ストラテジーレポート

チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。

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広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)

FOMCの決定を受けた株式市場の反応について

昨日の米国株式市場ではNYダウ平均が3日ぶりに反落し、前日比65ドル安の1万6674ドルで取引を終えた。一般的な市況コメントを読むと、「連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ見送りを好感した買いが入る場面があったが、最近は株価の戻りが続いていた反動から、買いが一巡した後は利益を確定する目的の売りに押された」と解説するものが多い。ゼロ金利据え置きの発表直後、売り買いが交錯した(午前3時)。その後、声明やイエレンFRB議長の記者会見でハト派的な内容が目立ったことなどから、市場の一部では利上げがずっと先になるとの見方が浮上し、ダウ平均は一時190ドルあまり上げた。但し、FOMC参加者の政策金利見通しによると、2015年末時点で適切と考えるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は中央値が0.375%。6月時点の0.625%から下方修正されたものの、依然として「年内の利上げ」がコンセンサスとなっている。利上げ時期を巡る不透明感が続くことが、結局相場の安定化を遠ざけている状況である。

僕には、FOMCの結果を受けた市場は、「無反応」だった、ように見える。結果発表後の上下動に上記のような「解説」をつけることはできるかもしれない。しかし、ナスダック総合株価指数は3日続伸し、プラスで終えている。要は、昨日の米国株市場は「まちまち」の動きで変動幅もわずか、イベント通過の材料出尽くしで前日まで上がった分を吐き出しただけだろう。

債券市場では10年債利回りがほぼ一本調子に約10bps低下した。2年債の利回りは13bps低下した。2年債は政策金利見通しをほぼ反映するから、利上げ期待分(=利上げをする・しないの予想がだいたい50%:50%で拮抗していたから、25bpsの利上げ期待の半分=12.5bps)がそっくりそのまま剥落した。10年債利回りは2年債利回りの低下に合わせてパラレルに下がっただけである。特段、「世界景気の減速」を懸念して長期金利が下がったわけではなかろう。為替市場の反応は、この米金利のブル・スティープニング化を、やはり素直に反映して円高ドル安となった。

今日の日本株も米国株の反応と同じである。日経平均は前日比360円安。昨日が260円高、一昨日が145円高だったから、イベント通過で過去2日の上昇分をそっくり吐き出しただけ、明日からのシルバーウィークの連休を考えれば、むしろ上出来である。

それなのに、某大手メディアの市況解説はこういう調子だ。

株、「利上げ見送り」でアク抜けならず 世界景気への不安増す

<東京株式市場はFOMCの利上げ見送り判断に対して、「売り」で反応した。イエレン議長は記者会見で、利上げを巡っては世界経済や金融市場の動向を注視する姿勢を強調。世界景気への不安や利上げ時期を巡る不透明感が高まる結果となり、「米利上げでアク抜け」との期待は後退した。>
<FOMC前は利上げ見送りで新興国不安が落ちつけば日本株にプラスとの見方もあった。(中略)だが、ふたを開けてみれば「FRBが利上げに踏み切れないほど世界景気は弱い」との解釈が勝り、利益確定売りに押される格好となった。>

FOMCを受けた日本株の下落は「FRBが利上げに踏み切れないほど世界景気は弱い」との解釈が勝った結果だというのだ。これを読んで、僕はほくそ笑んだ。そう考えるひとが多いほど市場は間違う可能性が高い。つまりミスプライスを提供してくれるということだ。

今回、FRBが利上げ見送りを決めた背景として、世界景気の減速を指摘する声があるが、その点に過度に拘泥すると相場のシナリオを誤るリスクがある。確かにイエレン議長は記者会見で、海外情勢の見通しに触れ「中国やその他の新興国の成長をめぐる懸念が出ていることで、金融市場のボラティリティーが著しく高まった」と発言した。

しかし、議長はあくまで「懸念」と言っており、中国景気が減速していること自体には触れていない。それよりも、そうした「懸念」によって株安、ドル高などが進んだことが最終的に米国経済、特にインフレにどのような影響を与えるのかという点を注視していると述べている。これは以前のレポートで紹介したジョージ・ソロスの「再帰性理論」だ。市場の変動がファンダメンタルズそのものにも影響を与えかねないフィードバック・ループである。

イエレン議長の発言は、中国景気が減速を続けたとしても、それを所与のものと織り込んで市場が安定すれば利上げの条件が整うとも読める。中国景気が減速しているのは間違いないが、それは今に始まったことではなく既定路線であり、直近に減速感が一段と強まったという確固たる証拠もない。現状はまだ「懸念」が「市場」を揺らしているだけで、その影響はファンダメンタルズに及んでいない。ここからは拡大解釈かもしれないが、イエレン議長ほどの方になると市場を見る目も冷静なのだろう、おそらく(大変僭越ですが)僕と同じように、この相場は「センチメント(市場心理)」だけで揺れ動いていると捉えていると思われる。

問題は、市場とFRBが「いたちごっこ」の袋小路にはまっていることだ。市場はFRBの金融政策が不透明なことで安定性を欠いているが、FRBは市場が不安定だからこそ利上げに踏み切れないでいる。どちらかが先に、この悪循環を断ち切る必要がある。

僕は市場が落ち着くほうが先ではないかと思う。理由は次回のレポートで述べる。

レポートの冒頭に戻ると、米国市場はFOMCの結果を消化していない。とりあえずイベント通過で手仕舞うものを手仕舞ったという感じ。仕切り直しの相場は今晩からだ。ちなみに今週初め(9/14)、「米国株は買いで臨む」というレポートを書いたが、ここまでの結果をレビューしておくと、インデックスは月曜日のロングで成功である。アップル(AAPL)は昨日の下げでマイナスとなったが、アマゾン(AMZN)、ギリアド・サイエンシズはプラス(GILD)。フェイスブック(FB)はなんと昨日まで9連騰。アンダーアーマー(UA)は月曜の終値から昨日の終値まで8%超の値上がりで上場来高値更新中である。

さて、日本のシルバーウィーク中に米国株はどのような動きをするだろうか。S&P500は昨日の終値が1990。2000の大台回復が目前に迫る。2000を回復すると、今回の下げ幅に対する半値戻しを達成する。「半値戻しは全値戻し」との格言もある。利上げがとりあえず先送りされた間隙を縫って、戻りを試す展開ではないか。

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