米国マーケットの最前線

米国マーケットの最前線-経済動向から日本への影響まで-(随時更新)

世界一の規模を誇る米国マーケット。経済動向や注目トピックの解説、そして日本に与える影響まで踏み込んだ旬な情報をお届けいたします。

執筆者:マネックス証券 プロダクト部

利上げが見送られたFOMC~12月利上げが有力に~

連邦公開市場委員会(FOMC)

市場の予想通り利上げを見送り

20日から21日にかけて行われた連邦公開市場委員会(FOMC)で、大方の予想通り利上げは見送られた。ただし、声明文に「利上げの論拠は強まったと判断するがさらなる証拠を待つことに決めた(The Committee judges that the case for an increase in the federal funds rate has strengthened but decided, for the time being, to wait for further evidence)」との文言が追加されるなど、利上げの時期が近づいていることをはっきりと示唆し、近い会合での利上げ実施が有力であることを表明した。

冒頭に記された経済状況認識では、「労働市場の改善は続き、経済活動は今年前半の緩慢なペースから加速した。(the labor market has continued to strengthen and growth of economic activity has picked up from the modest pace seen in the first half of this year.)」と、これまでの表現よりも米経済に対する認識を上方修正した。

また、「短期的な経済見通しに対するリスクは概ね安定的である。(Near-term risks to the economic outlook appear roughly balanced.)」と前回会合の「低下した(have diminished)」という表現よりも楽観的な表現を採用した。

これまでFOMCは新興国の経済不安、英国のEU離脱など世界経済にとってのリスクに配慮を示してきたが、それらへの懸念が大きく後退したことを示唆した。では米経済への認識が上方修正され、さらにリスクが後退したことを示しているにも関わらずなぜ利上げが見送られたのだろうか。それは、足元で発表されている米国の経済指標が軟調なものがあるということ、また物価上昇率に加速の気配が見られていないということだろう。

例えば企業景況感を示す8月分のISM景況感指数は製造業が52.6→49.4に、非製造業が55.5→51.4にそれぞれ大きく悪化した。また、FRBが重視する物価指標であるPCEコアデフレーターは1.6%と目標の2%を下回った状態が続いており足元で上昇ペースが上がっているということもない(グラフ参照)。

これらの指標を受けFOMC内のハト派たちは利上げを急ぐ必要はないと主張し、利上げ実施がコンセンサスにならなかったとみられる。なお、今回の利上げ見送りに対してカンザスシティ連銀のジョージ総裁、クリーブランド連銀のメスター総裁、ボストン連銀のローゼングレン総裁は反対票を投じて今回の会合で利上げを実施するべきと主張した。FOMC内の3人のメンバーが反対票を投じることはかなり珍しく、FOMC内で意見が割れていることが伝わってくる。

プロジェクションでFF金利の見通しが大きく下方修正

3月・6月・9月・12月のFOMC後には、メンバーの経済予測(プロジェクション)が発表される。今回特徴的だったのは、FF金利見通しの中央値が6月に続いて大きく下方修正されたことだろう(表参照)。2016年、2017年、2018年、長期ともに6月時点の予想から下方修正された。2017年、2018年、長期については昨年12月のFOMC以降下方修正され続けている。

また、通称「ドットチャート」と呼ばれるFOMCメンバーそれぞれの今後のFF金利予測のチャートにも顕著な変化があった。全体的にドットが下方に移動していることはもちろん、2016年のFF金利を0.375%と予想しているメンバーが3人表れた。これは、この3人は2016年に利上げが一度も行われないと予想していることを示している。

これまで見てきた今回のFOMCのメッセージを総括すると、「追加利上げの時期は近づいている。ただし、今後も利上げは非常に慎重に行う」ということではないか。

当然今後の利上げ判断は引き続き経済指標次第となる。次回のFOMCは11月1日・2日の開催であり、それまでに最も重要な判断材料の1つである雇用統計の発表は9月分の1度しかない。さらにFOMCの約1週間後に米大統領選の開催を控えていることを考えれば、利上げを実施してマーケットが混乱し大統領選に影響をあたえるようなことは避けたいとの配慮も働くとみられる。現時点では、11月は利上げが見送られ12月開催(12月13日・14日)での実施が本命ということになろう。

重要なのは、いずれの開催で利上げが実施されたとしてもその後の米経済の推移をFOMCメンバーは慎重に見極める可能性が高く、利上げペースはゆっくりとしたものになる可能性が高いということだろう。それは米経済や世界経済の成長、また米国株にとっては望ましいと考えられるが、こと米ドル円については円安ドル高圧力がかかりにくいということを意味する。もちろん米ドル円は日米双方の要因によって動くため今後の日銀の追加緩和策などによっても大きく変化するが、短期的に大幅な円安進行は期待しづらいかもしれない。それは日本株にとっては追い風が吹かないことを意味するだろう。

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