チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。
広木 隆が投資戦略の考え方となる礎を執筆しているコラム広木隆の「新潮流」はこちらでお読みいただけます。
広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)
FOMCでの利上げは?米国株は買いで臨む
株式に本源的価値はあるか?あるひとは「ある」といい、あるひとは「ない」という。通説では「株価は企業価値を反映して決まる」ということになっている。たいていのファイナンスの教科書には、「株式価値とは将来にわたるキャッシュフローを資本コストに適切なプレミアムを乗せた割引率で割り引いた現在価値の総和である」と書いてある。ここで、キャッシュフローの主たる源泉である企業利益を株式価値の根源としても大差はない。キャッシュフローや利益ではなく、純資産に注目するアプローチもある。
株式に本源的価値はあるか?あったとしても、それは誰の目にも見えない。見えないものでも理論で説明つくなら - 例えば宇宙のように - 証明はできるが、株式の本源的価値が何であるかは証明できない。だから、それは定義の問題である。「株式価値とはキャッシュフローを割り引いた現在価値の総和である」と定義したから、そういうことになっているわけである。
で、僕はそういう本源的価値のようなものを指すときに、しばしば「ファンダメンタルズ」という言葉を使う、特に定義することなしに。「ファンダメンタルズ」 - なんとも曖昧なタームである。
で、市場でつけられる株式の値段、すなわち株価は、いずれはファンダメンタルズに回帰するのだけれど、ファンダメンタルズから乖離している時間のほうが圧倒的に多い。その乖離に着目し、その乖離の修正を期待して株価を売買するのが「投資」であると思う。成長株投資であろうと、割安株投資であろうと、同じである。成長株投資の場合は、成長性がファンダメンタルズのなかに織り込まれている。
市場の株価とファンダメンタルズの乖離に着目してトレーディングをおこなう場合もあるが、トレーディングは主に株価の値動き自体に重きを置くものだろう。トレーディングでは一般にファンダメンタルズがどうこう、とか言わない。トレーダーは価格の動きを追う。「価格を動かすもの」、すなわち「カタリスト」を追う。
今年最大のマーケットの注目材料、FOMCが開催される。この重要イベントを前に、市場は完全に模様眺め一色だ。動くに動けない状況も無理はない。
トレーディングについて言うと、僕は買ってもいいと思う。米国株ならロング(買い持ち)で臨む。だが日本株はまだ手が出せない。FOMCの結果が判るのが現地時間の17日、日本は明けて18日になる。18日は金曜日、ただでさえ週末で手仕舞いとなりやすいのに、今週末は来週にかけて5連休、シルバーウィークを控えた週末に当たる。この波乱含みの相場で連休中にポジションを維持する勇気のあるトレーダーはいないだろう。
なぜ米国株はロングか?ダウンサイドが少ないと思うからだ。
週末の日経新聞に掲載された市場関係者のFOMCのシナリオ毎の市場反応予想を見ると、あまりにもストレート過ぎて驚いた。すなわち、今回のFOMCで利上げが決定されれば株は下がり、見送られた場合でも今後の予定についての示唆が何もない場合は市場の不安定さは継続、10月以降に先送りされ、かつ今後の利上げシナリオについて記者会見等で市場にじゅうぶんなメッセージを送れば株は上昇するだろう云々。
当たり前ではないか。プロのコメントとはとても思えない。
僕は、利上げが決まっても株価は下げないのではないかと考える。ロイターやWSJのアンケートでは、エコノミストの約半数が今回、9月の利上げ開始を依然として見込んでいる。つまり、FRBが今回のFOMCで利上げに踏み切っても、半分はコンセンサス通り、少なくとも「サプライズ」ではない。そして市場は「米国の利上げ」という材料でさんざん下値を叩いてきた。これでもまだ「利上げ開始そのもの」という「材料」を - 利上げが米国および世界経済に与える影響はさておき - 織り込んでいないとすれば、それは相当幼稚なマーケットだろう。
だから米国株相場は、利上げ決定でも、上がらないまでも下げないのではないか。先送りなら、無論、歓迎して上昇するだろう。つまり、どっちに転んでもダウンサイド(下)はないと思う。
米国株のチャートを見ると、下放れたところで新たな三角保ち合いを形成している。放れるとすれば、材料出尽くし、もしくは利上げ先送り好感で「上」ではないか。
戦略としては掛け捨ての保険と思って、米国株コール・オプションをロングしたいところだが、あいにくマネックス証券では取り扱っていない。
次善策として、レバレッジ型ETFもしくはリカバリーしつつあるモメンタム株の一部をロングするのはどうか。フェイスブック(FB)、ギリアド・サイエンシズ(GILD)などだ。モメンタム株とはもはや呼べないけど、アップル(AAPL)も復調の兆しあり、だ。なによりすごいのは、これだけの波乱相場を経てもアマゾン・ドット・コム(AMZN)の上昇トレンドが途切れていないことである。切り替えしの力が強いのは、快進撃が続くアンダーアーマー(UA)か。
リスクが取れるひと、ヨミが外れて逆にいったときにすぐに投げられるひと限定の推奨ストラテジーである。
(※)印刷用PDFはこちらよりダウンロードいただけます。