ストラテジーレポート

チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。

広木 隆が投資戦略の考え方となる礎を執筆しているコラム広木隆の「新潮流」はこちらでお読みいただけます。

広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)

本日の急落について

本日の東京株式市場で日経平均株価は大幅反落。終値ベースで6月18日以来、およそ3週間ぶりに節目の2万円を下回り、5月15日以来、ほぼ2カ月ぶりの安値で終えた。下げ幅は2013年6月13日(843円94銭)以来、2年1カ月ぶりの大きさだった。ギリシャの金融支援を巡る協議の先行き不透明感に中国株式相場の下落が続いていることなど悪材料が重なり、全面安となった。

悪材料が重なったと書いた。確かにギリシャ懸念もあるにはあるが、今日の下げは中国株に対する不安が理由のほとんどであると思う。「不安」というより「不信」である。売買停止というのが最悪の措置である。市場というのはいくらボラティリティがあっても耐えられるが、流動性が枯渇したら終わりである。企業が申請して売買を止めているのだが、それを当局が容認しているわけで、ここまでいくと市場の体(てい)をなしていない。市場で自由な売り買いを制限すれば、疑心暗鬼しか残らない。売れるものはなんでも売ろうと、余計に狼狽売りを誘うだけである。

これまで中国政府がさまざまな株価対策をとってきたが、一向に下げ止まらない。それは別に不思議でもなんでもない。過去の歴史をみても人為的な対策で株価が下げ止まったことはない。1929年、米国で起きた株価大暴落「暗黒の木曜日」。JPモルガンとギャランティ・トラストをはじめとする大手米銀5行が会合を持ち、資金を集め相場を下支えする対策を打ち出した。NYの株価は持ち直したものの、それは一時的だった。その後も下げ続け、買い支え対策が打たれてから5割も下げてようやく下げ止まった。昭和40年の証券不況に向かう当時の日本市場も同じ轍を踏んだ。1964 年に都銀 12 行、長信銀 2 行、証券 4 社が出資し日本共同証券が設立されたが株の下落は止まらず、翌65 年には、日本証券保有組合が設立されたが、これも効果はなかった。90年代に日本政府がおこなったPKO(株価維持政策)も同様である。株ではないが、英国の中央銀行、イングランド銀行が英ポンドを買い支えようとした時もジョージ・ソロスに売り崩されてしまった。

相場というのは下がるとこまで下がらないと止まらない。投げるひとが全員ぶん投げて底が入るわけだが、売買停止では売るに売れない。これでは中国株の底入れがいつになるか、まったく目途がたたなくなった。それが今日の日本株急落の背景である。

中国株がどこで止まるか、誰にもわからない。ただし、目の子では上海総合指数の3500ポイントというのは大きな節目だろう。200日移動平均もこの水準にある。3000ポイントに乗せてしばらくもみ合った後、上昇が加速してきたのも3500を超えてからだ。上述の通り、投げ切っていないから、まだ下値はある。よって3500という節目を切って3000あたりで一旦、底をつけるのではないか。

問題は2つ。ひとつはこの中国株のバブル崩壊が中国の実体経済を反映したものかという点である。僕が思うに、中国の株式市場は個人投資家の投機市場であり、経済実態を反映したものではない。実体経済を把握する統計の信頼性に問題があるのでなんとも言えないが、PMI等を見る限りでは景気減速は一服している。来週発表されるGDPが焦点となるだろう。そして万が一、本当に株安が中国景気を冷やすと当局が思うなら、利下げだけでない景気テコ入れ策が打たれるだろう。

もうひとつは巷間言われるインバウンド消費に影響がでるのではないか、という点だが、中国人は中国株高で潤ったから日本で爆買いしているわけではない。無論、一部には株高の資産効果もあるだろう。だがインバウンド消費を促進しているのは単純に円安効果である。さらに言えば、株より資産効果に影響が大きい不動産価格は下げ続けてきた。それにもかかわらず、爆買いは起きていたのだから、株安だけを取り上げてインバウンド消費に翳り、というのは悲観論が過ぎるだろう。そして、ここがポイントだが、中国の富裕層が多く住む三大都市の不動産価格は昨年の秋には底を打ち、今年の春から上昇に転じている。これが中国の資産市場のトレンドだろう。不動産取引が規制されたこともあり、株価のほうは簡単に大衆が売買できることから投機の対象とされ、過熱した。それが弾けただけである。

日本株の注意点は国内景気指標の悪化である。海外の悪材料ばかり目が向きがちだが、足元出てきている国内景気指標は冴えないものが続いている。鉱工業生産も下振れ、実質賃金も25カ月マイナス、今日発表された景気ウォッチャー調査も7カ月ぶり悪化。日本株のもろさは国内の指標の悪化も実はボディブローのように効いていると思う。そうした状況で明日の寄り前に発表される5月の機械受注は、前月比マイナス5%と3ヵ月ぶりに減少が予測されている。設備投資は、日銀短観で11年ぶりの高い伸びとなったが、それはあくまで「計画」である。機械受注は設備投資の先行指標で、今回は、良好な設備投資計画が示された後、初めて出てくるハードデータだから、市場の注目も高い。もともと反動減が予想されているので予想の範囲内のマイナスなら影響はないだろうが、大幅マイナスとなると、ただでさえ悪化している市場のセンチメントを一段と冷やすことになりかねないので注意が必要である。

日経平均は、取引時間中は一目均衡表の雲の下限で下げ止まっていたが大引けで一段安して雲を下抜けた。狼狽売りだからテクニカル的な目途は役に立たない。冷静になればバリュエーション面ではいい水準である。予想PERは日経予想ベースで15倍台、クイックコンセンサス・ベース14倍台だ。待ちに待った絶好の押し目であり、下値を拾う動きもそろりと出てくるだろう。

セオリーでは「落ちてくるナイフをつかもうとするな。床に刺さったところを引き抜け」であり、急落途中の買いは慎めとされる。だが、最近の値動きの速い相場ではいいところを拾えない可能性がある。ここから3回に分けて買い下がるくらいのつもりで、第一弾の押し目買いを入れてもいい水準と考える。

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7月8日は、中国株安への不安感等が高まり日本株式市場も全面安の展開となりました。また、本日(7月9日)のマーケットを振り返りこのような状況下における今後の投資戦略の考え方を広木隆が解説いたします。

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