<要約>
金融市場では9月16-17日に米FOMCが利上げを開始(リフトオフ)するかが一つの焦点となっている。今回利上げ開始が強行される場合、ドルが対円、対ユーロなどで上昇しそうだが、現在の市場環境では株安やコモディティ安といったリスクオフの要素も加わり、豪ドルやNZドルの対米ドルでの下落が大きくなりそうだ。ただし、インフレ率やFF金利見通しが引下げられ、その後年内は据え置きとのメッセージが伝わると、ドル高は限定的となりそうだ。他方、今回利上げが見送られると、ドル/円は一旦下落、市場の安心感から株価やコモディティ価格が持ち直すと、豪ドルやNZドルに加えて、ブラジルレアルやトルコリラなどの新興国通貨の反発もみられそうだ。
市場により異なる9月利上げ期待の織り込み度合い
金融市場では米FOMCによる利上げ開始(lift-off、リフトオフ)のタイミングが最大の焦点となってきた。但し市場の織り込み度合いは最近の様々なイベントを受けて大きく変化しており、かつ市場によって異なっているようだ。米2QGDP成長率の前期比年率+3.7%への大幅上方修正や8月雇用統計の全体的な堅調などから、米2年債利回りは0.74%程度と年初来高値圏で推移している一方で、最近の中国に端を発した世界的株安を受けて為替市場ではドルが対円などで下落しており、CMEがFF金利先物から算出する9月FOMC(9月16-17日開催)における利上げ確率は9月10日時点で23.6%と5割を大きく割り込んでいる。コアPCEデフレータや雇用コスト指数などのインフレ指標の低迷も、FOMCが利上げを先送りする口実となり得る。国際社会でも立場が分かれている模様で、IMF専務理事や世銀チーフエコノミストは早期利上げに慎重さを求める一方、インドネシア、メキシコなどの中銀高官は、利上げ時期を巡る不透明感こそが問題として、利上げを早急に開始すべきと主張しているようだ。
筆者は、米国では賃金・一般物価のインフレが全く脅威となっていない中で、利上げのメリットよりも、更に世界金融市場を不安定化してしまうリスクというデメリットの方が大きいことから、利上げ開始は早くとも12月へ延期すべきと考えているが、市場の見方が二極化している中、9月FOMCに向けては利上げ強行、利上げ見送りの両方のシナリオを考えておく必要となりそうだ。
9月利上げ強行の場合、ドル高だがリスクオフの要素も
こうした中、9月FOMCで利上げ開始となる場合、完全に織り込まれている訳ではないため米2年債利回りの上昇と共にドルが対円、対ユーロなどで上昇しそうだ。なお、世界の株価が大きく上下し不安定に推移している現在の市場環境では、早急な利上げの株価や景気への悪影響も意識され易く、株安やコモディティ安といったリスクオフの要素も加わるとみられる。その場合、豪ドル、NZドルなどのコモディティ通貨やブラジルレアル、トルコリラ、南アなどの新興国通貨の対米ドルでの下落が大きくなるリスクがあるほか、ドル/円の上昇も限定的となり得る。
ただし、今回FOMCでは四半期毎のFOMCメンバーによるFF金利や成長率、インフレ率などのマクロ経済予測も発表される。中では、FF金利予想やコアPCEデフレータの見通しが前回6月対比で引き下げられる可能性が高く(図表1、2)、その場合には、仮に9月に利上げが開始されてもその後の利上げペースがこれまでの想定よりもゆっくりとしたものになる。特に、年内は据え置きとの捉え方になればあまりタカ派ではない内容となることから、ドル高は限定的となりそうだ。但し、これまで米利上げを巡り世界の金融市場が動揺を繰り返してきたことは、ドットチャートなどを用いたこれまでのFOMCのコミュニケーションが必ずしも成功してきた訳ではないことを示唆しており、今回ハト派的な内容となっても、利上げを巡る「霧」が晴れる保証は全くなく、市場の不安定は続く可能性は残っている。
9月利上げ見送りの場合、一時的ドル安
逆に、9月FOMCで経済見通しの下方修正と共に利上げが見送られると、一旦ドル売りとなりそうだ。ドル/円が素直に米利回り反落と共に下落するとみられるほか、米ドル安に加えて米国を中心に株価やコモディティ価格が反発すると、市場のリスク回避姿勢の後退から豪ドルなどのコモディティ通貨や新興国通貨も反発するとみられる。但し、コモディティ価格は米利上げ期待からくるドル高の影響だけでなく、原油、鉄鉱石、銅など多くのコモディティ市場における過剰供給問題も下落トレンドの背景にあることから、米利上げ期待の後退だけでは大幅で持続的な反発には繋がらなさそうだ。また、先進国では米国が最初に利上げに向かう可能性自体は変化せず、来年にかけてのドル高シナリオは維持されるため、ドル安は一時的となりそうだ。特にユーロ/ドルは、ドル安で一時上昇圧力を受けても、ECBによる量的緩和プログラムの拡大・延長の可能性も同時に高まっていることから、上昇余地は限定的となりそうだ。
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