チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。
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広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)
上げ100日、下げ3日
今朝、テレビのニュース番組で日本株の見通しをコメントした。今日の日経平均の予想レンジを1万9200円-1万9600円と提示した。
キャスター:昨日も上海株急落です。まずこの状況をどのようにご覧になりますか?
これまでも中国株は不安材料だったが売買停止というのが致命傷になりました。市場はいくらボラティリティがあっても耐えられるが、流動性が枯渇したら終わりです。相場というのは、投げるひとが全員ぶん投げて底が入るわけですが、売買できなければ底が入らない。ここまでくると市場の体をなしていないというか資本市場の根本が否定されたという不信感が急落の背景にあると思います。
キャスター:では、どうすれば下げ止まるのでしょうか?
過去の例をみても古今東西、人為的な買い支えで株安が止まった例はありませんので、膿を全部吐き出すことが必要です。ここまでくると利下げとかではない政府の景気テコ入れ策を誘発するかもしれません。来週15日にGDPはじめ主要な経済指標の発表がありますが、その前後でなにか出てくるか注目です。
キャスター:さてシカゴの先物みるとちょっと心配なんですが、きょうの日本株相場はどうなりそうですか?
パニックみたいになっていますから、正直言ってどんな値段がつくかわかりません。下値目途を1万9200円にしましたが、それは3月末の終値です。仮にそこまで下げたら今年度の上昇分を全部帳消しにするということだからさすがに下げ過ぎという認識も出るでしょう。コーポレートガバナンス改革でITバブル越えしたのも幻だったのかと。業績改善期待は間違いなくあるわけだから冷静になればバリュエーション面ではいい水準です。クイックコンセンサスをもとにしたらPERは14倍台になります。今日売り一巡後、下値を拾う動きも出てくるでしょう。但し、ギリシャと中国の不安がなくなったわけではない。しばらくは不安定な状況が続くでしょう。
予想通りの展開となった。相場格言に、「上げ100日、下げ3日」というのがあるが、まさにそれを地でいく格好だ。日経平均3月末の終値が約1万9200円。今日の安値は622円安の1万9115円まであった。今年度に入ってからの上昇分を全部吐き出した。テレビのコメントで述べた通り、それはコーポレートガバナンス改革もROE革命も7年ぶりの最高益更新もすべて否定することになる。今日の安値の時点で、2日で1260円下げたことになる。さすがに売られ過ぎである。中国株の下げ渋りとともに日本株も急速に下げ幅を縮めた。上海総合指数がプラスに転じ、午後に上げ幅を広げると日本株は急速に買い戻され、日経平均は上昇に転じた。寄与度が最も高いファストリが4%超上昇し、日経平均を90円近く引き上げた。日経平均は、大引けにかけて一段高となり117円高で高値引けとなった。
チャート的には長い下ヒゲを引いた陽線で、典型的な底入れの形である。しかし、これで底入れ完了して反騰に向かうかと言えばまだ予断を許さない。過去に何度も繰り返し述べていることだが、相場が一度大きく動揺して崩れると、1回で大底をつけることは稀で、かなりの確率で2番底、場合によっては3番底まで探りに行く。その理由は、「上げ100日、下げ3日」、価格の調整はついても「玉(ぎょく)」の調整がつかないからである。ここ数日間で実体験したからお分かりの通り、相場が下げるときは速い。すごいスピードで下がる。だから株価という面では「いいところ」にすぐ達する。しかし、その過程で「おいてけぼり」になった投資家、すなわち売りそびれた投資家が大勢いる。株価が戻れば、戻り待ちの売りややれやれの売りで頭が抑えられる。
ギリシャと中国の問題は、なんら解決していない。まだまだ市場を揺さぶり続けるだろう。日本株がそういった外部の悪材料に抵抗力がついてくるのは、もう少し時間がかかるだろう。
日本株のファンダメンタルズは強固である。弱気になる必要はない。もう少し時間がかかるが、この下げを全部取り戻すだろう。
今月下旬から4-6月期の決算発表が始まる。決算発表が一巡する8月の半ばには、日経平均は急落する前の水準 - 2万円台半ばまで戻しているだろう。昨日、好決算を発表した良品計画がこの相場のなか朝から急騰して高値を更新している。好業績銘柄にはどんなに相場が悪くても素直に買いが入る。他にもTDK、日東電工、村田製作所やカシオ、JR東日本、日本電産、富士通などが堅調だ。今日、この相場の中で売られなかった銘柄を覚えておくとよいだろう。
昨日のレポートで懸念材料として挙げた機械受注はポジティブ・サプライズとなった。民間設備投資の先行指標となる「船舶・電力を除く民需」の受注額は9076億円と、前月比0.6%増。3カ月連続の増加で受注額は金融危機前の2008年6月以来、約7年ぶりの高水準となった。これで日銀短観で示された設備投資計画の蓋然性が証明された格好だ。この設備投資の増加が日本の景況感をけん引するだろう。これがベースにある。当然、製造業の業績も堅調だろう。日本国内に株の売り材料は見当たらないと思われる。
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