米国マーケットの最前線

米国マーケットの最前線-経済動向から日本への影響まで-(随時更新)

世界一の規模を誇る米国マーケット。経済動向や注目トピックの解説、そして日本に与える影響まで踏み込んだ旬な情報をお届けいたします。

執筆者:マネックス証券 プロダクト部

FOMCは予想通り利上げ見送り 目先の焦点は大統領選に

ISM製造業景況感指数 10月 51.9 市場予想 51.7 前月 51.5
ADP雇用統計(前月差)  10月 +14.7万人 市場予想 +16.5万人 前月 +20.2万人
(予想)非農業部門雇用者数(前月差) 10月 市場予想 +17.5万人 前月 +15.6万人 
(予想)平均時給 市場予想(前年比) 10月 市場予想 +2.6% 前月 +2.6%

FOMCは利上げを見送り

11月1日から2日にかけて行われた連邦公開市場委員会(FOMC)で市場の予想通り利上げは見送られた。米大統領選を1週間後に控えているとあって今回は利上げが見送られるだろうとの事前の予想に沿ったものだった。

今回の最大の注目は、昨年10月の会合同様に「次回会合で利上げを行うか判断する」という意味合いの文言が声明文に記載されるかどうかであった。結果的にそうした明確な表現は盛り込まれなかったが、声明文に特徴的な変化があった。それはインフレ見通しを上方修正したことである。

まず、冒頭の経済全般への認識を示すパラグラフで、「インフレ率は今年の初めからやや上昇した(Inflation has increased somewhat since earlier this year)」とインフレ率に変化があったとの認識が示された。さらに、前回の声明文(9月)に記載のあった「インフレ率は短期的に低いままで推移すると予想される(Inflation is expected to remain low in the near term)」との文言は削除された。

前回の声明文でも利上げの時期が迫っていることは示唆されていたが、インフレ見通しの上方修正もあってより利上げ時期が近いことが示唆された。前回の声明文にあった、「さらなる証拠を待つことに決めた。(wait for further evidence)」という表現が、「いくらかのさらなる証拠を待つことに決めた(to wait for some further evidence)」と、「some」という単語が追加されてより利上げ実施へのハードルが引き下げられた。

これらの「インフレ見通しの上方修正」と「利上げハードルの引き下げ」からすると、FOMCは次回12月13日・14日の会合で利上げを実施する意向であると考えるのが自然だろう。ではなぜ今回の会合で利上げは見送られたのだろうか。それは大きく分けて、「より慎重に経済指標を見極めたい」というものと「米大統領選で波乱があり金融市場が混乱した際に利上げ見送りの選択肢も担保しておきたい」という2つではないかと筆者は考えている。ではまず、直近の経済指標動向をご紹介したい。

労働市場の改善は継続する見込み

利上げ判断にあたって最も重要な経済指標の1つである雇用統計の発表が4日に行われる。米労働市場の改善は継続しており、雇用統計も堅調な内容になるとみられている。2日に発表されたADP雇用統計は民間部門の雇用者数が前月から14.7万人増と市場予想の16.5万人増を下回った。ただ、9月分は速報値の15.4万人から20.2万人に大きく上方修正され、過去3ヶ月間の伸びの平均は17万人である。ADP雇用統計に大きな変調は認められない(グラフ参照)。また、労働市場の先行指標である新規失業保険申請件数も減少(望ましい)傾向を続けており、こちらの指標にも米労働市場の変調を示すサインはない(グラフ参照)。これまで同様労働市場は堅調に推移していると考えるのが妥当だろう。雇用統計の非農業部門雇用者数は、ADP雇用統計と整合的な15-17万人程度の伸びになるのではと考えている。

製造業の景況感は堅調

1日に発表されたISM製造業景況指数のヘッドラインは51.9と市場予想を上回って前月から改善した。夏場に悪化して一時景況感改善と悪化の境目となる50を下回った同指数だが、その後は2ヶ月連続での改善となった。ヘッドラインを構成する項目を見ていくと、「生産」「雇用」「入荷遅延」の3項目が改善した一方で「新規受注」「在庫」は悪化と強弱まちまちといった内容だった(グラフ参照)。製造業の景況感は絶好調というような状況にはないが、「まずまず堅調」という評価が妥当のようだ。

目先の焦点は大統領選に

経済指標は概ね堅調に推移する中で、足元で一層注目されているのは大統領選の動向である。一時は「クリントン氏の勝利が確実」という見方に傾いていた市場だが、報道の通りここへきて大きく情勢が変わってきている。クリントン氏の私用メール問題をFBIが再調査すると表明し、クリントン氏とトランプ氏の支持率の差が一気に縮まってきた(グラフ参照)。一部世論調査ではトランプ氏の支持率がクリントン氏を上回っているほどだ。こうした状況を受け、市場は「トランプ・リスク」を織り込むような動きを見せている。

グラフに示したのは、10月28日にFBIが再調査を行うと報じられて以降のダウ平均および米ドル円の値動きだ(10月28日~11月2日)。問題の発覚前に18,200ドルを超えていたダウ平均は、11月2日に終値で18,000ドルの節目を割り込んだ。同じく28日に105円を超えていた米ドル円は3日のお昼時点で102円台後半まで円高に振れている。足元で上昇が顕著だった米ドル円はイベントを前にポジション調整するという動きでもあろうが、やはり市場はトランプ氏の大統領就任という政治的・経済的不透明感の拡大を警戒しているのではないだろうか。

市場が警戒する背景には、今年6月のBrexitの際の苦い記憶も影響しているのかもしれない。当時は国民投票が近づくにつれて世論調査等で「EU残留」を支持する比率が高まり、市場は英国のEU残留をメインシナリオとして動いていた。ところが蓋を開けてみれば「EU離脱」が決定し、市場は混乱して日経平均は1日で1,300円近い暴落となった。大統領選では同じ轍を踏まないよう、事前にネガティブ・サプライズを警戒する動きが出ているという面もありそうだ。

いずれにせよ米大統領選の結果が出るまでは、市場がリスクオンに傾く可能性は低いだろう。そしてトランプ氏が米大統領になった場合、短期的に金融市場は混乱に陥る可能性がある。ボラティリティが高まり、リスクオフの円高が進むかもしれない。一方でクリントン氏が順当に当選した場合、リスクオフからの巻き戻しで円安・株高方向の値動きとなる可能性が高いとみられる。選挙結果を予想することが困難なほど支持率が僅差な以上、「現金比率を高める」「インバース型のETFやVIX指数に連動するETNでリスクヘッジする」「大幅な下落に備えて逆指値注文を入れておく」など、混乱を想定した対応が重要な局面ではないだろうか。

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