チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。
広木 隆が投資戦略の考え方となる礎を執筆しているコラム広木隆の「新潮流」はこちらでお読みいただけます。
広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)
上放れの並び赤
前回のレポートで「米国株は史上最高値、日本株は年初来高値を再び目指す展開へ」と書いたから、日経平均が2万円を回復するまではレポート更新しないでもいいか、と思っていた。言うべきことは既に述べてしまった。繰り返しになるけど、ホント、「書くことがない」のである。というようなことを毎週月曜日におこなっているチャット対話型のオンライン・セミナーで話したら、視聴者からこう言われた。
「広木さん、いいんですよ、書くことなくても。同じことを同じように書いていただければ、それで私たちは安心するんです!」
そういうことか、と改めて思った。いっぱしの「ストラテジスト」になった気でいた自分を反省した。そうなのだ、相場の予想なんて当たったり、外れたり。誰も将来のことはわからない、というのが僕の基本スタンスだったはずではないか。それがちょっと見立てが当たったくらいで、いい気になってメッセージの発信を怠っていた。ネット証券会社の「ストラテジスト」なんてものは投資家を鼓舞する役割でいい。理不尽な売りで崩れた(崩された)相場のふがいなさを嘆き、ファンダメンタルズから乖離した安値は拾えと勧め、そして相場が上がればともに喜ぶ。そうした役回りでいいのだ。
ネットの中傷のなかには、「ほんとにコイツ(広木のこと)は買いばかり煽りやがって」というのが少なからずあるが、「それがなにか?」と言いたい。僕の持論のひとつに、「相場が上がって困るのは空売り筋だけ」というのがある。だから、いつも買い推奨ばかり、というのは大きな誤解である。自慢ではないが、東日本大震災直後の東京電力の売り推奨は、他の誰にも真似できない、一世一代の売り推奨だった(自慢です)。
日本株全体について売りを勧めない(相場から降りろと言わない)のは単純な理由である。アップサイドとダウンサイド、長期で見ればどちらの可能性が高いか。マネックスのストラテジストに就任してからの5年間、日本株はアップサイドのポテンシャルが常に大きかった。無論、上げ下げはあった。しかし、結果論として今年の夏まで2万円を超え、そして今また2万円回復が視野に入るところまで来ている。誰も文句はなかろう。
日本株は極端に割安かと言われれば、そうではないが、少なくとも「割高ではない」ということは断言できる。グラフは最近QUICKが提供を始めた景気循環調整後PER(CAPE)である。CAPEとはノーベル経済学者のロバート・シラー教授が開発したバリュエーション指標で、景気循環の影響を調整するために過去10年のインフレ調整後の利益をもとに計算するPERである。シラー教授のオリジナル版は当期純利益を使うPERだが、QUICK版はTOPIX採用銘柄の時価総額合計を、同じく採用銘柄の年率換算実績経常利益の過去10年間移動平均で割って計算する。
これを見ると、89年末のバブルの頃は明らかに異常なPERとなっているが、その後の2回のバブル、すなわちITバブルとリーマンショック前の新興国バブルの時もCAPEは30倍を超えている。それに比べれば現在の状況は遥かに低い。10年の景気循環調整後のバリュエーション指標でみて、現在の状況はまったく過熱感がない。これを見ればアップサイドとダウンサイド、どちらがポテンシャルが大きいと考えるかは明白だろう。下げたところで、奈落の底に落ちるわけではないのである。
日本株は200日移動平均を上回り、地合いがぐっと改善している。今日(10日)もNY株安を受けて売り先行で始まったものの寄り付きが最安値で下ヒゲなし。下げ渋ったと思ったら上げに転じて終わった。何も前日比プラスにならなくても、「陽の包み足」で御の字と思っていたら、「上放れの並び赤(陽線)」となった。明日(11日)、高寄りしたらその後の一段高が期待できる。酒田五法で「最も強し」とされるパターンである。前回のレポートでナスダック総合指数にこの「並び赤」が示現したことを紹介したが、その後上伸していることはご存じの通り。
東京市場は今週末に株価指数先物オプションなどの特別清算指数(SQ)算出を迎えるが、先物オプションの最終売買日前日の午後は相場が荒れるという経験則がある。すなわち11月もので言えば明日(11日)の午後である。特に今週は相場が大きく動いて水準が切り上がっているだけに、SQを控えた様々なポジション調整の売買が交錯しやすいこともあり、注意したい。
また明日(11日)は中国の経済指標発表の集中日。中国景気減速の不安はひところに比べてだいぶ後退しているが、悪い数字が出れば利益確定売りを誘発する引き金になりかねないので、こちらにも警戒が必要だ。
そうは言っても市場センチメントの最悪期は過ぎた。ここからの押し目は、まさにチャンスと捉えていいだろう。
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