マーケット・アナリスト兼インベストメント・アドバイザー 益嶋 裕が様々な角度から焦点をあてて日本企業を紹介していきます。
波乱に備えて~相場下落時に強い銘柄は?~
地政学リスクへの備え
米国のシリアへのミサイル攻撃、スウェーデンやエジプト、ドイツなど世界中で頻発するテロ行為、そして北朝鮮の核問題といわゆる"地政学リスク"が高まっている。このようなリスクへの警戒が要因となってか、米国・ドイツ・日本の長期金利が揃って低下するなど安全資産への資金逃避傾向がみられる。円高が進行し、日経平均が年初来安値を更新するなど日本株も冴えない値動きとなっている。
もちろん上記で挙げた各問題が実体経済や市場に与える影響の大きさや今後の展開は未知数だ。ただ、万が一の事態に備えて準備をしておくべき局面と言えそうだ。
有事に備える1つの方法としてポートフォリオ内の現金比率を高めておくことが挙げられる。売却できるものは売却し現金化しておけば、もし市場が大幅な下落に見舞われた際にそれをチャンスに変えることもできる。また、すぐに売却はせずとも株価が大幅に下落した際に備えて損切り注文を入れておける「逆指値注文」等を活用することも有効だろう。
また、もう1つの選択肢として「下落相場に強い銘柄をポートフォリオ内に組み入れる」ということも検討余地があるかもしれない。現金比率を高めるよりはやや積極的な姿勢となる。本レポートでは、「ファクターリターン分析」と呼ばれる手法を使い、過去の下落相場ではどのような銘柄が堅調だったのかなどをご紹介したい。
ファクターリターン分析とは
「ファクターリターン分析」についてあまり馴染みのない方が多いかもしれない。ファクターリターン分析とは、簡単に言うとどのような要因で株価が変動しているのかを定量的に説明しようとするものだ。株式投資の際によく使われる指標として、例えば「時価総額」「予想PER」「PBR」「配当利回り」「売上高営業利益率」「自己資本比率」「自己資本利益率(ROE)」などがある。
ファクターリターン分析は、一定期間の銘柄群の値動きを分析し上記で挙げたような要因(ファクター)のなかでどの要因が銘柄間のリターン格差につながっているかを分析するものだ。この手法を使えば、「ROEの高い銘柄」と「営業利益率の高い銘柄」のどちらが市場平均に対して上昇しやすかったのか、などを比較することができる。1つ注意が必要なのは、ファクターリターンはあくまで「市場平均に対する相対リターン」を分析するものだということだ。ファクターリターンがプラスだからといって絶対リターンがプラスであるという意味ではないのでご注意いただきたい。
では実際に、過去に日経平均(市場全体)が下落した際のファクターリターンを見ていこう。以下の表1は、アベノミクス相場が本格的にスタートした2013年1月から2017年3月の51ヶ月の間に、日経平均の月次騰落率がマイナスだった22ヶ月について、主要項目のファクターリターンを示している。表の中で数値がプラス(背景が黄色)になっている箇所は、そのファクターが市場平均よりも高いリターンを得るために良く効いたということだ。(2017年3月であれば「予想売上高伸び率」や「実績ROE」の高さが市場平均と比べてより良いリターンを得るためのファクターになったということになる。)
表を見て顕著に表れているのが、日経平均が下落した月は「自己資本比率」がファクターとして効いていることが多い点だ。「自己資本比率」は日経平均が下落した22ヶ月のうち、17ヶ月でファクターリターンがプラスとなっている。
1つの仮説として、日経平均が下落するような市場が不安になっている局面では、安心感を求めて自己資本比率が高い=財務安全性が高い銘柄に資金が集まりやすいということが言えるかもしれない。続いてマネックス証券での各銘柄の「自己資本比率」の確認方法をご紹介しよう。
各銘柄の自己資本比率はマネックス証券のお客様に無料で提供している「スクリーニング」や「会社四季報」をご活用いただくのが便利だ。会社四季報の見方だが、マネックス証券で個別銘柄の画面を表示するとメニューの中に「会社四季報」がある。それをクリックすると「会社四季報」の「基礎/財務情報」というページが表示される。そのページの下部に総資産や自己資本などの財務情報が表示されその中に「自己資本比率」という項目がある。一般的に自己資本比率は40%~50%以上あれば比較的健全な財務体質であるとされることが多いようだ。
それではいよいよ「相場下落に強い銘柄」として自己資本比率が高く、過去の日経平均の下落時にも比較的堅調だった銘柄をご紹介しよう。
相場下落に強い銘柄は?
具体的には、以下の条件で銘柄抽出を行った。
・東証1部上場銘柄(金融除く)
・2013年以降に日経平均が下落した22ヶ月の月末終値をすべて取得可能
・自己資本比率が50%以上
・日経平均が下落した22ヶ月においても月間騰落率がプラスの月が多い銘柄
表2をご覧いただくと、フジッコ(2908)は日経平均が下落した22ヶ月のうち16ヶ月で株価が上昇している。フジッコは昆布や煮豆といった惣菜を扱う食品会社で、内需ディフェンシブ銘柄として分類できる。さらに、安定して増収増益を達成してきたことが買い安心感につながりやすいのかもしれない。
また、ピーシーデポコーポレーション(7618)は22ヶ月のうち15ヶ月で上昇している。高齢者と高額なサポート契約を結んでいたとして批判された同社だが、業績は概ね堅調に推移してきた。
さらに、22ヶ月のうち14ヶ月で上昇していた銘柄が計16銘柄あった。システム開発のインフォメーション・ディベロプメント(4709)、工場や倉庫建築のナガワ(9663)、人材派遣のヒト・コミュニケーションズ(3654)、警備サービスのALSOK(2331)、土木建築の東鉄工業(1835)、人材紹介のジェイエイシーリクルートメント(2124)、掃除用品のレック(7874)など内需関連銘柄の堅調さが目立つ。日経平均が下落する局面には相対的に業績安心度の高い内需関連が買われやすい傾向が表れている。
内需関連銘柄に触れたので、ややレポートの本旨とはそれるが最後に内需株・外需株の簡単な判別方法をご紹介したい。内需株とは、主に日本国内でビジネスを展開しており売上の大部分を国内であげている銘柄を指す。反対に外需株とは海外事業がビジネスの柱となっており、海外事業への業績依存度が高い銘柄を指す。
一般的には内需株として建設・小売・通信・電力・食品・不動産・水産農林、サービスなどの業種に属する銘柄を指す場合が多いものの、前述の業種の中でも海外売上への依存度が高い銘柄もあり、判断に迷う場合がある。そんなときに有効なのが、会社四季報を活用する方法だ。
以下に示したのは、トヨタ自動車(7203)とKDDI(9433)の会社四季報の記載である。「連結事業」という欄をご覧いただくと、トヨタ自動車には「【海外】78<16・3>」との記載がある一方で、KDDIには記載がない。トヨタ自動車の場合には2016年3月期において、海外売上高の割合が78%あったことを意味している。トヨタ自動車は外需依存度高い外需銘柄ということになる。一方でKDDIには「【海外】」との記載はなく、内需株として分類できることになる。このように会社四季報の「連結事業」欄をご覧いただけば、海外売上高比率の高い「外需株」なのかそうではない「内需株」なのか簡単に判断することができる。ぜひご活用いただきたい。
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