米国マーケットの最前線-経済動向から日本への影響まで-(随時更新)
世界一の規模を誇る米国マーケット。経済動向や注目トピックの解説、そして日本に与える影響まで踏み込んだ旬な情報をお届けいたします。
執筆者:マネックス証券 プロダクト部
雇用統計直前レポート
ADP雇用統計(前月差) 8月 +17.7万人 市場予想 +17.5万人 前月 +19.4万人
(予想)非農業部門雇用者数(前月差) 8月 市場予想 +18.0万人 前月 +25.5万人
(予想)平均時給 市場予想(前年比) 8月 市場予想 +2.5% 前月 +2.6%
ISM製造業景況感指数 8月 49.4 市場予想 52.0 前月 52.6
■9月に利上げが実施されるかどうかの最大の判断材料
本日(2日)日本時間21時半に8月分の米雇用統計が発表される。前回のレポートで記したように、イエレンFRB議長のジャクソンホール講演およびフィッシャー副議長の発言以降、9月の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げが実施されるのではないかとの見方が強まっている。フィッシャー副議長は8月分の雇用統計がその最大の判断材料になると認めており、普段よりも一層市場の注目度は高い。
雇用統計は堅調な内容になると予想されている。雇用統計の先行指標である8月分のADP雇用統計は、民間部門の雇用者数が前月から17.7万人増と市場予想をやや上回る堅調な内容だった。7月分も速報値の17.9万人増から19.4万人増に上方修正された。労働市場の先行指標である新規失業保険申請件数も減少(望ましい)傾向を継続している。これらの労働市場の経済指標からすると、米国労働市場に異常は認められない(グラフ参照)。
もちろん雇用統計の非農業部門雇用者数は5月分がわずか2.4万人増にとどまったことからもわかるように、非常にブレの大きい指標であり思わぬ下振れの可能性も否定できないが、そういった極端な下振れを予想することはほぼ不可能に近い。ADP雇用統計等の経済指標から判断すると、8月の非農業部門雇用者数は18万人増前後の堅調な内容になるのではないかと考えている。
それでは雇用統計がどのような内容であれば、FOMCは9月利上げの判断に傾くのだろうか。前回のレポートに記したようにイエレン議長が「この数ヶ月で利上げの論拠が強まった」と発言したことからすれば、この数ヶ月の水準が追加利上げの判断基準になるとみられる。非農業部門雇用者数は1月から7月までの平均が18.6万人増、足元3ヶ月の平均が19.0万人増である。8月分が上述した18万人前後の伸びになれば許容範囲だろう。また、平均時給も前月と同水準の前年比2.6%前後の伸びとなればFOMCメンバーは追加利上げにGOサインを出す可能性が高い。
■不調に終わったISM製造業指数も政策判断への影響は限定的か
1日に発表されたISM製造業景況指数は49.4と市場予想の52.0を大幅に下回り、前月の52.6から3.2ポイントの大幅悪化となった。同指数が改善と悪化の境目となる50を下回ったのは2月以来半年ぶりである。指数の内訳をみると、新規受注(56.9→49.1)、生産(55.4→49.6)、在庫(49.5→49)、雇用(49.4→48.3)、入荷遅延(51.8→50.9)とヘッドラインを構成する5項目が揃って前月から悪化した。特に新規受注は前月から7.8ポイント、生産は5.8ポイントの大幅悪化である(グラフ参照)。
言うまでもなくISM製造業景況指数の大幅悪化は米経済にとってネガティブだ。ただ、この水準であればFOMCでの利上げ判断への影響は限定的なのではないだろうか。というのも、昨年12月のFOMCで利上げが決定された際、直前のISM製造業景況指数(11月分)は48.6と50を下回っていた。それも今回と同じように10月の50.1から大きく悪化して50を割り込んだタイミングであった。それでもFOMCは躊躇なく利上げに踏み切ったように、ISM製造業指数単体の悪化よりも労働市場やその他の指標などを全体的に判断して政策判断は行われるとみられる。
雇用統計を無難に通過することが前提になるが、イエレン議長やフィッシャー副議長の発言を踏まえると9月のFOMCで利上げが決定される可能性が高いと考えている。
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