日本株銘柄フォーカス

マーケット・アナリスト兼インベストメント・アドバイザー 益嶋 裕が様々な角度から焦点をあてて日本企業を紹介していきます。

益嶋 裕 プロフィール

とあるニューヨークのヘッジファンドが、日本の個人投資家に勧める投資法

前回のレポートへの反響

前回のレポート「とあるニューヨークのヘッジファンドは日本株をどう見ているのか」にはとても大きな反響をいただきました。ご感想をくださった皆様、誠にありがとうございました。本日の銘柄フォーカスでは前回のインタビューの続きをご紹介いたします。日本株からは少し離れた内容になりますが、今回お話いただいた内容も個人投資家の皆様にとてもお役に立つものと存じますのでぜひご参考いただければと思います。前回のレポート同様一問一答形式で、私からの質問とヘッジファンドのファンドマネージャーの方の回答をご紹介していきます。

米国現地から見える米国の景色

Q.長く米国に住んでおられるが、日本と米国を比べてどのような違いがあるか?
 便利で安心して暮らせるのは日本。ただ、今の自分には米国での生活が合っていると感じている。米国には年功序列という考え方がなくチャンスが多い。米国で10年で達成しようと思ったことが結果的に5年で達成できた。日本にいたら10年でやろうと思っても30年かかるかもしれない。米国は実力主義で、チャンスを与えてくれるリスクマネーの存在が豊富なところが良い。ただ、ニューヨークに暮らしていると毎日が厳しい競争の連続で、生存競争にさらされているようなものなので疲れる点もある。

Q.今のお話を聞いて、「激しい競争の少ない日本に暮らしながら米国株に投資することで、結果的に競争の勝者の果実を享受する」という考え方を思い出した。その考え方についてどう思うか?
 とても良い考え方なのではないか。日本に暮らしているならば、リスク分散という意味で日本株だけでなく欧米株に積極的に投資するというのは合理的な考え方だろう。

Q.日本では1989年のバブル期が株価のピークで基本的に右肩下がりのマーケットだった。それに対し米国株は基本的に右肩上がりのマーケットである。その根本的な違いはどこにあると思うか?
 競争の有無とリスクマネーの存在が大きい。日本ではダメになった会社でも国や銀行が守るのでつぶれにくく、新陳代謝が働かない。米国ではダメな企業は退場させられるし、ダメな企業にも良い点があればリスクマネーがその部分のみを購入する。そういった経済のダイナミズムのようなものが米国ではしっかりと働いていると感じる。

Q.2016年11月にトランプ氏が大統領選に勝利したが、現地で暮らしていて予想していたか?
 まさか。トランプ氏の勝利は全く予想していなかったし、その後の株価上昇も予想できてはいなかった。

Q.トランプ大統領になって感じた変化はあるか?
 ニューヨークは米国の中でも少し特殊なところがあるが、インフレと好景気をヒシヒシと感じている。日本のランチは500円程度で食べられるところがたくさんあると思う。ニューヨークは近場のいかにも普通のお店でテイクアウトしてもたいてい10ドル(約1,100円)はかかる。座ったらチップ込で最低でも20ドル位か。ただ、米国の中でも地方に行くとそうでもないようなので、やはり富めるものとそうでないものの二極化が進んでいるのだろうと思う。

Q.日本の報道からすると、トランプ大統領は格差是正を訴えて裕福でない層からの支持を受けているという印象がある。その点はどうか?
 実際の政策を見ていると富裕層優遇が進み、経済格差がますます開いているように感じる。例えば日本でいう相続税についてトランプ大統領になってこれまでの控除額から2倍に引き上げられる。これは金持ち優遇と言うほかないのではないか。

Q.米国企業の中でも例えばアマゾン・ドット・コム、フェイスブック、アップル、ネットフリックスなどの巨大企業が勝者となってビジネスを総取りしていくのではというイメージがある。その点についてはどう思われるか?
 私もそう思う。米国に暮らしていながら自分のアマゾンの利用頻度はどんどん上がっているし、アップルやネットフリックスなどの私の周りの人間への浸透度を見ると彼らが総取りしている感じがする。彼らは顧客から確固たる支持を受けているので値上げしても顧客離れが起きない。アマゾン・プライム(アマゾンの会員優遇サービス)は米国では年間99ドルから119ドルに値上げされた。それでも顧客離れが起きないのだから、彼らの株主はハッピーであると思う。ただ、彼らも永遠と安泰ではなく、数年したら新しい会社にその地位を奪われているかもしれない、と言うのが米国の深さだと思う。

日本の個人投資家に向けた資産運用のアドバイス

Q.日本の個人投資家に投資のアドバイスをいただきたい。
 ぜひ「分散投資」を勧めたい。「分散投資」というと多くの方は株・債券・現金などの資産の分散を思い浮かべると思う。もちろんそれも大切だが、加えてぜひ考えていただきたいのが「時間の分散」である。例えば1000万円の退職金が手元にあったとして、「退職金にあった投資信託・・・」と金融機関の勧めるままに1000万円を全額投資するのではなく、「この1000万円を何年に分けて投資しようか」という発想をするのが良いのではないか。5年に分けて投資するのならば1年に200万円、10年なら100万円という風に時間を分散して投資する発想だ。

いつが株価の大底でいつがバブル・天井なのかというのをピンポイントで予測することは不可能だ。例えば今の米国だって、世界的に金融緩和が行われているためのリスクマネーが多すぎて少しバブルっぽくなっている気配はある。ただ、じゃあすぐに株価が下落するかというとそれはわからない。予想できないからこそ、時間を分散して投資することで結果的に長い目で見れば良いリターンが望みやすいと思う。私自身が「米国版NISA」のような制度を使って、2007年ごろから少額ながら米国ETFを活用した毎月積立投資を行っている。結果的に始めた時期が良かったのもあるが、これまでのところ年率10%強で運用ができている。ぜひ毎月積立を活用して分散投資を実践してほしい。

Q.投資対象としてはどのようなものが良いと考えているか?
 コストの低いETFなどを活用して、主要先進国+中国程度の投資先で良いのではないか。自分は新興国や経済規模の小さい国の年率10%の外国債券というのはあまり欲しいと思わない。仕組債も、組成者と販売者の取り分が多いのであまり好きではない。米国・欧州・中国などの主要国のインデックスに分散して投資すれば良いのではないかと思う。

 いかがだったでしょうか。金融のプロ中のプロであるヘッジファンドのファンドマネージャーがお勧めされたのが、「コストの低いETFを活用して分散投資を実施する」ということだったのがとても印象に残りました。あの偉大な投資家ウォーレン・バフェットも「S&P500(米国を代表する株価指数)に連動するコストの低いインデックス・ファンドを活用することが個人投資家にとってベストアンサーの1つである」と言っています。ぜひそういったインデックス・ファンドに投資資金の一部を振り向け、国際分散投資を実践いただければと思います。

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