米国マーケットの最前線

米国マーケットの最前線-経済動向から日本への影響まで-(随時更新)

世界一の規模を誇る米国マーケット。経済動向や注目トピックの解説、そして日本に与える影響まで踏み込んだ旬な情報をお届けいたします。

執筆者:マネックス証券 プロダクト部

予想通りの利上げ見送り~FOMC結果報告~

26日から27日にかけて開催された連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げは見送られた。今回の会合で利上げが決定される可能性はゼロに近く、利上げ見送りは既定路線だった。本レポートでは、前回会合後に発表された声明文と今回の声明文の変化をご紹介し、利上げ時期についての考察を行いたい。

労働市場の見方に変化あり

まず、声明文冒頭で示される経済状況への認識に大きな変化があった。労働市場に対する認識について、前回の声明文では「労働市場は鈍化した。(the pace of improvement in the labor market has slowed)」と表現されていたのに対し、今回は「労働市場が力強さを増した(the labor market strengthened)」との表現に変わり、明確に労働市場に対する認識が変更された。さらに続けて「雇用の伸びは5月は弱かったが6月は力強かった」と記載された。

この労働市場に対する認識変化は、雇用統計の非農業部門雇用者数の伸びを反映したものだ。5月分は当初前月から3.8万人の伸びにとどまった(6月分の発表時に1.1万人増に下方修正)が、6月分はその反動で28.7万人の高い伸びとなった。5月の雇用統計後は労働市場の回復に異変が起きている可能性があるとして、FOMCメンバーの利上げに対するスタンスは大きくハト派的になった。ただ、その後発表された6月分の雇用統計で労働市場の改善継続が確認されたことでメンバーたちの懸念が後退したということだろう。

また、労働市場への見方の他に特筆すべき一文があった。それは、「短期的な経済見通しへのリスクは低下した(Near-term risks to the economic outlook have diminished.)」というものだ。「短期的な経済見通しへのリスク」が何を意味するか、確たることはわからないが、労働市場の悪化回避やBrexitに伴う金融市場の混乱が概ね収まったことを示しているのかもしれない。

これまで紹介してきたように、今回の声明文は前回6月の声明文よりも全体的に楽観的になった。そして前回会合からのもう1つの大きな変化が、金融政策の現状維持(利上げ見送り)に対して反対するメンバーが表れたことだ。タカ派で知られるカンザスシティ連銀のジョージ総裁が今回の会合で利上げをするべきだと主張して、利上げ見送りに反対票を投じたのである。ジョージ総裁は現在のFOMCメンバーの中で最もタカ派的であることで知られており、FOMC内の主流派というわけではないため彼女の行動が即時に利上げにつながるわけではないとみられるが、こうしたメンバーが表れたことは注目に値するだろう。

マーケットの反応と予想される今後の利上げ時期

このように前回声明からはだいぶ楽観的になった今回の声明文だが、マーケットを驚かせるほどではなかったようだ。グラフに示したように、発表直後こそ米2年債利回りは上昇しドル円はやや円安に振れたものの、すぐに発表前の水準に戻りその後はむしろ金利低下・円高傾向となった。

声明文のトーンに変化はあったものの、明確に近い会合で利上げを行うとの示唆がなかったことや、インフレ率の関連指標が低いままであるとの表現が盛り込まれていることなどがマーケットの思惑に大きな変化を与えなかったのかもしれない。

それでは予想される次の利上げ時期はいつなのだろうか。上述したように今回の声明文は労働市場の見通しが大きく改善するなどの前向きな変化があり、実際に利上げを主張するメンバーも表れた。さらに、29日に発表される4-6月期の米GDP成長率は前期比年率換算2.6%増と堅調な数字になると予想されている。これらから総合すると次回の9月会合での利上げ可能性がまったくないわけではない。ただ、あくまで経済指標を見つつ慎重に政策検討を進めるというFRBのスタンスは変わっていない。今後の経済指標を見極めつつ、12月のFOMCで利上げを行うというのがメインシナリオではないだろうか。

ただ、大きな波乱材料が11月に行われる米大統領選だ。有力候補の1人であるトランプ氏は低金利の継続が望ましいとして利上げを志向するイエレンFRBに対して不満を表明し、自身が大統領になったらイエレン議長を再任しない意向であると明言している。もちろんFRBの金融政策実施にあたっては独立性が保証されており、大統領の意向で金融政策が変わることはないと考えられるが、影響が出ないとも言い切れない。今夏から秋にかけては大統領戦の世論調査などが今後の金融政策の思惑につながり、市場の材料となることも多くなってくるかもしれない。

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