高い。政府発表の非農業部門雇用者数は、堅調な回復の目安とされる20万人程度となるのではないかと予測している。

■その他の注目ポイント

今回の雇用統計では平均時給の変化にも注目が集まる。FRBの2大責務といえば、物価の安定と雇用の最大化である。

前者の物価の安定に関連した利上げの条件として、FOMCは「インフレ率が2%の目標に戻っていく確信」を挙げている。それでは「インフレ率が2%の目標に戻っていく確信」とは何を根拠に得られるものなのか、との質問に対しイエレンFRB議長は「労働市場の改善」と回答したことがある。

つまり、労働市場の改善は2%前後の物価上昇というFRBの1つ目の責務においても大きな役割を果たすとFRBは考えているということになる。労働市場が改善すれば賃金インフレにつながっていくというメカニズムである。そこで注目されるのが、労働者の平均時給だ。

6月分の労働者の平均時給は前年比2.0%の上昇と、2010年以降の平均1.98%と同程度の伸びとなり、市場予想の2.3%の上昇を下回った(グラフ参照)。そうした状況の中で改めて7月分の雇用統計で賃金の伸びが見られるのか注目される。なお、前回レポートで記したように、筆者は利上げが12月にズレこむのではないかと見ている。

■対照的な結果となったISM景況感指数

7月のISM製造業景況感指数と非製造業景況感指数は対照的な結果となった。まず、先に発表された製造業指数のヘッドラインは52.7と前月および市場予想の53.5を下回った。同指数が悪化したのは3月以来である。

指数の内訳を見ると、指数を構成する5項目のうち新規受注(56→56.5)、生産(54→56)、入荷遅延(48.8→48.9)の3項目は改善した一方で、在庫(53→49.5)、雇用(55.5→52.7)の2項目が悪化して全体の足を引っ張った(グラフ参照)。改善と悪化の境目となる50を上回っていることから大きな心配はいらないが、ドル高や原油安の影響がジワリと出てきているのかもしれない。


一方、非製造業は目を見張る伸びを見せた。ヘッドラインは60.3と前月(56.0)と市場予想(56.2)を大きく上回り、2005年8月以来10年ぶりの高水準を記録した。指数の内訳を見ても新規受注、雇用、入荷遅延、業況の4項目全てが改善した(グラフ参照)。中でも雇用は52.7→59.6と前月から6.9ポイントの大幅改善を見せた。米国非製造業の景況感はまさに絶好調のようだ。。

■新車販売も依然として好調

7月の新車販売台数も年率換算1755万台と依然として好調だった。2015年1年間で見ても1700万台を突破するペースでの推移となっている。ISM非製造業や新車販売の動向を見ると、米国の個人消費は好調に推移していると見て良さそうだ。


それに対し、利上げや原油安によるエネルギーセクターの減益を嫌気する格好で米国株のパフォーマンスは非常に冴えない。

たしかに経済指標も冴えない内容のものもあるが、FRBが利上げを意識しているということは、それだけ米国経済が好調であることの証左でもある。こちらのコンテンツでも振れている通り、過去3回の利上げ局面を見ると、利上げから数ヶ月程度は米国株のパフォーマンスは冴えない時期が続いたが、その後は利上げ前を上回る水準まで株価は上昇した。現在は1年程度の中期的視座に立てば買いが報われやすい局面だと考えている。

■用語解説

雇用統計(米国)
米政府による雇用環境を調査した統計。発表される統計のなかでも、失業率(働く意欲がある人口に占める失業者の割合)と非農業部門雇用者数変化(農業従事者を除いた雇用者数の増減)が市場で注目されやすい。通常は月初の金曜日に前月分が公表される。

ISM景況感指数
ISM(Institute for Supply Management 供給管理協会)が発表する景気転換の先行指標である。供給管理協会が企業の担当者にアンケート調査を実施して作成しており、主要経済指標の中ではいち早く発表されることから景気の先行指標として重要視されている。数値が50を上回れば企業の景況感が好転、50を下回れば悪化していることを示す。製造業、非製造業それぞれ別に指標が発表される。

新車販売台数
オートデータ社が毎月月初に前月分を発表する米国の新車販売台数。販売台数は個人消費動向の確認に加えて、関連部品などが多岐にわたり製造業全体に影響をあたえるため注目を集める。

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