1. 市況レポート

ストラテジーレポート

チーフ・ストラテジスト 広木 隆が、実践的な株式投資戦略をご提供します。

広木 隆が投資戦略の考え方となる礎を執筆しているコラム広木隆の「新潮流」はこちらでお読みいただけます。

広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)

利上げに救われたマーケット

マーケットというものは、つくづく「想定外」を嫌うものだと思う。英国の総選挙は、メイ首相の目論見とは反対に、まさかの保守党惨敗に終わった。その結果を受けた東京外国為替市場ではポンドが全面安となり対円では4月以来の安値を付けた。解説では国内政治の混乱やそれによる欧州連合(EU)離脱交渉への影響に対する懸念が強まったから、と言われるが、そもそも市場はメイ首相が進めようとする「ハードブレグジット(強硬的なEU離脱)」を懸念していたのではないか。選挙の結果は英国の世論がひとつにまとまっていないことを示す。「ハードブレグジット」推進派が勢力を失ったとも捉えられるのだから、市場にはポジティブではないか。それにもかかわらずのポンド売りは、ほぼ条件反射的・機械的な、「想定外」となったことへの反応だろう。実際にそういうアルゴリズムがたくさん走っているだろうから、まさに「機械的」な反応になるのも無理はない。

米連邦準備理事会(FRB)は13-14日に開催した連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを決定した。FRBはフェドファンド(FF)レートの誘導目標を、年0.75~1.00%から1.00~1.25%に引き上げた。

注目された今後の利上げペースは、3月と今回を含めて年3回とする中心シナリオを維持、すなわち年内もう1回の利上げを見込んでいるということである。18年は3回、19年も3回程度の利上げシナリオを示した。これは3月の見通しとほぼ同じである。

FRBは声明で、年内にバランスシートの正常化に着手することを正式に表明した。バランスシート縮小の工程表も公表した。それによると満期を迎えた債券への再投資を徐々に減額していく計画だ。米国債が月60億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)などは月40億ドルを上限とし、3カ月ごとに上限を引き上げて1年後には米国債が月300億ドル、MBSなどは月200億ドルとする。

これらのFOMCの決定は、ほぼ市場の予想通り、「想定内」の結果だった。だからこそ、昨日のNY市場のクロージングは穏当なものとなった。NYダウは46ドル高の2万1374ドルで終え、連日で過去最高値を更新した。ドル円相場は1ドル109円50~60銭で取引を終えた。前日より円高になったが、それでも朝方(NY時間)の安値からは大きく戻した。FOMCの結果が「想定内」だったからである。

通常、利上げやバランスシートの縮小などの金融引き締め策は、リスク資産にとって逆風である。特に、ナスダック市場のハイテク株が不安定になっているタイミングとも重なった利上げである。警戒感はあったが、終わってみれば、利上げに救われた格好だ。予想通り利上げしてくれてありがとう、といった感じである。FRBが市場の期待(=予想)通りに動いてくれたことで市場に安心感が生まれ、波乱は起きなかった。

特に救われたのはドルだろう。一時は108円81銭と4月20日以来、およそ2カ月ぶりの水準まで円高・ドル安が進んだ。朝方に発表された5月の経済指標が弱いことを嫌気したものだ。5月の小売売上高は1年4カ月ぶりの大きな落ち込みとなった。5月の消費者物価指数(CPI)も予想に反して前月比で0.1%下落し、エネルギー・食品を除くコア指数も市場予想に届かなかった。コアCPIの前年同月比は1.7%で、2015年5月以来の小さな伸びにとどまった。

これまで、FOMCの結果は「想定内」、前回3月とほぼ同じと述べてきたが、少しだけ修正があった。公表された経済見通しでは、2017年の成長率予想が2.2%と、3月時点から上方修正された半面、17年末時点のインフレ率予想は1.7%と、前回の1.9%から引き下げられた。これは小さいようで、あとあと大きな波紋を起こすことにつながるだろう。

FRB自身がインフレの目標から遠ざかっていることを認めながら、それでも年内あと1回の利上げを見込んでいる。これは大きな矛盾である。このままインフレが加速してこなければ、FRBの利上げ計画は修正を迫られるだろう。「FRBが市場の期待(=予想)通りに動いてくれたことで市場に安心感が生まれ、波乱は起きなかった」と述べたが、市場の織り込みがあまりにも行き過ぎたために、ここで利上げしないという選択肢がFRBにはなかったというのが実のところだろう。利上げを見送っていたら、ドル円相場はいまごろ奈落の底に沈んでいたかもしれない。

本稿のタイトルは、「利上げに救われたマーケット」であるが、「マーケットに強要された利上げ」といったほうがいいかもしれない。今回はすべて想定通りで波乱なしで乗り切ったが、9月はどうか。視点の軸は、市場の織り込み方だ。9月の利上げを市場がここから織り込んでいけばドル高円安が進む。織り込めなければ円高となる。だが、9月の利上げを市場が織り込みにいくケースで、9月にはFRBが市場の期待に応えてくれるとは限らない。波乱の芽は3か月後に持ち越されたように思う。

【お知らせ】「メールマガジン新潮流」(ご登録は無料です。)

チーフ・ストラテジスト広木 隆の<今週の相場展望>とコラム「新潮流」とチーフ・アナリスト大槻 奈那が金融市場でのさまざまな出来事を女性目線で発信する「アナリスト夜話」などを毎週原則月曜日に配信します。メールマガジンのご登録はこちらから

(※)印刷用PDFはこちらよりダウンロードいただけます。

レポートをお読みになったご感想・ご意見をお聞かせください。

過去のレポート


マネックスレポート一覧

当社の口座開設・維持費は無料です。口座開設にあたっては、「契約締結前交付書面」で内容をよくご確認ください。
当社は、本書の内容につき、その正確性や完全性について意見を表明し、また保証するものではございません。記載した情報、予想及び判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を推奨し、勧誘するものではございません。過去の実績や予想・意見は、将来の結果を保証するものではございません。
提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されることがございます。当社は本書の内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。本書の内容に関する一切の権利は当社にありますので、当社の事前の書面による了解なしに転用・複製・配布することはできません。内容に関するご質問・ご照会等にはお応え致しかねますので、あらかじめご容赦ください。

利益相反に関する開示事項

当社は、契約に基づき、オリジナルレポートの提供を継続的に行うことに対する対価を契約先金融機関より包括的に得ておりますが、本レポートに対して個別に対価を得ているものではありません。レポート対象企業の選定は当社が独自の判断に基づき行っているものであり、契約先金融機関を含む第三者からの指定は一切受けておりません。レポート執筆者、並びに当社と本レポートの対象会社との間には、利益相反の関係はありません。