<要約>
ブラジルレアルは7月入り後、中国株安、原油安、米利上げ期待といった外部要因に加えて、財政悪化やディルマ・ルセフ大統領の支持率急低下などの国内の悪材料も出てきたことから売りが加速した。8月中旬以降はやや安定化しているが、材料面では反転の兆しが見られない。反発にむけては、国内政治の安定化、原油価格の反発あるいは米利上げを巡る不透明感の後退が必要となりそうだ。
安値更新の背景:内憂外患
ブラジルレアルは3月に36円台の安値をつけた後、40円丁度前後に反発して安定化したかに見えた。もっとも、7月入り後、米利上げからくる資金流出懸念が燻る中で、中国株価や原油など資源価格が続落するなど、外部要因が重石となった。更に、国内でも政府が7月22日に財政緊縮目標を緩和、格付け機関S&Pによるソブリン格下げに繋がったほか、長引くマイナス成長や与党議員による国営石油会社ペトロブラス関連の汚職疑惑を受けてディルマ・ルセフ大統領の支持率が8%へ急落したことから再び下落基調となり、8月6日に34.91円の安値をつけた(図表1)。その後は35円台で安定しているが、短期的には明確な状況改善は期待薄で、続落リスクが燻っている(ブラジルレアルの下落要因は表1を参照)。
反発の条件:貿易収支、インフレ、弾劾、FOMC
表1にまとめているように、レアルを巡っては悪材料が非常に多く、全ての材料が好転して持続的な反発局面に向かうのは難しそうだ。特に、先進国経済の回復力が弱い中で外需頼みの回復も難しい中、スタグフレーション的状況下でインフレが沈静化しないことには設備投資阻害要因となっている高金利解消に動けず、経済政策運営は非常に難しそうだ。
但し、いくつか今後の反転に繋がり得る兆しもみられてきている。一つは貿易収支で、主要輸出品目の一つである鉄鉱石価格が安値更新地合いにはなく小反発している中で(図表3)、これまでのレアル安もあってか黒字拡大方向にある(図表4)。そしてこれを受けて経常赤字も縮小方向にあり、通貨安の正常なポジティブフィードバックが働きつつある可能性がある。
インフレ率についても、確かに足許はブラジル中銀のインフレ目標(前年比+4.5%)の倍程度の伸び率となっているが(図表5)、財政緊縮策の一部である公共料金の引き上げの影響もあり、同程度の値上げが続かなければ、来年以降前年比ではベース効果剥落によりインフレ率が鈍化に向かう可能性がある。現在の市場予想では、来年2Qに前年比+6.0%と中銀の目標レンジ(3.0-6.0%)内に入ってくる見込みとなっており(図表7)、その場合には成長支援のための利下げが視野に入ってくる(図表8)。
政治面では、ペトロブラス関連の汚職捜査については不透明感が残るものの、大統領弾劾については、混乱が収束に向かう可能性もある。まず、大統領弾劾が行われずルセフ大統領が2018年まで任期を全うする可能性もある。大統領弾劾が議会で採決されても、3分の2の賛成が必要で、これは困難とみられている。その場合もルセフ大統領残留が決定し、不確実要素が一つ減少する。仮に大統領弾劾に成功したとしても総選挙に向かうわけではなく、ブラジル憲法によれば副大統領が大統領に就任することになっている模様で、法的・手続面では大統領弾劾は収束する。
海外要因では、米利上げを巡る懸念につき、年内に実際に利上げを開始したとしても、米ドルが大幅続伸したり、米国株価の大幅下落につながったりといった、市場の混乱がないことが明らかになれば、新興国に再び国際投資資金が流入してくる可能性がある。米国の景気回復と利上げは、既に2013年からの市場の一大テーマであり、相当程度織り込まれている面もある。更に、過去の利上げ局面と違い、利上げペースは四半期に1回(25bps)かそれよりも漸進的なものとなる可能性が示唆されており、金利面で米国の魅力が突如高まる訳ではない。
このため、足許はレアルの地合いは非常に悪いが、これらの要因の進展を見極めていく必要があり、好転の兆しが見られ始めたら、レアル押し目買いに妙味が出てくるだろう。
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