米国マーケットの最前線

米国マーケットの最前線-経済動向から日本への影響まで-(随時更新)

世界一の規模を誇る米国マーケット。経済動向や注目トピックの解説、そして日本に与える影響まで踏み込んだ旬な情報をお届けいたします。

執筆者:マネックス証券 プロダクト部

米国経済の勢いに陰り?

ADP雇用統計(前月差) 12月 +25.7万人 市場予想 +19.8万人 前月 +21.1万人(下方修正)
(予想)非農業部門雇用者数 市場予想 +20.0万人 マネックス証券予想 +20.0万人
ISM製造業景況感指数 12月 48.2 市場予想 49.0 前月 48.6
ISM非製造業景況感指数 12月 55.3 市場予想 56.0 前月 55.9
新車販売台数(年換算) 12月 1734万台 前月 1819万台

雇用は堅調、でも・・・?

本日(1月8日)、利上げが決定されてから初めて米国雇用統計が発表される。当然今後の注目点はFRBがどのようなペースで利上げを行っていくかということになる。後述するが、労働市場の回復は依然として堅調に続いている可能性が高い。ただ、その他の経済指標を見る限り、米国経済の成長の勢いがやや鈍化している懸念がある。12月のFOMCで発表されたFOMCメンバーの2016年末のフェデラル・ファンド金利の中央値は1.4%だった。ここから逆算すると今年4回の利上げが行われることになるが、本当にそのペースで利上げできるか現時点ではかなり不透明だ。

まずは労働市場の関連指標について記すと、6日に発表された12月のADP雇用統計は前月差25.7万人の増加と市場予想を大きく上回って11月から増加数が加速した。前月分は僅かに下方修正されたが、10月以降の3ヶ月の平均は21.4万人増と堅調な増加の目安とされる20万人を上回る増加ペースだ。また、労働市場の先行指標である週間の新規失業保険申請件数も低水準が続いていることからも、労働市場の回復は堅調に続いていると判断できるだろう(グラフ参照)。

今夜発表の雇用統計の非農業部門雇用者数は、これらの先行指標の動きから堅調な内容となると見込まれている。市場予想では前月差20万人増だが、マネックス証券では同様に20万人増程度と考えている。

雇用統計で想定される市場の反応

雇用統計が堅調であれば、利上げペースが上がることが意識されドル高要因となる。ただ、足下では世界的にリスク回避姿勢が深まっている。その要因は様々で、(1)中東情勢の緊迫化(2)中国経済の減速懸念の再燃(3)原油価格の大幅下落(4)北朝鮮の核実験などがあげられるだろう。さらに、後述するが、世界経済の不動の中心である米国経済の成長にやや陰りが見られることも遠因として働いているのではないか。

これだけリスクオフムード一色となると、事態の打開が図られる大きな材料が出るまではリスクオンに傾くことは考えにくい。雇用統計が堅調であってもややインパクト不足という感があり、一時的・短期的な反発はあってもトレンドの大幅な変化は期待しづらいのではないか。足下で117円台まで円高に振れているドル円を例に上げると、118円~119円で上値が重くなるとみている。

鈍化が見られる米国の経済指標

12月のISM景況感指数は製造業・非製造業とも揃って市場予想を下回り前月から悪化した。特に製造業は2カ月連続で景況感改善と悪化の境目となる50を下回って(48.2)おり、状況は芳しくない。項目別に見ても、新規受注(49.2)、生産(49.8)とそれぞれ重要項目が50を下回っており、未だ底打ちの兆しは見られていない。非製造業もヘッドラインは55.3と水準自体は好調だが、2カ月連続での悪化である。

さらに、12月の新車販売台数は年換算1734万台と4ヶ月ぶりに1800万台の大台を割り込み、昨年6月以来の水準となった(グラフ参照)。昨年の米国は年間の新車販売台数が過去最高を記録しており、12月の数字も決して悪いものではないが、大幅な落ち込みはやや気がかりである。

GDPNowの落ち込みと今後の利上げペース

経済指標の鈍化を反映し、アトランタ連銀が発表している最新のGDPの成長率予測値(GDPNow)も落ち込んでいる。11月には2%台だった成長予測が、足下では1.0%まで下方修正されている(グラフ参照)。このような状況下でこれまで再三に渡って「経済指標次第の金融政策運営」を掲げてきたイエレンFRBが、利上げペースを早めることは考えにくい。むしろ利上げペースを緩める方向になるのではないか。そうなれば当然米国株式市場には望ましいが、一方ドルの上値が重くなることが想定され、その場合日本株にはマイナスである。日銀の追加緩和という切り札が発動されなければ、日本株の大幅な上昇は期待しづらいかもしれない。


用語解説

雇用統計(米国)
米政府による雇用環境を調査した統計。発表される統計のなかでも、失業率(働く意欲がある人口に占める失業者の割合)と非農業部門雇用者数変化(農業従事者を除いた雇用者数の増減)が市場で注目されやすい。通常は月初の金曜日に前月分が公表される。

ISM景況感指数
ISM(Institute for Supply Management 供給管理協会)が発表する景気転換の先行指標である。供給管理協会が企業の担当者にアンケート調査を実施して作成しており、主要経済指標の中ではいち早く発表されることから景気の先行指標として重要視されている。数値が50を上回れば企業の景況感が好転、50を下回れば悪化していることを示す。製造業、非製造業それぞれ別に指標が発表される。

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