米国マーケットの最前線-経済動向から日本への影響まで-(随時更新)
世界一の規模を誇る米国マーケット。経済動向や注目トピックの解説、そして日本に与える影響まで踏み込んだ旬な情報をお届けいたします。
執筆者:マネックス証券 プロダクト部
利上げとイエレンFRBの決意
連邦公開市場委員会(FOMC)
■予想通りに利上げを実施
12月16日、市場の予想通り連邦公開市場委員会(FOMC)はフェデラルファンド金利(FF金利)の誘導目標を、0~0.25%から0.25%~0.5%に引き上げることを決定した。ダウ平均は利上げ決定直後こそマイナスに転じたものの、不透明感の払拭を好感し、その後大きく上昇して利上げを無難に消化した格好となった。本レポートでは、FOMC後に示されたメンバーの今後の金利見通しやのイエレン記者会見から読み取れる今後の金融政策の方向性をご紹介したい。
■全員一致で利上げを決定
利上げの決定は、FOMCの投票権を持つメンバー全員一致で決定された。タルーロFRB理事やエバンスシカゴ連銀総裁など一部の参加者は、足元で年内利上げに慎重な態度を表明していたが、今後の利上げペースを緩やかにするなどの合意のもと賛成にまわったとみられる。
今回のFOMCで発せられたメッセージは明確だ。「いったん利上げを行ってゼロ金利という異常な状態を脱する。ただし今後は極めて慎重に利上げを行うから安心してほしい。」というこれまでにも繰り返し示されてきた主張が、FOMCメンバーのFF金利の将来見通しそしてイエレン議長の記者会見にあらわれていた。
下記の表はFOMC参加メンバーの今後の経済成長率や失業率、PCEインフレ率、FF金利についての見通しである。経済成長率や物価上昇率などは9月時点の発表値から大きな変化はないが、特筆すべきは赤字で示したFF金利の今後の見通しだ。FOMCは極端な予想がレンジに反映することを避けるために、予想値が大きい上位3人・予想値が小さい下位3人を除いた「刈り込み中心レンジ」を示している。2016年末のFF金利予想レンジは、9月時点で1.1-2.1%だったのに対し、12月は0.9-1.4%と下方にシフトしている。2017年以降も同様に9月時点から下方シフトが見られる。
2016年末の予想の上限が1.4%ということは、予想通りに進めば2016年に4回つまり四半期に1度程度の利上げが実施されることになる。過去の利上げ局面では毎回のFOMCごとに利上げが実施されていたこともあり、それに比べて非常にゆっくりと利上げを行うことが示唆されている。さらに、経済状況によっては必ずしも四半期に1度利上げを行うわけではないということが、0.9%という予想レンジの下限に示されているのだろう。
そしてFOMC後に行われた記者会見で、イエレン議長はゆっくりと利上げを行う方針を強調した。イエレン議長は、「ゼロ金利」という異常な状態を脱することができるほどには米国経済は回復したものの、依然として労働市場に質的な回復の余地が残っているとみなしていることを示唆した。ではなぜこの段階で利上げを決定したかといえば、景気の大幅な過熱を受けた急激な引き締めを行うことを避けたいためであると表明した。今の段階で利上げを実施して経済が弱含むリスクと、景気が過熱して将来急激な引き締めをして経済が大きく落ち込むリスクを天秤にかけ、前者を選んだということだろう。
さらに、これは筆者の想像による部分が大きいが、突発的に経済危機が発生した際の緩和手段を少しでも多く用意しておきたいとの判断もあったのではないか。ゼロ金利政策を実施した状態においては、さらなる緩和手段は原則として大規模な債券購入のような非伝統的手段に限られる。FRBは新規の債券の買い入れは停止したとはいえ、そのバランスシートは巨大なままである。この状態でもし経済危機が発生した場合に、危機を食い止めるための手段が十分ではないと市場からみなされればさらに危機が増幅してしまう可能性もある。イエレン議長は現時点でそうした危機が発生するとは考えていないとの認識を示したが、政策手段を1つでも多く早めに確保しておきたいというのも本音ではないだろうか。
■茨の道
利上げを決定したFRBだが、未曾有の大規模な金融緩和政策から正常化への道は始まったばかりであり、その道は誰も辿ったことがない。来年は思ってもいない危機が訪れるかもしれない。当然イエレン議長以下FRBの面々は、危機の内容はともかく危機が起きることは想定に入れているだろう。
「経済が想定通りに進展しなければ、我々は確実に利上げを休止する。」記者会見での議長の発言からは、強い決意を感じる。来年は金融政策正常化の過程で非常にボラティリティの高いマーケットになる可能性があるが、危機には適切な政策が実施されるとの信頼を持てれば、そうした局面を投資のチャンスとして捉えることができるかもしれない。
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