<要約>
南アランドはブラジルレアルやトルコリラほどの下落率ではないが、最近の中国株安に端を発した世界的な金融市場の不安定化を受けて特に対円で大きく下落した。今後、中国の追加的な景気刺激策などを受けて世界株式市場が安定化すれば、9円/ランド程度での横這い推移となりそうだ。もっとも、世界株価の不安定が継続したり、南ア準銀が自国の成長鈍化を考慮して利上げペースを鈍化させると、南アランドは更に下落するリスクがある。
主に海外要因で下落
南アランドは、8月24日に対ドルで一時14ランド/ドル台に乗せ史上最安値を更新、対円でも一時8.75円と2008年10月につけたリーマンショック直後の最安値(7.73円)に迫った(図表1)。下落要因は基本的に、米利上げ期待を背景とした米ドル高、中国景気減速懸念や中国発の世界株安を受けた市場のリスク回避姿勢の強まり、そしてプラチナや銅などコモディティ価格の下落といった海外要因が主となっている(図表3)。他方で、ブラジルレアル(財政悪化、大統領支持率急低下など)、トルコリラ(連立交渉失敗、再選挙実施といった政治的不透明感、国内テロ活発化を受けた治安悪化など)などにみられる国内個別要因は下落の主因となっていないことから、年初来下落率はブラジルレアル、トルコリラやメキシコペソよりも若干小幅となっている(図表2)。南アは金の産出国としても有名だが、金価格は南アランドなどが売られるリスクオフの際に上昇する時もあり、南アランドの下落抑制要因として働く時があるのかもしれない(図表4)。
メインシナリオ:海外要因は安定へ
米FOMCが遅かれ早かれ利上げを開始するにせよその後の利上げペースは非常に緩慢なものになる可能性が高く、それが判明すれば新興国にも再び資金が流入するとみられること、足許の中国景気減速懸念は中国当局による主に金融政策面での追加刺激策を受けて後退し、中国株価も下げ止まりに向かうとみられること、そして南ア準銀はインフレ・通貨安阻止のため、来年にかけて利上げを継続するとみられること(図表6)、など前提とすれば、南アランドの対ドルでの急落は回避され、緩やかな下落に留まりそうだ(図表5)。
この間、来年に向けての米利上げは対ドルで円小幅安をもたらすとみられることから、円が対ドルで緩やかな下落基調に回帰していくと見られることを前提とすれば、南アランド/円相場は現水準である9.0円近辺での横這いとなりそうだ。
リスク要因:国内要因に注意
足許、南アランドを巡るリスク要因として浮上してきているのは、南アの景気後退リスクと利上げペース鈍化リスクがある。8月25日発表の南ア2QGDPは前年比で+1.2%、前期比年率ではマイナス1.3%と前期(各々+2.1%、+1.3%)から鈍化しただけでなく市場予想(各々+2.0%、+0.6%)を大きく下回り、テクニカル・リセッション(定義上の景気後退=2四半期連続でマイナス成長に陥ること)のリスクが高まってきている。もちろんこうした成長率鈍化は、国際商品市況の低迷という海外要因も背景にあるが、低成長に配慮して今後の利上げペース(市場では来年後半にかけて75bps、6.75%への利上げが予想されている)が鈍化することになると、ランド下支え材料が弱まることになる。
米利上げ期待の後退は、ドル高圧力の後退を通じてランド相場(対ドル)の下支え要因となり得る。これが中国景気減速懸念や世界株安を背景としている場合、コモディティ安やリスクオフがランド安要因となるが、同時に本邦株安や対ドルでの円高が日銀の追加緩和期待を高め、対円でのランド安を阻止する面もある。全体として、米利上げ期待の変化がランド相場にとって上下どちらに作用するかは先験的に判断が困難だ。ランド/円の場合は、ドルに対して円とランドのどちらが大きく変化するかにも依存する。
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