チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。
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広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)
日銀ショックと今後の相場展開
4月28日、日銀の「ゼロ回答」を受けて日経平均は前日比600円超も下落、会合結果が出る前の前引けからは約900円安と完全にショック安商状となった。ただ、当日のこの値動きだけに関して言えばちょっと過剰反応というか、日銀の追加緩和に賭けていた短期筋の投げ売りが主導したものだ。追加緩和期待の短期トレード、これも一種の「日銀プレー」だというのは、その物色の中身が短絡的過ぎたことでわかる。上昇時に買われたのは銀行株を筆頭とする金融と不動産。反対に追加緩和見送りで売られたのもこれらのセクター。不動産株はいいとして、おかしいのは銀行株が買われたことである。
日銀がマイナス金利を導入して以来、もっとも売られてきたのが銀行だった。貸出金利が下がって収益が圧迫されるからという単純明快な理由である。だったら追加緩和があれば、一段と金利体系全般に下押し圧力がかかって銀行はさらに苦しくなるはず。それなのに今回買われたのは一部で報道された「貸出支援基金」にマイナス金利を適用するという観測があったからだ。銀行は預金など調達側でマイナス金利にできないから貸出金利だけつぶれてしまうのが悪材料視されていたわけだが、この措置がとられれば日銀から金利をもらうという形でマイナス金利の調達もできるようになるということが好感された。
でもこれはちょっと考えれば、そんなにおいしい話はないということがわかる。最近は日銀の追加緩和観測でTIBORも下がってきており、仮に追加緩和があれば市場金利が一段と下がる。そうすれば市場連動型の貸出金利で得られる金利収入がさらに減少することになって、いくら日銀からマイナス金利をもらっても元も子もない(この点は大槻奈那のレポートもご参照)。むしろ、日銀から銀行への補助金だという批判が高まって、ずっと下げていない短プラの引き下げ圧力になるかもしれない。トータルで考えれば銀行の収益にとっては、プラス面よりマイナス面のほうが大きい。こうしたことを考慮しない銀行株物色は短絡的であり、それゆえ投機性が強いと言える。
日経平均は、先々週4営業日で1300円も上げた。過度な期待で上げた分が失望で剥落した。先週末の日経平均の終値1万6000円台半ばでPER15倍というのは現在のフェアバリューに着地したとも言えるだろう。そこまでの下げで止まるなら「いってこい」となっただけ。
その後、日本の祝日の間に海外で大幅に円高になったのも、かなり投機的な動きだと思うが、それを受けて海外の日経平均先物も売られた。今日の東京市場は1万6000円の攻防となりそうだが、ただ、こちらには米国経済指標の弱さや欧米株安の要因が含まれるから、必ずしも日銀失望だけでここまで売られたわけではない。
そもそも追加緩和があるとどうして株が買われるのか?理論的には金利低下はキャッシュフロー割引率の低下という経路で株価評価を引き上げるが、それはあくまでも理屈の話。株価は企業業績を反映して決まるとすれば、追加緩和⇒円安⇒業績改善⇒株高という流れだ。追加緩和⇒株高というダイレクトの関係ではなく、間に円安による好業績という要因が入る。
では今回、仮に追加緩和があったとしても円安になったかといえば疑問である。今回追加緩和があったとしたらどういう内容になっていただろうか。国債買取額の増額は限界に近いし、マイナス金利の拡大も今はまだ弊害の方が多い。おそらくETFの買い入れ額を増やすというのが中心になっていただろう。その場合、株式市場にはインパクトはあっても為替に働きかける効果は薄い。米国から「為替操作」をけん制される状況ではなおさら手段がETF中心になるだろう。まして為替レートの決定要因であるフローの構造は、貿易赤字が減少し経常黒字が膨らんでいる。こういう環境で円安にもっていけたかどうか。
円安による業績改善期待を伴わず日銀のETF買いだけで株価が上がったとしても、一時的な押し上げ効果しかなかったのではないか。
やはり基本は企業業績に尽きる。ただし、足元報道されている減益懸念というのは、もうすでに織り込んでいるだろう。業績が悪くなるから「売る」というのは、少なくともファーストステージは過ぎた。すでに「売られた」のであって、これから円高⇒減益というテーマでの売りが新規で出るとは思わない(その材料で売る投資家は相当遅れている)。問題は業績が伸びないなかで上値を買えるかという点。すなわちバリュエーションの上限に達してこれ以上の拡大は望めないという意見がある。
これまで何度も述べている通り、金利がマイナスになるまで低い世界ではバリュエーションは切り上がる。アメリカでさえPER17倍だ。それにバリュエーションというのは、いろいろあって、特に通常のPERというのは単年度の最終利益をもとにした尺度だから、振れやすいという欠点がある。イェール大学のロバート・シラー教授は10年の平均利益を用いて、景気循環による利益変動を均すCAPEというものを提唱している。特損特益の振れも排除するために経常利益を使ったTOPIXのCAPEをグラフに示した。
80年代末のバブルのとき、ITバブル、そしてリーマンショック前などは明らかに異常に高いバリュエーションだが、現在は全然低い。まったく過熱感や割高感がない。景気循環調整のPEでみればバリュエーションはまだ拡大余地がある。
純資産対比のバリュエーション、PBRも低すぎる。ただ、PBRというのは自己資本に対するプレミアムを示すもので、言い換えるならROEの期待値をどれだけ織り込んでいるかという指標。昨今の日本株の低迷は、実はROEが伸びていないことが根本的な理由だと僕は思う。2014年の成長戦略で日本は欧米並みのROEを目指すと謳った。では実際にROEは高まったかというと逆に低下している。外国人が日本株を売ってきたのは、アベノミクスに対する失望と言われるが、それを数字で明確に表しているのがこのROEの2期連続低下ではないか。
ROEの目途としてよく引き合いに出される8%が資本コストだとすれば、足元ではそれをクリアできていない。これでは企業価値を毀損する。PBR1倍割れがあり得る理論的根拠である。
だから日本株が上昇するためには、まずこのROEの低下に歯止めをかけることが大切だ。単に増益になるとか減益になるとかではなくて、自己資本に対する利益水準を意識した経営を行う姿勢をみせることだ。自己資本は赤字にでもならない限り増えていく。だから利益が伸びないなら、資本が増えすぎないようにする。端的に言えば、キャッシュを使うこと。おカネはおカネを生まない。マイナス金利ならなおさらだ。使い道がないなら、自社株買いや増配など株主還元の姿勢を見せる。昨年度、5兆円を超えて過去最高を更新した自社株買いは今年もさらに増えるだろう。そうしたROE向上への姿勢が認められれば、単年度の利益の一桁程度の増減はあまり問題視されないと思う。
もういちど日銀の緩和策に戻ると、株式相場という観点からはこれからは過度な緩和期待というのは後退していくのではないか。目先はサミット、参院選などを控えて財政政策への期待が高まる。そして何よりも自助努力、企業がROEを意識して株主還元の手を緩めない姿勢を見せてもう一度外国人の長期マネーを呼び込む。そうして、日銀がETF購入枠の増額で後押しすれば、再度日経平均は1万8000円程度を夏前には回復できるだろう。
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