ストラテジーレポート

チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。

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広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)

年度替わりの日本株相場展望

10月は、株式投資にはとくに危険な月である。それ以外に危険な月は、7月、1月、9月、4月、11月、5月、3月、6月、12月、8月、2月である。(マーク・トウェイン)

4月相場に期待

日本株式相場は昨日から実質新年度入りした。前回のレポートで述べた通り、年初からの嵐のような下落相場は終わった。3月ひとつきをかけて日経平均は1万7000円という「居心地の良い」水準をしっかりと固めた。年度替わりで日本株は戻りを試す展開となろう。まずは次の節目の1万7500円を明確に上抜けることが目先のターゲットだ。昨年12月高値から2月安値までの下落幅の半値戻しに当たる水準である。その水準を固められれば、2月の高値(1万7905円)を抜いて1万8000円台をつけにいくことが可能となろう。

4月相場は期待していい。新年度入り初日の昨日29日の日経平均は30円安の1万7103円。配当権利落ち分(127円)を考慮すると、実質的には値上がりである。配当落ちを即日埋めるのは相場が強い証拠と言われる。昨日は配当落ち分を「すべて埋めた」わけではないが、「ほぼ埋めた」とは見なせる。なので、「それほど弱くはない相場」くらいのことは言ってよかろう。

そもそも4月は株が上がる月である。日経平均の月別上昇率を見ると4月は1月に次いで2番目に上昇する確率が高い月であるが、その背景として新年度入りした機関投資家からの資金流入期待が挙げられる。

日本株の出遅れ感
下げ相場は終わったとはいえ、日本株は年初来上昇率がプラスに転じたNYダウ平均などに比べて戻りの鈍さが際立っている。もっとも、出遅れ感が強いのは日本株だけではなく、景気減速懸念の強い中国株およびスイス、ドイツ等の欧州株も米国株に大きく劣後する。

一方、ブラジルのボベスパ指数は1月安値からの上昇率が3割を超え、年初来のリターンも世界の主要株価指数のなかで突出して高く、その次にはラテンアメリカではメキシコやアルゼンチン、アジアではタイ、インドネシアなどが続く。3月FOMCが示唆した年内利上げの回数は2回とそれまでの4回から大幅にトーンダウンした。米国利上げに伴う資本流出懸念で売られた新興国が米国の利上げペース鈍化観測を受けて買い戻されている背景である。

米国の利上げペース鈍化観測はドル独歩高を是正し、それは米国企業にとって好材料であるため米国株も順調に戻り歩調にあるという構図が鮮明である。その裏返しが直近の円高であり当然、日本株にとっては重石であった。米国の利上げペース鈍化観測のタイミングにリパトリ等の期末要因も加わって円高が進行、ドル円相場は先日一時110円台をつけた。

円高の背景 - 米国のインフレ期待
但し、今回の円高も早晩一服するだろう。期末の円高要因が剥落したこともあるが、最大の要因である日米のインフレ期待の格差拡大にも歯止めがかかる可能性があるからだ。円高に振れていた最大の要因が日米のインフレ期待の格差であるということをもう一度、丁寧に説明しよう。

前回のレポートでもこう指摘した。<(円高の背景は)米国のインフレ期待が徐々に高まっていることだろう。インフレとは通貨価値が減価することだ。米国でインフレ期待が高まる一方、日本はマイナス金利が足元では逆効果を生んで却ってデフレ的な側面が強くなっている。この日米のインフレ期待の差が円高ドル安の背景ではないか>

日本のマイナス金利の影響で日米の名目金利差は拡大している。しかし、インフレ期待の格差が名目金利差以上に大きいため、実質金利ベースでは日米金利差は縮小し、むしろドル安円高の要因となっているのである。グラフは市場が推測する期待インフレ率であるBEI(Break Even Inflation rateブレークイーブンインフレ率)を名目金利から差し引いた2年国債の実質利回り格差とドル円レートである。

では、なぜ米国の期待インフレ率(その指標であるBEI)が上昇しているのか?それは、実際に足元のインフレ指標が上昇しているからだ。米国の2月の消費者物価指数(CPI)は食品・エネルギーを除くコアが前年比で2.3%上昇と2012年5月以来の高い伸びとなっている。

FRBが目標として見ている物価指標はPCE(個人消費支出)のデフレーターである。コアPCEインフレ率は前年比で1.7%の上昇である。これはFRBが予想する今年の中央値(1.6%)を上回り、中心的予想レンジ(上下3つ両極端の予想を排除して丸めたレンジ)の上限に達している。

FRBはデュアルマンデートを負っている。デュアルマンデートとはFRBとFOMCが連銀法により課されている「物価の安定」と「完全雇用(雇用の最大化)」という金融政策の運営にあたっての2つの法的使命のことである。この2点についての一般論は、失業率は5%を割り込むまでに低下し「ほぼ完全雇用」の水準にあるが、一方、物価については原油安の影響や低成長もあって遅々として目標とする2%に届かない - というようなものであったように思う。

ところが現実は、インフレのほうがFRBの当座のターゲット(見通し)をクリアしており、失業率のほうが見通しまでまだ伸びしろがある。市場は、ある意味、盲点をつかれたような状態だったのだろう。BEIは、コアPCEインフレを追いかける格好で急上昇した。これが足元、米国の期待インフレ率が急激に高まった背景である。

米国の個人消費支出が弱くインフレ期待の上昇も一服
今週は重要指標が目白押しでハイライトは週末4/1(金)の米国・雇用統計とISM製造業景況感指数、中国・PMI、日本・日銀短観の発表である。だが、僕が一番注目した指標は月曜日に発表された米国の2月個人消費支出(PCE)だった。コアPCEインフレ率の事前予想は1.8%だった。もしも予想通りの数値となれば上述したFRBの中心的予想レンジを上抜けることになる。そうなれば4月利上げの蓋然性が一段と高くなっていたであろう。結果はコアPCEインフレ率の前年比は前月と変わらずの1.7%だった。予想ほど高まらなかったが、依然としてFRBの中心的予想レンジの上限に張り付いていることには注意したい。

発表された2月個人消費支出(PCE)の内容は弱いものだった。2月の前月比は0.1%増だったが、1月分が大幅に下方修正された。家電や自動車など耐久財への支出が速報段階の12%増から0.7%減に下方修正されたこともあって全体が0.5%増から0.1%増にまで下方修正されたのだ。

こうした個人消費の弱さに、昨日のイエレン議長の講演で示唆された利上げを急がないというメッセージもあって、一時高まっていた早期利上げ観測は後退した。短期的にはそれによって円高となっているものの、基本的にはこれ以上の円高進行は限定的だろう。なぜなら根本的な背景である米国の期待インフレの急上昇にも歯止めがかかりつつあるからだ。BEIの急騰は、もともと実際のインフレ率の上昇を織り込み切れていなかった部分の急速なキャッチアップという側面もあり、それはほぼ達成しただろう。加えて、実際のインフレがこの先すぐに一段と加速する兆しは2月個人消費支出を見る限りないと思われる。改めて雇用統計で賃金の上昇ペースを確認することに市場の関心は向くだろう。

さて、その米雇用統計だが、非農業部門の雇用者数が前月比で25万人かそれ以上の増加、失業率の4.8%への低下となれば再度、早期利上げ観測が浮上しよう。しかし、米国の非農業部門雇用者数という統計にとって3月は鬼門である。過去8年のうち7回、3月の数値は予想を下回っている。2008年からでは、実際に発表された雇用者数がブルームバーグ調査の予想中央値を平均で約5万3000人下回った。2000年以降の3月では7割近く(67%)で平均約6万9000人下回っている。15年3月は予想に11万9000人届かず、01年以降で最も大きく下回る結果となった(以上はブルームバーグニュースの情報に依る)。今年も波乱に注意したい。

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