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広木 隆 プロフィール Twitter(@TakashiHiroki)
円高はどこまで進むか 「1年3カ月ぶりの円高」の意味
先週金曜日にドル円相場は1ドル105円台半ばまで円が買い進まれ、1年3カ月ぶりの円高水準を記録した。足元では107円台まで円安に戻っているが、これで円高もピークアウトしたと言えるのだろうか。結論から言えば、YES 一旦いいところまできたというのが僕の考えである。
今回の円高の背景はなんだろう。いろいろ言われているけれど、どうも納得的な理由が見えない。いちばん説得的なのは、やはり米国の財政悪化懸念の高まりだろうか。
そこで思い起こされるのがレーガン政権時の「双子の赤字」とその対策としておこなわれたプラザ合意である。レーガノミックスによる減税と財政支出の増加により「双子の赤字」が急拡大、ドルの暴落が懸念された。そこで協調してドルのソフトランディングを図ったのがプラザ合意である。
プラザ合意から30年が経った2015年に、産経新聞が当時財務官だった大場智満氏へのインタビューを掲載している。「ドルを弱くする」というフレーズが、最終的に「非ドル通貨の秩序ある上昇が望ましい」という文言になったことについて大場氏はこう述懐している。
「ベーカー財務長官が、大統領に持っていくとき、『弱いドル』では許可が下りないと。やはり米国大統領というのは、『強いドル、強いアメリカ』なんだな。だから、円と欧州通貨が強くなることが望ましいと変えた」
1月のダボス会議でムニューシン財務長官がドル安容認発言をした直後、トランプ大統領が強いドルを望むと打ち消したことが想起されよう。米国の本音はドル安でも、アメリカの大統領はそれを口にしてはいけないのである。
ここにヒントがある。「1年3カ月ぶりの円高」というが、1年3カ月前に何があったか思い出そう。米国の大統領選である。1ドル105円台半ばというのはトランプ大統領が誕生したときの為替レートである。ここを下回ると、トランプ氏にとって「自分が大統領になってドルが安くなった」という事実ができあがる。アメリカ・ファースト、強いアメリカを標榜するトランプ氏にとっては、この一線は譲れないところではないか。
トランプ政権の保護主義的なスタンスからは、どうしてもドル安容認、ドル安誘導との連想が働きやすい。しかし為替政策によって輸出振興を図ろうという考えはないだろう。米国は経常赤字国であり、高関税にドル安の組み合わせではそれこそ海外から何も買えなくなって困るのは米国民である。これまで1年以上、トランプ政権を観察して見えてきた事実は、トランプ氏はやはりビジネスマンだということだ。ディールメーカーなのである。支持基盤に向けたパフォーマンスは派手だが、実利を重視する。だから、最終的に自分で自分の首を絞めるようなドル安政策は望まないだろう。
重要なのは、これまでもドル安の希求はなかった、という点だ。ドル安を志向したのではなく、「ドル高の是正」である。プラザ合意は、高金利で米国に流入した資本の逃避を恐れ、高過ぎたドルが暴落するのを事前に防ぐための協調であった。高過ぎたのでもとに戻したのだ。安くなればなったで、それも困るからルーブル合意でドル安に歯止めをかけようとした(ルーブル合意の協調は不和に終わり、それはブラックマンデーの遠因となったと言われる)。
「強いドルは米国の国益にかなう」。1995年に財務長官に就任したロバート・ルービン主導で始まったドル高の時代もITバブル崩壊とともにドル安に変わっていくが、結果として「強いドル」の是正に終わっている。(その後のドル安は、言わずもがなリーマン危機によるドル安であり、つまりはショックによる「下振れ」である。)
米国が基調としてのドル安を追求したケースは近年なく、いずれもドル高の是正であったことがポイントである。
ドル・インデックスの長期平均は97だが、80年代の強烈なドル高の期間を含むため、その期間の平均値には偏りがあり過ぎるだろう。80年代のドル高がプラザ合意で是正された後、90年以降の平均をとると90である。グラフからもわかる通り、この90という水準がドルの調整完了の目途となっている。現在はちょうどこの水準であり、直近の(非常に小さな)ドル高の是正は完了したと思われる。
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