チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。
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広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)
緊急レポート 本日の日本株相場急落について 北朝鮮リスクの高まり
東京株式市場は実質新年度入りしてから軟調な相場が続いている。その背景として期初特有の金融機関の売りを指摘してきたが、今日の下げはこれまでの軟調地合いとは根本的に異なる。今日の急落の主因は北朝鮮リスクを市場が(ようやく)意識し始めたからだと考える。
昨日の朝、北朝鮮がミサイルを発射しても無反応だったマーケットがなぜ今日になっていきなり警戒を強めたのかは定かではない。おそらく昨日から今日にかけてメディア報道のトーンが強くなったことが背景にあるのだろう。なかでも安倍首相とトランプ米大統領が電話会談を行ったことはインパクトが大きかった。両首脳は約35分間協議し、北朝鮮による弾道ミサイル発射は「危険な挑発行為であり、日本の安全保障上の重大な脅威だ」との認識で一致したと報じられている。トランプ大統領と中国の習近平国家主席による米中首脳会談では北朝鮮の核・ミサイル開発問題が主要議題の一つとなるのは明らかだが、その前に安倍首相と電話で話したという事実が様々な憶測を呼んだ。まさに風雲急を告げるという感じで緊迫度が増してきた。
昨日のNYダウ平均は、朝方一時200ドル近く上昇したが、米連邦準備理事会(FRB)が公表した3月14~15日開催分の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨を受けて、その上昇分を吹き飛ばし結局41ドル安で終えた。量的金融緩和で膨らませたバランスシートの縮小議論について、参加者の大半が「年後半にも政策変更が適切になる」との見方を示したことが明らかになったからである。
株式相場は初期の利上げには耐えられる。利上げするほど景気が強いという認識で株も買われるのだ。ところが量的緩和の縮小は株式相場にとってより大きなダメージとなる。日本の80年代バブル崩壊の引き金となったのが90年代に入ってすぐ打ち出された日銀の総量規制だったことを持ち出すまでもないだろう。リーマン危機からの回復局面で継続してきた世界的な株高は、世界の中央銀行による未曽有の金融緩和であふれた過剰流動性によって支えられてきた。端的にいってカネ余り相場がずっと続いてきたのだ。FRBがバランスシートを縮小するとすれば、いよいよその過剰流動性相場の「終わり」の「始まり」である。だから昨日の米国株式相場の下げは「終わり」の「始まり」という初期反応として極めて正しい。
今回、気迷い気味の動きとなったのは、米国債(米国長期金利)とドル円である。バランスシート縮小は本来なら金利上昇、ドル高要因であるにもかかわらず債券・外為市場の反応はその逆だった。金利低下・ドル安円高に動いたのである。これについても、様々な解釈がなされているがどれも納得的・整合的でないものばかりだ。ひとつあり得る解釈は「リスク回避」だ。無論、北朝鮮リスクを意識してのことだろう。
今日の日経新聞に向こう1カ月の北朝鮮を巡る重要日程が掲載されていた。
11日 北朝鮮で最高人民会議
→核開発や経済建設で文書採択など焦点
金正恩委員長が党第1書記就任5年
15日 故金日成主席誕生105周年→最大の記念日の一つ。軍事パレードか?
25日 朝鮮人民軍創建85周年
5月9日 韓国大統領選投開票日
これを見る限り、これから1カ月以内に有事がいつ勃発しても不思議ではない。
韓国の革新系最大野党「共に民主党」の大統領選挙の公認候補に最終選出された前代表、文在寅(ムン・ジェイン)氏は北朝鮮に対して融和路線をとる。世論調査では文氏の支持率は高く次期大統領の座にもっとも近い人物だ。北朝鮮に融和的な大統領が誕生する前に、韓国の政治的空白期間に、事を起こすという判断をトランプ政権が選択しないとも限らない。これから1カ月が最大のヤマ場であろう。
トヨタの終値は5810円。昨年11月9日の米大統領選以降の上げ幅を帳消しにした。東京市場最大の時価総額を誇る銘柄がトランプラリーの上昇分を吹き飛ばしたことは相場のセンチメントを暗くする。しかし日経平均レベルではトランプ相場のスタート時点に比べてまだ1000円も高い。利が乗っている銘柄もあるだろう。売れるものは売って現金比率を高めておくべきだと思う。今は非常時で、平時におけるバリュエーションとか企業業績とかが通用しない値動きになる可能性がある。
先日、松本大が「つぶやき」で書いていた。お読みになった方もいるだろう。
「訓練という言葉はあまり好きではありませんが、それでも尚、訓練が必要なことはあります。私がここでイメージしている訓練とは、通常の練習ではなく、防災訓練とか避難訓練のような、有事の時の様々な発生事象を予めイメージして、頭を整理し、そして具体的な動き方を想像し、練習しておくことです。マーケットの中でも、安全保障上の問題でも、何が急に起こるか分からない時代です。一方、日々はとてものどかなので、いざという時にアクションを起こすまでに、いや頭が回り始めるまでに、時間が掛かると思うのです。地震や火事などの防災訓練は行われますが、マーケットや安全保障の緊急時訓練もしなければならないと、最近感じます。この「感じます」というのが問題で、感じている暇があれば実行すべきですね。やります!」(3/29付「松本大のつぶやき」)
松本大に従えば、訓練が必要と感じている暇があれば実行すべきである。僕は前段で、「今は非常時だ」と述べた。そうであるなら、訓練している暇はない。即、本番として実行すべきである。
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