米国マーケットの最前線

米国マーケットの最前線-経済動向から日本への影響まで-(随時更新)

世界一の規模を誇る米国マーケット。経済動向や注目トピックの解説、そして日本に与える影響まで踏み込んだ旬な情報をお届けいたします。

執筆者:マネックス証券 プロダクト部

追加利上げが見送られたFOMC

14日から15日にかけて行われた連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げは見送られた。5月分の雇用統計で非農業部門雇用者数の伸びが低調だったことなどから今回の会合で利上げが見送られることは予想されており、サプライズはなかった格好だ。本レポートではFOMC後に発表された声明文や、プロジェクション(FOMCメンバーの今後の経済や金利の予想)の変化についてご紹介したい。

■声明文の変化

今回の声明文で前回の声明文からいくつか変更された箇所があるが、そのほとんどは声明文序盤のFOMCメンバーの経済状況の認識についてである。特に特徴的だったのが、前回のFOMC以降「経済活動は拡大した一方で、労働市場は鈍化した。(the pace of improvement in the labor market has slowed while growth in economic activity appears to have picked up)」と、米国労働市場と米国経済全般についてのメンバーの状況認識に変化があったことだ。

このうち労働市場の鈍化については5月分の雇用統計が冴えなかったことを反映してのものとみられる。市場では5月の雇用統計の鈍化は一時的な振れに過ぎないとの見方もあるが、FOMCメンバーはある程度労働市場のトレンドが変わって伸びが鈍化しているリスクを考慮しているようだ。ただ、イエレンFRB議長はFOMC後の会見で労働市場の状況を認識する際に「1つの経済指標に過剰反応するべきではない」との主旨で発言しておりバランスをとっている。声明文ではその他にも家計支出が拡大していることや輸出の鈍化が経済に与える悪影響が緩和しているとの見通しが示された。

意思決定についても前回会合から変化があった。前回4月の会合ではカンザス連銀のジョージ総裁がFF金利の引き上げを主張して、金利の現状維持について1人反対票を投じた。そのジョージ総裁も今回は賛成に回って全員一致での決定となった。また、今回の声明文には昨年11月の声明文に盛り込まれたような近い会合で利上げが行われることを明確に示唆するような文言も記されなかった。これらを総括すると、FOMCメンバーたちは前回会合からかなりハト派寄りに変化したと考えてよさそうだ。

■プロジェクションの変化

3月・6月・9月・12月のFOMC後には、メンバーの経済予測(プロジェクション)が発表される。今回最も特徴的だったのは、来年以降のFF金利見通しの中央値が大きく下方修正されたことだろう。2016年こそ変化がなかったが、2017年(1.9%→1.6%)、2018年(3.0%→2.4%)、より長期(3.3%→3.0%)とそれぞれ下方修正された(表参照)。

また、通称「ドットチャート」と呼ばれるFOMCメンバーそれぞれの今後のFF金利予測のチャートにも顕著な変化があった。3月時点では、今年の利上げ回数を「1回だけ」と予想している「0.5%~0.75%」のレンジが1人だけだったのに対し、今回は6人に増えた(表参照)。さらに、2017年の金利予想も全体的に下側(低金利側)に移っている。

■次の利上げ時期はいつか

5月分の雇用統計が発表される前は、FOMCメンバーの一部から「6月のFOMCでの追加利上げも排除しない」といったような強気な姿勢が目立っていた。ただ、非農業部門雇用者数の大幅な伸び鈍化によってメンバーの考えにかなり変化があったようだ。

それではFRBの利上げ時期はいつになるのだろうか。残る今年のFOMC開催日程は、7月26日・27日、9月20日・21日、11月1日・2日、12月13日・14日の4回である。イエレン議長は記者会見で今後のどの会合でも利上げが行われる可能性があると述べた。ただ、7月の利上げはかなり可能性が低下したとみてよいだろう。

ご紹介したように、FOMCの声明文で米国労働市場の伸びが鈍化しているとの認識が表明された。その点を過度に重要視することをイエレン議長は牽制しているものの、これから7月のFOMCまでに雇用統計は1度しかない。その雇用統計がある程度堅調な内容となったとしても、労働市場を巡る懸念が完全に解消することは難しいとみられる。であれば、7月は利上げを見送って労働市場やその他の経済状況を確認してから9月のFOMCで改めて利上げを検討する、とみるのが自然ではないか。当然9月に追加利上げが実施されるかどうかはそれまでに発表される経済指標次第ということになる。

利上げが遠のいたということは、米国株式市場のサポート要因になる。ただ、目先は6月23日の英国の国民投票(Brexit)を控えてマーケットがリスクオンになる可能性は低い。さらに、S&P500の予想PERが17倍台後半とやや割高感がある水準にある(グラフ参照)。ダウ平均は15日まで5日続落と調整色を強めているが、下げ幅は400ドル未満と大幅な調整があったわけではない。引き続き目先は株価の下落を警戒するべき局面ではないかと考えられる。

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