米国マーケットの最前線

米国マーケットの最前線-経済動向から日本への影響まで-(随時更新)

世界一の規模を誇る米国マーケット。経済動向や注目トピックの解説、そして日本に与える影響まで踏み込んだ旬な情報をお届けいたします。

執筆者:マネックス証券 プロダクト部

6月利上げほぼ消滅

非農業部門雇用者数(前月差) 5月 +3.8万人  市場予想 +16.0万人  前月 +12.3万人 
失業率                5月 4.7%  市場予想 4.9%  前月 5.0%
平均時給 市場予想(前年比) 5月 +2.5%  市場予想 +2.5%  前月 +2.5%
ISM非製造業景況感指数    5月 52.9  市場予想 55.3  前月 55.7

<レポートの概要>
・雇用統計は非農業部門雇用者数が大きなネガティブ・サプライズでその他もあまり冴えない内容
・6月利上げの可能性はほぼ消滅 7月も大幅低下か
・ISM非製造業指数も大幅悪化 米国株の先行きにはポジティブになれない

目を疑うネガティブ・サプライズ

3日に発表された雇用統計で、非農業部門雇用者数はわずか3.8万人増と2010年9月に5.2万人減を記録して以来の低い伸びにとどまった。前回のレポートで記したようにベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)の従業員がストライキに入っていた影響で、ある程度下振れは見ておいた方が良いと考えていたがその予想を遥かに超える悪い結果だった。また、4月分が+16.0万人から+12.3万人、3月分が+20.8万人から+18.6万人へと計5.9万人下方修正された。失業率は4.7%と前月の5.0%から0.3%の大幅改善となったが、後述するようにあまり良い改善の仕方ではない。また、平均時給の伸びは前年比2.5%で市場予想と一致した。

5月の非農業部門雇用者数はわずか3.8万人増と市場予想からすると12万人以上少なかったことになる。どれだけ特殊要因が関係しているかだが、現時点でわかっているのは以下の2つである。1つ目は、前回のレポートでも触れたベライゾン・コミュニケーションズのストライキの問題だ。労働統計局の発表によれば約3.5万人がストライキの影響で非農業部門雇用者数のカウントから外れている。そしてもう1つが悪天候による失職である。労働統計局は毎月悪天候によって就業できなかった人の人数を発表しており、5月はその人数が7.3万人だった。5月の同人数の過去10年の平均は(2006年5月~2015年5月)は約5万人なので、平均値とのずれからすると約2.3万人が悪天候の影響で就業者数が少なく出ている可能性がある。つまりストライキと悪天候あわせて約6万人が特殊要因による就業者数減につながっている可能性があるということだが、下振れは特殊要因だけでは説明できないことになる。

失業率の低下も手放しに喜べるものではない。米国の失業率は失業者数÷(失業者数+就業者数)で算出される。4月はこれが、792万人÷(792万人+1.51億人)=5.0%で計算されていたものが、5月は743.6万人÷(743.6万人+1.51億人)=4.7%となった。見ていただければわかるように失業者数が約50万人減少したことが失業率低下の要因となっているのだが、就業者数は変わっていないのである。より細かく数字を見ていくと、4月の就業者数は1億5100万4000人であるのに対し、5月の就業者数は1億5103万人で、わずか2万6000人しか増加していない。米国の失業者は「働く意欲があり職探しをしているのに職につけていない人」という定義なので、「職探しを諦めてしまい失業者にカウントされなくなった人が多い」ためだと推察される。このように、失業率の大幅低下は決して内容の良いものではないのだ。一時上昇傾向にあった労働参加率もここへきて再び低下している(グラフ参照)。

6月利上げはほぼ消滅、7月も可能性は低下

非農業部門雇用者数は低調だったが、これだけで米国の労働市場が急速に悪化したと判断するのは早計だ。平均時給の伸びなどに大きな変動はないし、前回のレポートで記したようにADP雇用統計や新規失業保険申請件数などその他の労働関連指標はまずまず堅調だ。労働市場の状況については改めて来月の雇用統計を待ちたい。

とはいえ、今回の雇用統計を受けて6月の利上げ実施の可能性はほぼなくなったと見ていいだろう。慎重なイエレンFRB体制は、今回の雇用統計が単月のノイズなのか米国の労働市場に変化が起きているのか判断を待ちたいと考えるはずだ。イエレンFRB議長は就任以来何より労働市場の回復を重んじており、労働市場に回復鈍化の可能性があるなかで無理して6月利上げに踏み切ることは考えにくい。

次の連邦公開市場委員会(FOMC)6月14日・15日に開催されるが、その次は7月26日・27日である。7月のFOMCの際には6月分の雇用統計しか確認できないことになり、仮に6月分が良好な内容だったとしてももう1段の確認をしたいとの思惑が働きやすいとみられる。7月も利上げに踏み切る可能性は低いだろう。雇用統計の結果を受け2年債利回りが大幅に低下するなど、マーケットはすでに早期利上げの見送りを織り込みにかかっているようだ。

ISM非製造業指数もネガティブ・サプライズ

雇用統計と同じ3日に発表されたISM非製造業景況感指数もネガティブ・サプライズだった。ヘッドラインは55.7→52.9へと2.8ポイント低下して、2014年2月以来2年3ヶ月ぶりの低い水準となった。ヘッドラインを構成する各指数の内訳をみても、新規受注(59.9→54.2)、雇用(53→49.7)、業況(58.8→55.1)、入荷遅延(51→52.5)と4項目中3項目が前月から悪化した。前回のレポートで記したように、前月から改善したISM製造業指数は内容があまり良いとはいえず、製造業・非製造業とも景況感の改善が止まっているような状況にある。もちろん両指数とも依然として改善と悪化の境目である50の節目を上回っており過度に悲観的になる必要はないが、少なくとも米国経済が力強い成長を示しているような状況にはなさそうだ。

こうした状況のなか、米国株は依然として高値圏にある。グラフに示したようにS&P500の予想PERは17倍台後半とやや割高感があり、筆者は米国経済の成長が力強くないなかでここからの米国株の一段の上昇にはやや懐疑的である。6月はFOMC・日銀の金融政策決定会合・英国の国民投票とリスクイベントが多い。現在は米国株のウェイトをあえて高める局面ではないと考えている。

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