米国マーケットの最前線-経済動向から日本への影響まで-(随時更新)
世界一の規模を誇る米国マーケット。経済動向や注目トピックの解説、そして日本に与える影響まで踏み込んだ旬な情報をお届けいたします。
執筆者:マネックス証券 プロダクト部
弱い、弱い、アメリカ?(雇用統計直前レポート)
ADP雇用統計(前月差) 1月 +20.5万人 市場予想 +19.5万人 前月 +26.7万人
(予想)非農業部門雇用者数 市場予想 +19.0万人 マネックス証券予想 +17.0万人
ISM製造業景況感指数 1月 48.2 市場予想 48.4 前月 48.0
ISM非製造業景況感指数 1月 53.5 市場予想 55.1 前月 55.8
新車販売台数(年換算) 1月 1758万台 前月 1734万台
■雇用統計の先行指標は堅調
本日(2月5日)22時半に1月の米国雇用統計が発表される。FRBの今後の利上げペースに大きな影響を与えるとみられ、引き続き市場の注目度は高い。
3日に発表された雇用統計の先行指標であるADP雇用統計は前月差20.5万人増と市場予想を上回る増加となった(グラフ参照)。引き続き米国労働市場の回復は継続しているとみられ、1月分の雇用統計も堅調な結果が予想されている。
なお、1月に大寒波が米国東海岸を襲ったが、雇用統計の調査対象期間後だったため、今回の雇用統計には大きな影響が出ていないとみられる。ただ、1月分の雇用統計は毎年恒例のテクニカルな変更が適用されるため、過去分を含めた修正が予定されている点には注意を払いたい。マネックス証券では非農業部門雇用者数について市場予想をやや下回る17万人増程度を予想している。
■気になる指標
上述したように1月の雇用統計は概ね堅調な内容になると考えているが、労働関連指標でやや気になる指標があるので紹介したい。それは、労働市場の先行指標である新規失業保険申請件数である。グラフに示したように、この数年間一貫して減少(改善)してきた同指標が増加(悪化)に転じているのである。エネルギーセクターの不調によるリストラの増加などが米国労働市場に下押し圧力となっている可能性がある。現時点で労働市場の停滞や景気失速まで考慮するのは過度の悲観だろうが、一定の警戒は持っておくべきだろう。
■ネガティブインパクト大のISM景況感指数
米国企業の景況感を示すISM景況感指数が、製造業・非製造業揃って前月から悪化した。4カ月連続で改善と悪化の境目となる50を下回った製造業もさることながら、前月から2.3ポイントの大幅下落で2014年3月以来の低水準(53.5)となった非製造業指数に市場は過敏に反応した。
製造業が悪くても非製造業は好調でそれが米国経済の支えになるとのシナリオが揺らいだ格好である。10-12月期のGDP速報値はわずか0.7%増に沈んだが、1-3月期もとても楽観的なシナリオは描けない。
■3月利上げはできない
これまで紹介してきたように、米国経済は芳しくない。本来であれば金融引き締めどころか緩和的な金融政策も議論の俎上に上がるかもしれないような状況である。以前からレポートで記していたようにこのような状況下でFRBが3月利上げを実施できるわけがないと筆者は考えている。年初から今後の利上げペースについてフィッシャー副議長などが強気な見通しを示してきたが、ここへきてFRB高官のトーンは急速に低下しつつある。フィッシャー副議長は今週「利上げの回数は決まっていない」とややニュートラルな発言を行った。そしてダドリー・ニューヨーク連銀総裁は「12月の利上げ後に、世界の金融環境は著しく引き締まった。こうした状況が3月のFOMCまで続けば考慮する必要がある。」と語った。
事実上、3月利上げを諦めるような発言と受け取られ、ISM非製造業の大幅悪化と相まって3月利上げ見通しは大幅に後退し、市場ではドル安が進んでいる。月利上げの可能性が後退したことは短期的にマーケットに好感される可能性があるが、本来着眼すべきはそれほどまでに米国経済が弱まっている可能性があるという点だろう。現在は米国株ひいてはリスク資産全体の保有割合引き下げを検討しても良い局面なのかもしれない。
■用語解説
雇用統計(米国)
米政府による雇用環境を調査した統計。発表される統計のなかでも、失業率(働く意欲がある人口に占める失業者の割合)と非農業部門雇用者数変化(農業従事者を除いた雇用者数の増減)が市場で注目されやすい。通常は月初の金曜日に前月分が公表される。
ISM景況感指数
ISM(Institute for Supply Management 供給管理協会)が発表する景気転換の先行指標である。供給管理協会が企業の担当者にアンケート調査を実施して作成しており、主要経済指標の中ではいち早く発表されることから景気の先行指標として重要視されている。数値が50を上回れば企業の景況感が好転、50を下回れば悪化していることを示す。製造業、非製造業それぞれ別に指標が発表される。
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