米国マーケットの最前線-経済動向から日本への影響まで-(随時更新)
世界一の規模を誇る米国マーケット。経済動向や注目トピックの解説、そして日本に与える影響まで踏み込んだ旬な情報をお届けいたします。
執筆者:マネックス証券 プロダクト部
9月利上げは、あるのか。
非農業部門雇用者数 8月 +17.3万人 市場予想 +21.7万人 前月 +24.5万人(上方修正)
失業率 8月 5.1% 市場予想 5.2% 前月 5.3%
平均時給(前年同月比)8月 +2.2% 市場予想 +2.1% 前月 +2.2%
U-6失業率 8月 10.3% 前月 10.4%
長期失業者の割合 8月 27.7% 前月 26.9%
■雇用統計は概して堅調
7日に8月の米国雇用統計が発表された。非農業部門雇用者数は前月差17.3万人増と市場予想を下回って、前月から伸びが鈍化した。ただ、7月分が+21.5万人→+24.5万人、6月分が+23.1万人→+24.5万人と計4.4万人上方修正された。失業率は5.1%と前月の5.3%から0.2ポイント低下し、市場予想以上の改善を見せた(グラフ参照)。経済上の理由からやむを得ずパートタイマーとして働いている人々を失業者にカウントするU-6失業率は10.3%とこちらも前月から改善した。
また、労働市場の需給の引き締まりを見る上で重要視される平均時給は、前年同月比2.2%の上昇と市場予想を上回った。足下で伸びが加速したわけではないが、2010年以降の平均を上回っており、堅調と言ってよい水準である(グラフ参照)。
これまで見てきたように、非農業部門雇用者数の8月分は市場予想を下振れたものの雇用統計を概してみると米国の労働市場が回復は続いていると判断できる、堅調な内容だったと言えよう。ただ、ケチをつけるわけではないが、一部にやや軟調な指標も見られた。
■増加した長期失業者の割合
失業者における長期失業者(27週以上にわたって失業状態にある人)の割合が8月は27.7%と2ヶ月連続で、前月から増加した。この指標はイエレンFRB議長が重視しているとされる労働指標、通称イエレン・ダッシュボードにも入っている重要な指標である。同指標は好況だった2005年-2007年の平均が約18.2%だったが、足下は27.7%とまだまだ高い水準にある(グラフ参照)。過去との比較で言えば一層の改善が求められるが、回復が鈍化していることは利上げにあたっての懸念材料になる可能性もあるだろう。
■9月利上げはないと見る
これまで見てきたように、一部でやや気になる指標はあるものの、米国の労働市場の回復は堅調に続いている。失業率が5.1%まで低下したというのはその何よりの証左であろう。当然9月16日、17日に開催される連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げ開始が議論されると見られるが、筆者は9月の利上げ開始は行われないと考えている。
その理由は前回レポートで記したように、マーケットの混乱である。S&P500のボラティリティ・インデックス、「VIX指数」は8月24日に一時40を超えた。グラフに示したように、VIX指数が40を超えるというのは、「リーマン・ショック」、「第1次ギリシャ危機」、「欧州信用危機」といった世界経済を揺るがすような大きな問題が発生したときの水準だ。足下はやや落ち着いたとはいえ、それでも約28と平常時の倍ほどの水準である。インフレが過熱する兆候が出ているわけでもない足下の経済状況で、マーケットとの対話が抜群にうまいイエレンFRBが混乱に拍車をかける可能性のある利上げをこのタイミングで実施することはないと考えている。
■用語解説
雇用統計(米国)
米政府による雇用環境を調査した統計。発表される統計のなかでも、失業率(働く意欲がある人口に占める失業者の割合)と非農業部門雇用者数変化(農業従事者を除いた雇用者数の増減)が市場で注目されやすい。通常は月初の金曜日に前月分が公表される。
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