チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。
広木 隆が投資戦略の考え方となる礎を執筆しているコラム広木隆の「新潮流」はこちらでお読みいただけます。
広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)
市況コメント 12月10日
相場が急速にリスクオフの流れを強めてきた。このマーケットの動きは僕の想定より1週、早い。僕は、来週のFOMC、そして日銀の決定会合を受けて円高に巻き戻り、日経平均も1万9000円を割り込む下落となるだろうと予想していたが(例えば「広木隆のマーケット展望Weekly」12月7日)、原油価格の一段安が波乱材料になってきた。
12月相場入りの初日に日経平均は2万円の大台をかろうじて回復したが、その後、上値の重い展開が続いている。僕はその背景を、12月中旬の重要イベントに絡んだ相場下落のリスクを意識し始めたからではないかと見ていた。言わずもがな、最重要イベントは15-16日に開催される米国のFOMCだ。FRBは利上げに踏み切るという観測が高いが、問題はその時、為替がどう動くかである。過去は、利上げが実施されると一旦材料出尽くしとなって、円高に巻き戻ることが多かった。今回もこれまでのパターンを踏襲し円高に振れるリスクはじゅうぶん考えられる。
先週のECB追加緩和を受けたマーケットの反応が参考になる。「追加緩和策が物足りない」「失望」「ネガティブ・サプライズ」等のコメントがあふれ、マーケットではユーロが強烈に買い戻された。しかし、実際に市場の期待通り「満額回答」であったとしても材料出尽くしでユーロは買い戻されただろう。それだけ市場の見方とポジションがひとつの方向に偏っていた。まさに「Sell On Fact」だ。FOMCでもそうなる可能性が高いと考える。
但し、今回はFOMC直後の17-18日に日銀が金融政策決定会合を開く。日銀短観と「企業の物価見通し」を受けての開催となる。市場や企業のインフレ期待は低下している。次の短観でもそれが明らかになるだろう。その場合、否が応でも市場で追加緩和期待が高まり、円高への巻き戻りに一定のブレーキがかかる。しかし、日銀が追加緩和見送りを決めればそのブレーキが外れ、一気に強烈な円高になるだろう。無論、日本株にも相当程度、売り圧力が強まることは避けられない。今月に入ってから相場の上値が重いのは、米国利上げ⇒材料出尽くし⇒日銀追加緩和見送り⇒円高ドル安⇒株下落、というシナリオを先読みしてのことではないか、と考えていた。
だから足元の原油一段安を受けた株安は、違う経路から引き起こされた、想定より1週早い株安だというわけだ。
原油価格の下落それ自体は日本経済全体では(企業にとっても家計にとっても)メリット以外のなにものでもない。それなのに原油安で日本株が売られるのは納得できないという方もいるだろう。日本株が売られるのは以下の理由による。
1. 日本株式市場もグローバルな投資環境で動くため、原油安が進み、世界的なリスク回避姿勢が強まれば、リスク資産である株式全般にマイナスの影響が及ぶ。
2. 円高が日本株の売り材料になる。円高になる背景は、1)原油価格の一段安+市場の動揺のせいでFRBの利上げ観測が後退=<ドル売り材料>と、2)原油安により日本の貿易収支が改善、経常収支の黒字基調がさらに鮮明となる=<円買い材料>。
為替相場はテクニカルで動くことが多い。ドル円のチャートを見ると、典型的な三尊天井で目先ドルが短期的に天井を打った感がある。
繰り返しになるが、遅かれ早かれ円高⇒株安という展開になると見ていたので、1週早まっただけだ。前もってドル・ロングのポジション調整が進んだことで、当初警戒していたFOMC利上げ決定⇒材料出尽くしで円高に巻き戻る圧力が分散され、急激な円高進行が抑制されるかもしれない。
10日ほど前、2万円をつけた日経平均株価、午前の終値は前日比251円41銭安の1万9049円66銭。1万9000円の大台割れ手前でなんとか踏みとどまった。某社の記者から電話がかかってきた。「今日の後場の展開をお聞かせください。1万9000円の大台割れはあると思いますか?」
質問の意図は、今日が12月限の先物・オプションの最終売買日で明日がメジャーSQ算出日だから、SQ値を1万9000円割れに持っていきたい向きの仕掛け売りと、なんとか1万9000円は死守したい向きとの攻防を予想してくれ、というものだ。
この手のコメントは、バカバカしいにもほどがある。今日の大引けで1万9000円を割り込もうが、その水準をキープしようが、今晩のNY市場の原油や株式相場次第で明日の東京市場の寄り付き状況は一変する。今日の後場、SQへの思惑で仕掛けることにどれだけの意味があるというのだろう。僕のコメントは、非常にあっさりした形で配信された。
< 広木隆・マネックス証券チーフ・ストラテジスト 10日午後の東京株式市場で日経平均株価は心理的な節目の1万9000円近辺での動きになるとみている。11日の株価指数先物・オプション12月物の特別清算指数(SQ)算出を前にした最終売買日となるが、ロールオーバー(期近物から期先物への乗り換え)が進み大きな波乱要因にならないだろう。積極的な売り買いの材料にも乏しく、膠着感の強い相場展開になるとみている。>
件の記者氏にせよ、(僕を含めた)世の中のコメンテーターは、長期的な話だけでなく、超目先のことにも触れなくてはならないから、難儀である。前述した通り、つい10日ほど前、2万円をつけた日経平均はいまや1万9000円の大台割れ目前だ。別に驚くことではない。日経平均の予想EPS(1株利益)が1300円という時代である。バリュエーションのマルチプル(株価収益率の倍率)が1倍違えば株価水準は1300円違う。予想EPSが1300円、15倍の評価で1万9500円。株価が、2万800円(PER16倍)でも、1万8200円(PER14倍)でもまったく驚くに値しない。それが現状、リーズナブルな(理屈で説明のつく)株価のレンジであり、逆に言えば、そういう捉え方しかすることができない。そのレンジの範囲を外れた値は、「理屈じゃない」世界だからだ。
(※)印刷用PDFはこちらよりダウンロードいただけます。