<要約>
中国当局が資本流出懸念を背景に大規模な元買い介入を行っているため外貨準備が大幅に減少していることで、その米国債やドル/円への影響如何が議論されている。実は、中国の外準の規模の大きさを考慮すると、これまで中国は殆ど保有米国債を売っていない可能性すらある。とはいえ、今後も現在のペースで外準の減少が続くと、来年末には本格的に米国債を売却せねばならなくなる。その際には既に米利上げが開始され米金利が上昇局面にあるとみられ、ドル/円には追加的な上昇圧力がかかりそうだ。
中国は元切り下げよりも元安阻止に腐心
9月7日に発表された8月末時点の中国外貨準備額が、前月末から939億ドル減少し3兆5574億ドルだったことが判明すると、中国における資本流出の大きさとそれに対する当局のドル売り元買い介入努力が市場で改めて意識されたと同時に、中国外準の主な投資先とみられる米国債も同程度売却されたのではないか、との懸念が高まった。ドル高、資源安の中でロシアやサウジアラビア、あるいは他のアジア諸国でも同様に外準減少が起きており、米国債の売却に繋がっていた可能性も懸念されているようだ(図表1)。一般的に外準運用においては安全性・流動性が重視され、現預金または3-5年程度までの中期国債での運用が主流となっている。
なお、中国の外準減少は8月11日の元切下げよりかなり前から始まっており、昨年6月末の3兆9932億ドルをピークに、今年8月末までに累積で4358億ドル減少している。この減少額は米国の債券発行残高(国債、エージェンシー債、地方債、社債、ABS、マネーマーケット商品の合計)の1.1%、米国債発行残高の3.5%に相当する(いずれも今年3月末時点の残高対比)。
中国はまだ米国債を売っていないかもしれない・・・
ところが、米国債の利回りはこれまで殆ど影響(上昇圧力)を受けていないようだ。10年債利回りは今年入り後に若干の反発がみられるものの、昨年初以降の低下基調が維持されている。2年債利回りはじり高基調だが、これは米利上げ確率の高まりを市場が織り込んでいった結果とみられ、中国による米国債売却が主因とはみられない(図表2)。また、海外中銀が外準で保有する米ドルを米国債やエージェンシー債で運用するものが反映されるNY連銀のカストディ勘定の残高をみても、8月末時点で3兆3418億ドルと昨年以降殆ど変化していない(図表2)。
実は、中国の外準が世界一で大規模であることを考慮すると、中国はこれまで巨額の元買い介入を行うにあたり、米国債を全く売却する必要すらなかった可能性もある。中国は外準の通貨別、資産別の内訳を公表していないが、昨年4月16日、中国の銀行監督当局の初代トップを務めた劉明康氏は中国の外準総額の約半分を米国債で運用していると発言した。中国の外準のうち7割が米ドル建てという通説とあわせて考えると、昨年6月末の外準残高のピーク(3兆9932億ドル)の時点で、米ドル建て外準総額が約2.8兆ドル、うち米国債運用分が約2.0兆ドル分あったことになる。即ち、米国債以外の米ドル建て資産は8000億ドル程度ということになる。もしこれが全て米ドル現預金だったとすれば、昨年7月以降、今年8月末までの4358億ドルの外準減少・元買い介入に十分で、保有米国債を売却せずに済んでいる、ということになる。
・・・ただ、今のままだと1年後には売らねばならない
逆に言えば、今後米国債を売却せずにドル売り元買い介入を行えるのは、3642億ドル程度しかないことになる。昨年7月以降の月間外準減少ペース(311億ドル/月)が続くとすると、約12ヶ月後、つまり来年8月末には米ドル現預金が枯渇し、その後は米国債売却をはじめねばならなくなる計算となる。あるいは、米国債を市場で売却するのを避けるために、償還金やクーポン収入の再投資をせずに米ドル現預金として溜め込んでいくことも考えられるが、その場合には1年を待たずして米TICデータ(対内外証券投資統計)などで中国の米国債保有額の減少が現れてくるはずだ。
その時、米国債とドルを取り巻く経済・金融環境はどうなっているだろうか。米経済の回復が続くと仮定すれば、FOMCは少なくとも2~3回程度は利上げをしている可能性が高いだろう。その場合、既に米中長期債利回りとドルは上昇局面に入っているとみられるが、こうした追加的な需給悪化要因(中国当局による米国債売却懸念)によって米利回りは更に上昇し、ドル高圧力を強めるだろう。
但し、中国の国債売却に対する市場の懸念が過度に強まり、米利回りが急上昇すると、逆に米企業業績や米景気への悪影響が懸念され、米追加利上げペース鈍化や利上げ一時停止期待からドル買いが手控えられるかもしれない。このため、中国によるドル売り元買い介入と外準減少のドル相場への影響は、中国の外準減少ペースに依存しそうだ。
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