米国マーケットの最前線

米国マーケットの最前線-経済動向から日本への影響まで-(随時更新)

世界一の規模を誇る米国マーケット。経済動向や注目トピックの解説、そして日本に与える影響まで踏み込んだ旬な情報をお届けいたします。

執筆者:マネックス証券 プロダクト部

雇用統計直前レポート

ADP雇用統計(前月差) 6月 +17.2万人 市場予想 +16.0万人 前月 +16.8万人
(予想)非農業部門雇用者数(前月差) 6月 市場予想 +18.0万人 前月 +3.8万人 
(予想)平均時給 市場予想(前年比) 6月 市場予想 +2.7% 前月 +2.5%
ISM製造業景況感指数 6月 53.2 市場予想 51.3 前月 51.3
ISM非製造業景況感指数 6月 56.5 市場予想 53.3 前月 52.9

非農業部門雇用者数の伸びが大きな焦点

本日(8日)日本時間21時半に6月分の米雇用統計が発表される。今月の雇用統計の大きな注目点は、非農業部門雇用者数の伸びが回復するかという点だろう。今年に入っての非農業部門雇用者数の伸びは、1月+16.8万人、2月+23.3万人、3月+18.6万人、4月+12.3万人、5月+3.8万人と急速に伸び悩んでいる。今年に入ってからの月間平均は14.9万人と、昨年1年間の平均+22.9万人に比べて大きく鈍化している(グラフ参照)。もっとも、失業率が4.7%と完全雇用に近いとの指摘もある中で、雇用者数の伸びが鈍化すること自体はある意味当然のこととみられる。ただ、鈍化ペースがやや急すぎるというのがイエレンFRB議長を始めとしたFRB高官たちの懸念かもしれない。

6月3日に5月分の雇用統計が発表されるまでは、FRB高官たちが早期利上げに傾いていることを伺わせる強気な発言が続いていたが、雇用統計後に状況は大きく変わった。例えば、ウィリアムズサンフランシスコ連銀総裁は5月下旬にニューヨークで「年内に2・3回、2017年に3・4回の利上げが妥当な線だ」という主旨の強気な発言を行った。そのウィリアムズ総裁は今週に入って「経済成長が自分の予測通りなら年内に利上げを実施する余地もある」と年内利上げの可能性は否定してはいないものの、わずか1ヶ月半前から極めてトーンが弱まっている。5月の低調な雇用統計、および英国の国民投票でのEU離脱派勝利はFRB高官たちのセンチメントを変えるのに十分なインパクトを持っていたようだ。

もはや市場は年内利上げさえ可能性が非常に低いと見込んでいる。以下の表はCMEグループが発表しているフェデラルファンド・レートの先物価格から逆算した、市場の見込む各回の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ可能性を示したものである。もはや7月会合から11月会合までは0%である。かろうじて12月会合では14%まで可能性が上昇するが、それでもまだ高い水準ではない。

もちろん、市場の見方は行き過ぎている可能性がある。英国の国民投票の結果が米国経済や世界経済に与える影響が軽微にとどまり、労働市場の堅調さが確認されれば再びFRBのスタンスがややタカ派的になる可能性はある。足元の米国経済や堅調に推移しているとみられるためだ。後述するように6月のISM景況感指数は製造業・非製造業とも好調だった。また、アトランタ連銀が公表しているGDP成長率予測「GDPNow」は、4-6月期の成長率を2.4%と見込んでいる(7月6日時点)。英国民投票の経済への影響の有無・度合いはある程度時間が立たねば判断できないため、確かに7月・9月のFOMCで利上げが決定される可能性は非常に低いとみられる。ただ、米国経済の足腰である労働市場の回復が確認されれば、12月利上げが実施される可能性は十分にあるのではないか。

その他の労働市場関連指標は堅調

このような背景があるため今月の雇用統計は特に注目度が高い。それでは米国労働市場はどのような状況にあるのだろうか。結論から言えば、5月の雇用統計の低調な結果は一時的なブレである可能性がやや高いとみている。その理由は雇用統計以外の労働関連指標が堅調に推移しているためだ。

7日に発表された雇用統計の先行指標であるADP雇用統計の民間部門の雇用者数は、前月から17.2万人増加した。2016年に入ってからの月間平均も18.2万人と20万人には達しないものの堅調な水準で推移している。同じく7日に発表された新規失業保険申請件数は25.4万人と前週の27.0万人から減少した。4週移動平均をみても概ね減少(望ましい)傾向が続いている。

5月分の非農業部門雇用者数の伸び鈍化には、大手通信会社ベライゾン・コミュニケーションズ(VZ)の従業員のストライキという特殊要因もあった。6月分の非農業部門雇用者数はそうした特殊要因の剥落などにより、16-18万人程度の伸びになるのではないかと考えている。

好調なISM景況感指数

企業の景況感を示す6月のISM景況感指数は製造業・非製造業とも好調だった。先に発表された製造業指数のヘッドラインは、53.2と前月の51.3から改善して2015年2月以来の高水準を記録した。指数の内訳を見ると、ヘッドラインを構成する5項目は新規受注(55.7→57)、生産(52.6→54.7)、在庫(45→48.5)、雇用(49.2→50.4)、入荷遅延(54.1→55.4)と全項目が前月から改善するとともに改善と悪化の節目となる50を上回った。

また、非製造業指数のヘッドラインも56.5と前月の52.5から大幅に改善した。ヘッドラインを構成する4項目は新規受注(54.2→59.9)、業況(55.1→59.5)、雇用(49.7→52.7)、入荷遅延(52.5→54)とこちらもすべての項目が前月から改善して50を上回った。

ISM景況感指数の改善は、企業業績の改善を示唆するため米国経済および米国株にとって非常にポジティブである。グラフに示したのは、ISM製造業指数の「新規受注」とS&P500の前年比上昇率を比較したものだ。二つの指標の相関性がかなり高いことがわかる。ただ一方で、現在の米国株にはやや割高感がある。S&P500の予想PERは17倍台後半と、たびたび頭打ちになってきた18倍に近い水準である。企業業績が改善して利益が増えれば同じ株価水準ならPERは低下することになるので、株価が先行して上昇する可能性ももちろんあるが、積極的に買いにいくにはやや二の足を踏む水準かもしれない。

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