マーケット・アナリスト兼インベストメント・アドバイザー 益嶋 裕が様々な角度から焦点をあてて日本企業を紹介していきます。
株価大幅下落の中で、割安なJ-REITを見直す
日本株の下落止まらず
米国と中国の貿易戦争懸念を受けた米国株の大幅下落、財務省の決裁書面書き換え問題とそれに伴う安倍内閣の支持率低下、前述の材料を警戒しての円高進行でドル円は105円割れ・・とリスク要因は枚挙にいとまがないほどです。これらの不安材料を受け日本株も大幅に下落し、日経平均は3月23日の前場終了時点で764円安の2万827円となりました。筆者はチャートを始めとしたテクニカル指標にはあまり重きを置いていませんが、その筆者でさえ「200日移動平均を大きく下抜け」「2万1000円の節目割れ」「前回安値を割り込みダブルボトム形成失敗」などなんとも嫌な材料が並ぶと感じています(チャート参照)。
今後の日本株動向についてはチーフ・ストラテジストの広木が見通しを述べておりますので、そちらをご参照いただければと存じますが、筆者個人的には2万円の節目が意識される展開になるリスクを感じています。ただ、こうした調整局面では私のようなアナリストの予想もメディアの論調もとかく悲観に傾くものです。本来は暴落局面こそ成長株の安値を拾うチャンスなのですから、現物取引で成長株の安値を粛々と拾っていくのが投資戦略の王道だと考えますが、ご不安になる方も多いのではと想像します。そこで本日の銘柄フォーカスでは少し普段と趣向を変えて、J-REIT(不動産投資信託)をご紹介したいと思います。
利回りからするとJ-REITは割安
以下のグラフ1は東証REIT指数とそのREIT指数採用銘柄の加重平均予想分配利回りの推移を示しています。3月22日現在の予想分配金利回りは4.2%とアベノミクス・マーケットが始まって以降ほぼ最高水準にあります。利回り面からするとJ-REITはかなり割安に見えます。
続いて以下のグラフ2はREIT市場の割安・割高を計る指標としてよく使われる、「東証REIT指数の予想分配金利回りから長期金利(10年国債利回り)を引いた利回り(イールドスプレッド)」です。グラフ2を見ても、アベノミクス・マーケット以後で最も利回り差が大きい水準にあり、J-REITは割安に見えます。
ただ、個別企業に置き換えて考えると通常ある銘柄の配当利回りが高い(割安)ということは、その銘柄に対する成長期待が低かったり、減配懸念があったりする場合がほとんどです。現在のJ-REITの場合はどうなのでしょうか?
J-REITの業績は堅調
グラフ3はJ-REITのうち6期前(J-REITは通常6ヶ月決算なので過去3年間)から業績を取得できた45銘柄について、純利益の実績と今期の予想を集計したものです(ジャパン・ホテル・リート(8985)は1年決算なので集計から除いています)。一目瞭然、J-REITの利益は右肩上がりで増えています。利益の増加は増資などによる物件取得による成長(外部成長)も含みますが、REIT指数が上がる中で、利回りも伸びており賃料改定などによる利益増加(内部成長)も大きいと言えそうです。超低金利と国内景気の堅調さに支えられて不動産市況が良くなっているということでしょう。
ではなぜ、J-REITは冴えないのでしょうか?1つの大きな要因は投資信託からの売りがかさんだことによる需給要因ではないかと筆者は整理しています。グラフ4は東証が発表しているJ-REITについての投資部門別売買動向から、「投資信託」の買越・売越と東証REIT指数の推移をまとめたものです。2017年4月から投資信託は一貫して売り越しを続けています。これはおそらく毎月分配型の投資信託への人気が一時期に比べて低迷してきたことから、そういった投信から資金が出ていった影響による需給の歪みという側面が大きいのではと推測しています。
J-REITの低迷がいつまで続くのかはわかりませんが、もし筆者の見立てが正しく現在のJ-REIT市場がファンダメンタルズ面で魅力的にもかかわらず需給により低迷しているとしたら、マーケットがその状態を長期間放置する可能性は低いのではないかと考えています。(もちろん筆者の見立てが間違っている可能性もありますが。)
また、J-REITは個別企業に比べて相対的に円高に対する耐性が強いと考えられます。さらに、株価下落が今後の国内景気鈍化を示唆しているとすれば、日銀の低金利維持やJ-REITの買い入れといった金融緩和策はより長く続くと見込まれ、それも利回り商品であるJ-REITにはプラスに作用すると考えられます。これらの要因から、現在のJ-REITには一定の投資妙味があるのではと考えています。そこで今回は個別のJ-REITの中でも特に割安感が強い銘柄をご紹介します。
特に割安感の強いJ-REITは?
筆者はJ-REITを選定する際に、「予想分配金利回り」「LTV(有利子負債比率)」「NAV倍率」の3つのポイントに着目するのが有効ではないかと考えています。NAV倍率のNAVとは、Net Asset Valueの頭文字をとったもので、NAV倍率とはREITの時価総額がそのREITの持つ純資産に対し何倍であるかを示しています。また、LTV(有利子負債比率)が高いということは既に有利子負債を多く抱えて投資を行っているということを意味し、新たに借入金をして物件を取得する余地が小さいということになります。
今回はJ-REITの中から以下の条件で銘柄をピックアップしてみました。
表1が条件に当てはまった銘柄です。
では最後に、上記の18銘柄の中でも特に筆者が気になっている5銘柄について、投資物件や特徴などをご紹介します。ご参考いただければ幸いです。
(※)印刷用PDFはこちらよりダウンロードいただけます。