チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。
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広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)
目先の底値に到達 反騰タイミングは従来通り3月との見通しを維持
日本株 底入れの水準
暴風雨のようなリスクオフの嵐が世界的に吹き荒れている。2月第二週(8~12日)は世界の主要な株式市場は全面安となったが、なかでも日本株の下落率の大きさは群を抜いたものになった。世界景気減速懸念に信用不安も加わったことで、安全資産とされる円に逃避資金が流れ込み、円が急騰したことが日本株の重荷になった。日銀が導入したマイナス金利の負の側面ばかりが嫌気されている面もある。
従来から不安視されていた中国経済や原油安に加えて、新たな悪材料が次々と台頭し、まるで「複合株安」とでもいうような状況だ。従って、急落の背景にある要因が特定できない。リスクは定義できればリスクでなくなるという言葉があるが、今回の下げについて本当は何が原因で下げているのか分からない。だからいつまでたっても不安心理が解消できない。
この状況では底値の目途が立てにくい。業績に対する不透明感が強い局面ではPER(株価収益率)の有効性は高くないものの、株価から逆算すると、来期の予想業績として10%減益までは市場が織り込んだと言える。株価が1万5000円になって、標準のPER15倍を当てはめれば予想EPSは1000円だ。これは前期対比、約10%減益という水準である。
PERは元となる業績が安定性を欠いているので当てにならない一方、これまで企業が蓄積した純資産に対する倍率であるPBRは参考にできるだろう。日経平均が1万5000円を割り込んだ12日に、日経平均のPBRは1倍を割れた。PBR1倍割れというのはリーマンショック後やアベノミクス相場が始まる前の極度の低迷期に戻るということだ。コーポレートガバナンス改革や異次元緩和などアベノミクスのすべてを否定するような水準への回帰は行き過ぎであろう。
国際協調の行方
株価の調整度合いはじゅうぶんだが、問題は戻るきっかけだ。国際的な政策協調に期待がかかる。まずは26日から上海で開催されるG20が焦点となるだろう。ポイントは資本規制に関する議論だ。日銀の黒田総裁は、個人的な見解として「資本規制が為替相場の管理に役立つ可能性がある」と発言。もちろん中国を念頭に置いた発言である。
中国からの資本流出が市場の不安を助長させてきた点は否めない。これによって人民元に売り圧力がかかる。中国人民銀行が為替介入によって人民元を買い支えているせいで、外貨準備高はすでに2割も減った。人民元の崩落は免れないとみて、人民元売りのポジションを持つ(あるいは、そうほのめかす)ヘッジファンドが後を絶たない。
こうした投機筋の動きに対して、中国人民銀行の周小川総裁は「投機筋には為替市場のムードを主導させない」と述べ、人民元の空売りを仕掛けているとされる国際的なヘッジファンドなどをけん制した。昨日の日経新聞がそう伝えている。
周総裁は、「国境をまたぐ資本移動は正常の範囲内にあり、人民元の下落が長く続く基礎はない」とも語ったとされる。だとしたら、容易に資本規制など打ち出せるのだろうか。
これまで世界は中国の資本取引について、自由化、国際化を訴えてきたし、中国もその方向を志向してきた。人民元のSDR採用はそのひとつのマイルストーンであった。なのに、ここにきて資本規制を求めるのは中国の資本取引自由化の流れを逆行させるものだ。世界の資本市場が動揺しているから、といって、それではあまりにご都合主義ではないか。背に腹は代えられぬということと割り切るしかないのだろうが。
リスクシナリオは中国が資本規制についてなんら政策も声明も発表しなかった場合だ。G20という舞台で中国が世界からの要請に背を向けた格好となる。市場に1987年のブラックマンデーの背景を連想させはしないか。ブラックマンデーが起きた直接の要因はいまだに解明されていないが、背景のひとつに当時世界経済のリーダー国であった米国と西ドイツの金融政策を巡る対立が浮き彫りとなったことがある。市場は国際協調体制の歪みを不安視したのだ。
その観点から、G20は市場が立ち直るきっかけとして期待される反面、不調に終わった場合は大きなリスクとなる。
原油価格下落も最終局面か
相場が立ち直る、もうひとつのきっかけは原油価格である。悪材料の複合的な重なりで見えにくくなっているが、そもそもの悪材料のひとつである原油価格の下落に耐性というか抵抗力がついてきたように思える。というのは、WTI先物は相変わらず安値更新が続いているが、エクソンなど大手石油株は底堅い動きとなっているからだ。代表的なシェールガス企業のチェサーピークエナジーに債務再編のうわさが出て株価が急落するなかのことだ。こうした話が出てくるということは今回の原油価格の下落もいよいよ最終局面に入ってきたと市場が認識し始めたのかもしれない。
このタイミングで、産油国間で減産協調を模索する動きも報道されている。そもそも産油国間での協調が進まない背景のひとつに、米国のシェール企業潰しという思惑がずっと取沙汰されてきた。
今の相場は見渡せば悪材料だらけだが、そのなかで敢えて変化の兆しを探していくことが重要な局面だろうと思う。
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