ストラテジーレポート

チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。

広木 隆が投資戦略の考え方となる礎を執筆しているコラム広木隆の「新潮流」はこちらでお読みいただけます。

広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)

2017年 相場予測 PART2

PART1で提示した日本株上昇の根拠は、一にも二にも、日本企業の業績が伸びるからというものだった。2012年3月期のボトムを起点にすると2018年3月期までの6年間で2.7倍に利益が増える。前年度(2016年3月期)実績を起点にすれば、2年で約2割増える。それを前提とすれば日経平均2万2500円は妥当な数値であろう。

想定外のことは、年がら年中起きるので、日経平均2万2500円への道も決して平たんではあるまい。2万2500円は、乱高下を経て最終的に到達する目標である。それまでの経路については、予想しようがない。「想定外のこと」が起きて乱高下する相場展開まで細かく予想しようとするなら、「想定外のこと」を予想しなければならないが、「想定外のこと」は定義からして「想定する」のは不可能である。

むしろ相場のトレンドを規定する業績拡大の蓋然性を検証するべきであろう。

今期来期通算で2割増益の正当性
前年度(2016年3月期)実績を起点にすれば、2年で約2割増えるとしたが、これに疑問も持つ向きもおられよう。先週土曜日の日経新聞に大手証券の業績見通しが報じられた。大手証券による17年度の増益率は12~13%。これは僕がPART1で紹介したQUICKコンセンサスとIFISジャパンの数字と整合的である

一方、今期16年度の業績は大手証券の予想では概ね横ばいである。それでは、16年度の業績も2桁増益で、16年度17年度と2期通算で2割強の増益とする僕の数字と合わないと思われるかもしれないが、新聞が報じた大手証券の業績予想は「経常利益」である。それに対して僕が示した数字は「最終利益(当期利益、税引き後利益)」である。資源関連を中心に前期に大きな減損を計上した関係で最終利益ベースでは増益率が大きく出るのだ。これは4-9月期の決算を集計した日経新聞の報道とも整合的である。最終利益、当期利益、純利益、言い方はいろいろあるが損益計算書の一番下にある利益(英語ではボトムライン)こそが株主に帰属する利益である。だからPERなどのバリュエーションの基礎になる。それが今期来期通算で2割伸びる見込みである。株価も2割上昇するだろう。

この円安を考えれば、さらに上方修正されてくると思う。現時点の予想は保守的とさえ言えるであろう。昨日発表された日銀短観によれば、大企業製造業の想定為替レートは16年度下期が103.36円となり、前回の107.42円より一段と円高方向に修正された。足元の相場と比べると10円以上の円高水準となっている。これでは下期に増額修正ラッシュではないか。

円高のリスクは?
この「16年度17年度の2期通算で2割強の増益」というシナリオが狂う一番のリスクは為替が再び円高に巻き戻ることだろう。

昨日のFOMCでは1年ぶりの利上げが決まり、2017年末時点で適切と考えるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は中央値が1.375%に、前回9月の見通しから上方修正された。利上げ幅が0.25%ずつとすると17年中は3回の利上げを想定していることになる。これを受けてドル円相場は117円台に円安が進行した。

FOMCで発表されたドットチャート(上段が9月時点・花壇が12月時点)

(出所)Bloomberg

ところで、毎週月曜日に「新潮流」というメールマガジンを配信している。そこでは「今週のマーケット展望」を書いている。今週はこう述べた。

<今週最大のイベントはFOMCだが、利上げそのものは相場に織り込み済み。市場の関心はイエレン議長の会見と声明文、FRBメンバーの金利予想等から来年以降の利上げペースに関する手がかりが得られるかどうかである。トランプ次期大統領が掲げる政策を織り込み米国長期金利が急上昇するなど、インフレ期待が高まりつつあるなか、現在のところ来年2回と見られる利上げ観測に変更があるかどうか。場合によっては一段とドル高円安が進むきっかけになるかもしれない。 (中略) これまでの上昇ピッチの速さに対する警戒感もあるが、買い遅れている投資家や、売りポジションが担がれている投資家が多いと思われることから、押し目らしい押し目は入らないだろう。日経平均は19000円台半ばから後半に水準を切り上げる展開を予想する。 >

手前味噌ですが、お役に立つ情報だと思いますので、メルマガのご購読をお勧め致します。

さて、円高に戻るリスクを検証していこう。忘年会シーズンに突入して連日の飲み会続き、二日酔いで辛いので、今日は一番肝心なことだけ述べて、細かいことは次回PART3に回すので、よろしくご了承ください。

巷間言われる円高リスクの根源は、「ドル高はトランプ次期大統領が容認しない」という見方だ。事実、今日の日経新聞(電子版)でも、「米利上げも、市場はトランプ氏のつぶやき注視」などという記事が掲載されている。

「続くトランプラリー 上昇ピッチは適正か」という記事では
<円安もトランプ氏がいつまで容認するかわからない。共和党は伝統的に「強いドルは米国の国益」という考え方を持つが、トランプ氏はドル高によって米国の景況観が悪化することを許しそうにない。米国の輸出企業の収益力が陰れば、トランプ氏やその周辺からドル高けん制発言が出そうで、そのトーンによっては、日本の円安・株高シナリオは崩れ去ってしまうだろう。>

これが円安ドル高がいつまでも続かないとする見方の代表的なものだろう。

ひとつ尋ねたい。米国の大統領がドル高は許さないと言えば、ドル安になるのだろうか?為替レートは市場で決まるものだ。そしてそれは経済原理に則って決まるものである。トランプ氏自身が減税だ、インフラ投資だ、財政拡大だ、と金利上昇をあおる政策を掲げておいて、為替レートだけドル安を望むと言うのは、180度逆のことを要求することになる。いくらトランプ氏が発言しようが、市場がそれに追随するわけがない。

ひとつ方法があるとすれば国際的な政策協調である。トランプ氏の大型減税・財政拡大・規制緩和は80年代のレーガノミックスによく喩えられるが、そのレーガン政権2期目がスタートした直後、1985年のプラザ合意では国際的な政策協調によってドル安円高に誘導された。

では、また尋ねたい。昨今のこの状況でプラザ合意のような国際協調が実現可能だろうか?日銀やECBが対応できるだろうか?来年3回というペースで利上げをしようとする米国よりも、もっと速いペースで金融を引き締めよというのだろうか。あるいは為替介入(円買い介入)をせよというのだろうか?デフレ脱却が最重要課題の日本が円買い介入?米国自身が為替操作国の監視リストに入れている日本に為替介入を米国が迫る?

ありえない。

さらに言えば、トランプ氏は保護貿易主義的な発言をしている。もし本当にメキシコや中国からの輸入品に高い関税をかけるようなことをすれば外国から安い物資が入って来なくなる。そこに強引にドル安にもっていけばなおさら外国からモノが買えない。困るのは米国民である。そんなことをこの段階で志向するだろうか。

つまり、こういうことだ。いくらトランプ氏がドル高は困る、許さない、と言ったところで、米国自らドル高に突き進む政策を志向しているのだから、それはドル高にならないほうが不自然であり、そうした経済の流れを国際協調で反転させようとしても、その手段がないのである。プラザ合意では日本は無担保コールレートを6%から8%に一気に引き上げたり為替介入をおこなったりしたが、現在、そんな真似はできるわけがない。

そもそもプラザ合意はドル高是正ではなく、ドルのソフトランディングにより貿易収支の不均衡是正を狙ったものである。79年の第二次オイルショック以来続いていたインフレが落ち着き、米国も金融緩和が可能となり、ドルがすでに安くなり始めていたからこそ、プラザ合意は機能した。

プラザ合意の歴史から考えられるシナリオは、トランプ政権の政策によって米国景気が一旦、過熱し、経常収支の赤字がさらに拡大した後にドル安になるというものだ。インフレと金利上昇が株価や経済の重石となって景気がピークアウト、景気後退のリスクが見えて、米国の利上げが打ち止め観測が出て初めて、ドル安に転じるだろう。

それは2018年に入ってからというのが僕の想定である。想定が早まるか遅くなるかは、今後の米国経済をウォッチしながらシナリオを修正していきたい。

期待と現実の狭間が2017年のいつごろに来るか。それが中間反落になる時期で、最終的なピークアウト、米国株バブルの泡沫がはじけるのは2018年だろうと思う。ベストシナリオは、2017年半ばから米国株の頭が重くなり米国株が横ばいから軟調に推移することだ。金利が上がれば株価は上がらないのが道理だからである。そうなれば、バブル崩壊・暴落という最悪のシナリオが避けられる、という意味で「ベストシナリオ」と述べたのである。

【お知らせ】「メールマガジン新潮流」(ご登録は無料です。)

チーフ・ストラテジスト広木 隆の<今週の相場展望>とコラム「新潮流」とチーフ・アナリスト大槻 奈那が金融市場でのさまざまな出来事を女性目線で発信する「アナリスト夜話」などを毎週原則月曜日に配信します。メールマガジンのご登録はこちらから

(※)印刷用PDFはこちらよりダウンロードいただけます。

レポートをお読みになったご感想・ご意見をお聞かせください。

過去のレポート


マネックスレポート一覧

当社の口座開設・維持費は無料です。口座開設にあたっては、「契約締結前交付書面」で内容をよくご確認ください。
当社は、本書の内容につき、その正確性や完全性について意見を表明し、また保証するものではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を推奨し、勧誘するものではございません。過去の実績や予想・意見は、将来の結果を保証するものではございません。
提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更または削除されることがございます。当社は本書の内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。本書の内容に関する一切の権利は当社にありますので、当社の事前の書面による了解なしに転用・複製・配布することはできません。内容に関するご質問・ご照会等にはお応え致しかねますので、あらかじめご容赦ください。

利益相反に関する開示事項

当社は、契約に基づき、オリジナルレポートの提供を継続的に行うことに対する対価を契約先金融機関より包括的に得ておりますが、本レポートに対して個別に対価を得ているものではありません。レポート対象企業の選定は当社が独自の判断に基づき行っているものであり、契約先金融機関を含む第三者からの指定は一切受けておりません。レポート執筆者、ならびに当社と本レポートの対象会社との間には、利益相反の関係はありません。